あの男？
「やはり、お前・・・・か？」
その男は知らない奴だった。いや、どこかで見たことがあるような・・・。
「ふふふ。俺様は元ギース聖騎士団の２番隊隊長、ウルスだ！ 貴様をこれ以上、先には進ませぬ！」
ギース聖騎士団と言えば、ゴブリン退治の時に遭遇してひどい目に会った。その時、俺らを捕まえるように指示した隊長だった。確か、ゴブリンにやられて町で治療を受けて王宮の戻ったはずだが・・・。
「なぜジョーカーの手下になった？ 聖騎士団であるのに。」
「ふふふ。ジョーカーの強さに感服したのだ。だからジョーカーに入った。俺は強い方につく。」
俺の見るところウルスは卑怯者で腰抜けだ。だがそんな奴だからジョーカーになったのだ。
「ジョーカーは世界征服を企む悪の組織だ。わかっているのか！」
「そうだ。ジョーカーは巨大だ。貴様ごときではどうにもならん！ 貴様もジョーカーに入ったらどうだ。ジョーカーはいいぞ。 ふふふ・・・」
ウルスは笑いながらそう言った。だがヒーローとして俺はそんな奴を許すわけにはいかない。
「いいや。必ずお前を、いやジョーカーは俺が倒す！」
「ふふふ。ではまず俺様を倒してみろ！ 貴様の相手をしてやる！」
ウルスは見るからに普通の人間の剣士だ。魔物を倒してきたラインマスクにどうやって戦いを挑むのか・・・俺は不思議に思った。
「貴様、俺様が貴様に敵わないと思ったのだろう。ふふふ。だからこうしてやる！」
ウルスは懐から袋を出した。それを広げると中に白い粉が入っていた。それを頭から振りかけた。
「それは一体・・・」
「これはキノコ怪人が特別に作った強化胞子の粉だ。これで俺様はパワーアップした！」
するとウルスの体に異変が起こった。体中にカビやらキノコが生えてきたのである。奴は剣を抜いて試しに近くの岩を斬りつけた。すると「バーンッ！」と岩が粉々に砕けた。奴はすごいパワーを手に入れたのだ。
「いくぞ！」
ウルスが剣を振り上げて向かってきた。俺は落ちていた剣を拾って立ち向かった。
「カキーン！」
剣と剣がぶつかり火花が飛ぶ。ラインマスクのパワーに負けないのだからウルスの力は怪人以上だ。ウルスは次々に剣を繰り出してくるが、俺はそれを受けてなお剣を振り回していく。なかなかの名勝負だ。
だがここでゆっくり戦ってはいられない。まだ下がありそうだし、勇者ノブヒコがまだ出て来ていない。そしてなにより武器での戦いに飽きてきた。やはりラインマスクはパンチやキックの肉体技で戦わねば・・・。
しかしウルスは、
「ラインマスクめ！ なかなかやるな。しかし俺の剣はまだまだ強いぞ！ 貴様も本気になって剣を振るえ！」
などと声をかけてくる。奴は剣で勝負を決めたいようだ。押しつけの強い奴だ。確か前世でもこんな奴がいた。子供の頃、TVゲームで勝てないからと言って何度も挑んでくる近所の友達がいた。こっちがそのゲームに飽きてきているというのにしつこく・・・そんなことはどうでもいい。
やることは一つ、実力差を見せつけてやること。相手がかなわないと思うほど。
「ラインデフェンダー！」
俺はエネルギーを防御に回した。これで大丈夫だ。俺は技と剣を降ろして隙を作って見せた。するとウルスは剣を振るってきた。俺の体を奴の剣が切り裂く・・・・ことができなかった。俺の体は奴の剣を跳ね返したのだ。
「そんな馬鹿な・・・」
ウルスは何度も何度も剣で斬りつけた。だがエネルギーで体表面にバリアを張っているラインマスクにそんな剣で傷つけることはできない。
「こっちの番だ！」
俺は剣を投げ捨て奴にパンチを食らわせて行った。強化されているとはいえ、ラインマスクのパンチを受ければかなりにダメージと痛みを伴う。ウルスは血まみれになって倒れ込んだ。俺はわざと指を鳴らして脅してやった。
「うわあ！」
ウルスは恐怖で逃げだした。やはり奴の本性は腰抜けだった。だがジョーカーは逃げたところでそれを許す組織ではない。奴は急に前方に現れた人影によって斬られた。
「ぐおー」
とウルスが断末魔の叫びをあげてばったり倒れた。
「こいつがこの階のボスキャラか！」
うす暗くて相手ははっきり見えない。だが今度こそあの男が・・・
しかしその人影は向かって来ようとしなかった。その前に急に地下３階に下りる階段が現れ、その人影は下りて行った。
「待て！」
「俺と勝負をする気があるなら下りてこい！」
と不気味な低い声が聞こえた。いよいよ地下３階だ。そろそろ俺はダンジョンに飽きかけている。これが最後の階であってほしいと思いながら、ペロとともに階段を下りて行った。
