子犬
アキバレーシングの店の前に深い紺色の子犬が座っていた。俺を見てかわいらしく「ワン!」と吠え、尻尾を振っている。魔獣のいるこの異世界でも犬は存在するようだ。俺はその子犬を抱き上げた。
「どこから来たんだ?」
首輪などはない。前世で見た犬とは微妙に違うようだ。
ロコが店から出てきた。その手には肉を乗せた皿を持っている。俺は聞いてみた。
「ロコのなのか?」
「ううん。町の外に倒れていたの。可哀想だから連れてきちゃった。でも元気になってよかった。」
「そうか。ここにも犬はいるんだな。」
「イヌって言ったけど、イヌってこの動物のこと?」
「えっ! そうだが・・・」
そういえばこの町で、いやこの世界に来て犬を見たことがない。数が少ないのか、ペットとして飼う習慣がないのか・・・。
「知ってるの? この動物のこと。」
「ああ。飼ってくれる人によく慣れて癒してくれる。だが侵入者に対しては吠えて追っ払ってくれる。」
「そうなの。じゃあ、ここで飼いたいな。こんなにかわいいんだもん!」
ロコは肉が乗った皿を子犬の前に置いた。すると子犬はうれしそうに尻尾を振りながら食べていた。
しばらくしておやっさんが店から出てきた。子犬を見て眉間にしわを寄せた。
「ダメだぞ。動物なんか、ここじゃ飼えない。多分、森から来たんだろう。返してくるんだ。」
子犬を拾ってきた子供に対する母親の言い方だ・・・俺も小さい時、そう言われて、拾った子犬を元の場所に戻したものだ。
「ねえ、おやっさん。いいでしょう。こんなにかわいいし、番犬にもなってくれて役に立つのよ。」
「ダメだ。ダメだ!」
ロコがお願いするが、おやっさんは首を横に振っている。
「多分、親からはぐれたのだと思います。森に返しても魔獣にたちまちやられてしまうでしょう。可哀想ですよ。」
俺も応援してやった。
「しかしなあ・・・」
おやっさんは渋い顔をしている。だがその子犬がおやっさんのそばに来て「クウィーン! クウィーン!」と甘えるような鳴き声をあげた。おやっさんが「よしよし」と頭をなでると、子犬はその手をなめた。
「おお。こいつ、私が好きなのか。よしよし。」
おやっさんはまんざらでもないように抱き上げると、子犬はその顔をなめていた。
「くすぐったい。くすぐったい。」
おやっさんはうれしそうな声を上げていた。俺は楽しそうなおやっさんに声をかけた。
「あの~。おやっさん。」
「こいつ、かわいいじゃないか。うちで飼おう。名前を決めよう。」
「じゃあ、ペロがいいわ。そうしましょう。」
ロコがそう提案した。そんなことでアキバレーシングでペロを飼うことになった。もちろん世話するのは・・・俺だ。ロコは「よくわからないもん!」言って俺に丸投げした。
毎日、犬の餌を用意し、散歩に連れていき、ついには犬小屋まで作った。ただ嫌だということはない。ペロはこちらが愛情をかけた分以上に返してくれる。
(小さい頃、いや大人になってからも犬が飼えなかった。そう思うとこの異世界は幸せなのかもしれない。)
俺はしみじみと感じていた。




