サーカス団の異変
おやっさんたちはワタルをアキバレーシングの店に連れて行ったソファに座らせた。そしておやっさんは奥に向かって声をかけた。
「おい。ロコ。ワタル君にジュースでも持ってきてくれ!」
「はーい!」
奥から声が聞こえた。おやっさんはやさしくワタルに話しかけた。
「心配することはないよ。おじさんたちにもっと詳しいことを聞かせてくれないか。」
ワタルはまだ不安げだったが少しずつ話し始めた。
「昨日、サーカス団が帰ってきたんだ。だから僕は皆に会いに行った。でも何だか冷たいんだ・・・」
「久しぶりだからそう感じたじゃないか?」
ゴウがそう言ったが、ワタルは大きく首を振った。
「いや、違うんだ。父さんや母さんは、いつもなら僕を抱き上げて『留守の間はどうだった』とか、『元気だったか』とか嫌になるくらい聞いてくるんだ。それに旅先での話もいっぱいしてくれる。でも・・・」
「そうじゃないんだね。」
「うん。僕に会っても声もかけてくれない。表情を変えず、ただ冷たい目で僕を見ているんだ。僕が話しかけても答えてもくれない。」
「そいつは妙だな。」
おやっさんは首をひねった。ワタルはさらに話し続けた。
「それも父さんや母さんだけでもないんだ。他の団員のお兄さんやお姉さんも同じようなんだ。僕が遊びに行けば、誰でも相手をしてくれるのにそうじゃない。青い顔をしてまるで人形のように表情がなくなっているんだ。もちろん僕が話しかけても無視さ。」
「それは確かにおかしい。」
おやっさんは顎をしゃくった。その時、テーブルにジュースが置かれた。
「何が起こっているか、調べる必要があるな。」
その声を聞いておやっさんは驚いて顔を上げた。ジュースを運んできたのはなんとヤマトだった。横に座っていたゴウもそれにびっくりして声を上げた。
「おまえ! いつの間に・・・」
「ははは。俺は神出鬼没さ。それよりその話に興味がある。」
「お前っていう奴は・・・」
おやっさんはあきれたように言った。
「フリー記者だから当然さ。それよりワタル君。サーカス団の全員がおかしくなったというわけだな。」
「うん。人が変わったみたいに・・・」
「そうか。わかった。ここは俺たちに任せてくれないか。決して悪いようにはしないから。」
ヤマトはワタルにそう言った。おやっさんもワタルに言った。
「そうだな。ワタル君。おじさんたちが調べてみる。」
「きっと本当の父さんや母さん、いやみんなを取り戻してね! 約束だよ!」
「ああ、約束する。だから信じて家で待っていてくれ。」
「うん!」
おやっさんの言葉に安心してワタルは家に帰っていった。その後姿を見送りながらゴウが言った。
「さて、どうする?」
「決まっているさ。サーカス団を調べに行くんだ。」
ヤマトはニヤリと笑った。
「でもなあ。『あなたは人が変わってしまいましたか?』と聞いても答えてもくれないぜ。」
「だから取材と言ってサーカス団の人たちに話を聞くんだ。何かつかめるかもしれない。」
ヤマトは確信がある口調でそう言った。