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帰ってこないジロウ

 あのレースから数日過ぎた。恐れていたジョーカーの襲撃もなく、俺は平穏な日々を過ごしていた。この異世界は前世と違ってあくせくしたところがない。ゆっくりと時間が過ぎているようにも感じる。


(異世界でスローライフを送るという漫画があったが、全くその通りだな。)


 俺はこの異世界の()()()()に満足していた。ヒーローとしては物足らないが、普段の生活はこれぐらいの方がいい。波風が立たないのが・・・。

 だが気がついていないだけで事件は起こっていたのだ。俺は思わぬところからその事件のことを聞くことになった。

 シゲさんがおやっさんに相談していた。


「ジロウが帰ってこないんですよ。昨日から配達に行ったきり・・・。」

「そのまま遊びに行ったんだろう。」


 おやっさんは何のこともないという風に言った。だがシゲさんは首を振った。


「でもジロウなら二日酔いでもこの時間には顔を見せます。それに配達に行ったというのがあの『ハイグレータウン』なんですよ。」

「『ハイグレータウン』か・・・。それは少し心配だな。」


 そばで聞いていた俺はおやっさんに尋ねた。


「その『ハイグレータウン』に何かあるのですか?」

「いや、それが町の外にある古ぼけた洋館でな。もう長いこと、誰も住んでいなかった。それが最近、剣士見習の若者たちが度胸試しに住み始めたんだ。」


 おやっさんの後にシゲさんが言葉を続けた。


「それが見るからに気味の悪い洋館でな。化け物や幽霊が出るって噂だ。今頃はジロウは幽霊になって『うわあ』と叫んで戻ってくるかも・・・」


 シゲさんが怖い顔をして横にいるロコをおどかした。


「きゃあ!」


 ロコは悲鳴を上げて店の隅に逃げて行った。


「こら! シゲさん。ロコを驚かすな! それよりソウタ。見に行ってくれないか。ジロウのことが気になる。」

「ええ、いいですよ!」


 実は俺は幽霊が怖い。実体がわからなものほど怖いものはないのだ。だがヒーローとして逃げるわけにはいかない。行くには行くが一人では・・・。


「おやっさんは?」

「すまんな。今、仕事が立て込んでいて。」


 おやっさんは一緒に行ってくれそうにもない。シゲさんの方に顔を向けると、右手を振って激しく拒否している。もちろんロコは怖がったままだ。


(俺一人で? 幽霊屋敷に? うそだろ?)


 俺は心の中でひどく動揺していた。その時、ミキが店に入ってきた。彼女は毎日のようにここに来る。いつも何をしているのかと聞いてみたら、父の仇のジョーカーのことを調べているという。だがこう毎日、ここに来ていたら全くはかどっていないだろう。ただ普段、ツンデレがあんまり出なくなっているのが助かる。

 ミキはおやっさんから「ハイグレータウン」の話を聞いて目を輝かせた。


「面白いじゃないの。ソウタ。いっしょに行くわ。幽霊の正体をひん剥いてやるわ!」


 威勢のいいことを言う。確かに彼女は魔法使いだ。こんなことは慣れているのかもしれない。俺は一人でそんな場所に行かなくてほっとした。だがそんなことはおくびにも出せない。


「そうだな。ジロウが心配だしな。おやっさん。ちょっと行ってきますよ!」


 俺はできるだけさわやかな笑顔を作っていった。心の中とは裏腹に・・・。


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