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届かぬ物資

 ライムの町は多くの人が住み、栄えているが、如何せん、森の中にある。必要な物は別の町から森の中の道を通って運んでこなければならない。そのために周りの町からホバートラックが定期的に運行されていた。

 ホバートラックと言っても特別にどうという形はしていない。大きな荷室に運転席、タイヤがなくて平たいホバー装置がついている。それで車体を浮かせて走るのだ。それはホバーバイクと同様なシステムでできており、魔法力で動く。


 しかしそのホバートラックが最近、ライムの町に来なくなっていた。町に必要な物資が届かなくなっていたのだ。そのことはライムの町の新聞に大きな記事で扱われていた。ここではテレビもラジオもないから、情報を知るのには新聞程度しかない。

 おやっさんはいつも朝はパイプをくわえながら、老眼のために細い眼鏡を鼻にかけて新聞を読んでいる。その姿はTVのラインマスクに登場する「おやっさん」の立川藤平そのものだ。今朝はホバートラックが来ないという記事をじっと読んでいた。

 やがて顔を上げてそばにいる俺に話しかけた。


「おい、大変だ! 物がよそから入ってこないぞ! ホバートラックが森で襲われている。」

「そりゃ、大変ですね。一体、なにがあったのですか?」


 記憶はなくしたがこの異世界の文字は読める。俺もちらっと新聞の記事を見て気になっていたのだ。


「どうもゴブリンに襲われたらしい。」

「ゴブリン?」


 俺が気になっていたのはゴブリンだ。ゴブリンといえば異世界ファンタジーに出てくる魔物だ。猛々しい顔に緑色の体で腰布を巻いている・・・という印象がある。この異世界にはそれがいるというのか・・・。


「そうだ。ゴブリンだ。森の奥地にいるという。たまに人と遭遇して襲うこともあるが、ホバートラックを襲うことなど今までなかった。」

「変ですね。」


 俺は眉をひそめた。こんな時は必ずあれが関わっているのがお約束だ。俺がそれを言い出す前におやっさんが言った。


「まさか、ジョーカーか?」

「そうかもしれません。調べに行きましょう。」


 ヒーローとしてはこうしてあちらこちらに頭を突っ込まねばならない。そうじゃないとラインマスクの出番はなくなってしまうだろう。


「そうだな。行くか!」


 おやっさんは新聞を投げ出し、パイプを机の上に置いて立ち上がった。そうと決まれば行動しなくてはならない性分のようだ。

 俺はまたヒーローとして活躍できることにワクワクしながらも、少し不安を感じていた。


「ゴブリンなんか、ゲーム画面でしか見たことがない。実際、どんな奴なんだ・・・」


 TVのラインマスクが対戦したことがない相手だ。俺の想像を超える奴なのかもしれない・・・。


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