ジュニアウルフ
気が付くと俺はアキバレーシングの店のソファに寝かされていた。そばで話し声が聞こえる。俺は身を起こした。
「気が付いたようだな。」
おやっさんが気づいて声をかけてきた。そこにはシゲさんとジロウがいるだけだった。
「俺は?」
「戦いの後で気を失ったようだ。町の皆がここに運んでくれた。」
「勇者ノブヒコたちは?」
「皆無事だ。まだ北門にいるだろう。代わりの警備兵が来るまではそこで守っているそうだ。」
俺はほっとしてソファに座り直した。あのキングウルフは強敵だった。無敵と思われたラインマスクと渡り合うとは・・・。そしてまた来るという。俺の魔法力はまだ回復してない。今、奴が来たら敵わないかもしれない・・・
「お前、ホバーバイクをひどく壊してくれたな!」
おやっさんの言葉にはっとした。キングウルフにぶつかってやられたのだ。
「すいません。おやっさん。ちょっと敵にぶつかって。」
「まあいい。仕方ない。修理しておこう。それまで別のホバーバイクを使ってくれ。」
ラインマスクに変身すれば、どれでもスタースクリームになるのだから心配はない。それよりキングウルフを倒す方法を考えなければ・・・
そう思っているうちに勇者ノブヒコたちが戻ってきた。3人ともひどく疲れた顔をしている。
「どうだった?」
おやっさんが聞いた。
「今のところ、門はやられていませんから大丈夫と思いますが、しかしさすがにキングウルフが出てきたからには門が破壊されてしまうかもしれません。」
「そうか。」
「それに我らではキングウルフに対抗することはできないかもしれません。」
「うむむむ・・・それは困ったな。」
おやっさんはため息をついていた。
「ただいま!」
そのときロコが店に戻ってきた。ペロの散歩に行っていたのだ。おやっさんをはじめ、皆の暗い雰囲気に、彼女は
「どうしたの? 何かあったの?」
と無邪気に聞いてくる。この町の騒動に気付かなかったのか、関心がなかったのか・・・。あまりにも気楽に見える彼女に俺もおやっさんも説明する気をなくしていた。
散歩から帰ってきたペロもそうだった。気分よく尻尾を振って俺にお愛想している。ミキがペロの頭を撫でた。
「かわいいわね。」
「この異政界でも犬はいるのね。」
アリシアは前世の記憶があるから、もちろん犬のことは知っている。彼女もミキといっしょにペロを撫でていた。するとさらにうれしそうに尻尾を振る。飼い主に似て無邪気そのものだ。
「お前は気楽でいいなあ!」
俺はそう言ってペロを抱き上げた。するとそれを見て勇者ノブヒコの目の色が変わった。
「お前、それ?」
「えっ! こいつか? ロコが拾ってきたんだ。なついているからここで飼っているが。」
「お前、それ、ウルフだぞ。もしかしたらジュニアウルフかもしれない。」
「ジュニアウルフ?」
また知らない言葉が出てきた。ウルフの子供だからジュニアか・・・。
「知らないのか? ジュニアウルフが成長してグレートウルフになる。その中でも特別な力を持ったのがキングウルフだ。」
勇者ノブヒコはそう説明してくれた。だとすると・・・
「キングウルフは『家族に手を出した』とか言っていた。こいつのことじゃないか。」
確かに勇者ノブヒコの言うとおりだ。ロコが助けたいと思ってここに連れてきたが、キングウルフたちにとって家族をさらわれたと思っているのだ。
「では彼らにこのペロを返せばいいんだな。」
「多分、それで誤解が解けるだろう。」
勇者ノブヒコはそう言ってうなずいた。
「それなら簡単だ。次に彼らが現れたらペロを返してやろう。それで解決だ。」
俺はそう言ってみたものの、なぜか嫌な予感がしていた。もしかしてこれから起こることを予感していたのかもしれない。




