撃破
「待てぃ!」
そこに俺が飛び込んでその糸を切った。そのはずみでクモ怪人はのけぞった。
「貴様! 生きていたのか!」
「ああ、そうだ。煙に紛れて隠れていた。こんなことになるとわかっていたからな」
颯爽と現れた俺はかっこいいだろう・・・と自己満足しながら、ミキの首に巻き付いた糸を裂いて取り除いた。
「あ、ありがとう」
「さあ、向こうへ。おやっさん。頼みます」
「よし、わかった!」
俺はおやっさんにミキを渡した。2人はその場を離れていった。これで思う存分戦える。まずは向かってくるスレーバーを次々に叩きのめした。
「おのれ!」
クモ怪人が向かってきた。俺はジャンプして目をつけておいた岩の上に飛び乗った。
「ラインマスク! 変身! トォーッ!」
ジャンプしてまた岩の上に降り立った。ラインマスクへの変身はやはり心躍る。それにあの決めセリフ・・・。
「天が知る。地が知る、人が知る。俺は正義の仮面、ラインマスク参上!」
「・・・」
クモ怪人のリアクションが薄いので困るが、それは仕方がない。3度も聞かされればいい加減、嫌になるのだろう。俺は岩から飛び降りてクモ怪人に向かっていった。おどろおどろしい姿をしているが、こいつの攻撃はたいしたことはない。両手の爪で引っ掻いてくるだけだ。俺は軽くいなしてパンチを2,3発食らわせた。
「グオッ!」
クモ怪人は後ろに下がり、今度は糸を吐いてきた。俺はそれをさっと避けるが、奴は何度も糸を吐いて俺をからめとろうとする。
(このまま一方的に攻撃しても逃げられるだけだ。ここはひとつ糸の絡まってみて・・・ピンチになってから倒した方がヒーローとしてかっこいい!)
俺はそう思い直してわざと奴の糸につかまってやった。するとさらに糸を吐いて俺に絡みつけた。
「もう動けまい! あとはこの爪でお前を貫いてやる!」
クモ怪人は自信満々に近づいてくる。俺は体をゆすってみる。確かにしっかり縛られている。向こうを見るとおやっさんとミキさんが心配そうにこちらをのぞいている。舞台は整った。
「ラインマスク! 死ね!」
クモ怪人が右手の爪を突き出してくる。俺は両腕に力を入れて糸を引きちぎり、向かってきた爪を手刀で叩き折った。そしてパンチを腹に叩きこんだ。
「グオッー!」
クモ怪人は後ろによろめいて膝をついた。今度はダメージの大きさに動けないようだ。
「今だ!」
俺は思いっきり飛び上がった。空中で大きく回転して・・・実際、その通りに体が動いているかわからないが、頭の中のイメージは完璧だ。そして思いっきり右足を延ばしてキックの態勢で怪人に向かっていく。
「ラインキック!」
それは理想通りにクモ怪人をとらえた。強い衝撃でクモ怪人は吹っ飛んでいった。俺はそのまま地面に着地して、ゆっくりと立ち上がった。
「ドッカーン!」
クモ怪人は地面に叩きつけられ、大爆発を起こした。火花が飛び散り、爆風が砂煙を上げ、火柱が上がる。
「きまった・・・」
燃え盛る火炎に照らされた俺は自己陶酔していた。やはりクライマックスはこう決めなければ・・・。今の出来は完璧に近い。
「おーい! やったな!」
おやっさんがミキさんといっしょにそばに来た。もう少しこの快感に浸りたかったが、いつまでもそうはいかない。俺は変身を解いた。
「おい、ソウタ。今のは何だ? お前は変身できるのか?」
俺は(今頃になってそれを聞くか?)と思ったが、おやっさんにしたらいろいろ聞くことがあるだろう。説明しなければならない。
「俺は正義の仮面、ラインマスクに変身できます。」
「なんだそりゃ?」
やはりこの異世界の人間にはわからないらしい。正義のヒーローがここにいないからか・・・。
「奴らの改造された力を使って戦えるということですよ。」
俺はそう説明したが、わかってもらえたかどうか・・・。横にいたミキがすまなそうに言った。
「てっきりあなたがしたのだと・・・。ごめんなさい・・・」
「いいんです。わかってもらえたら。」
俺はヒーローらしく寛容に努めようとした。だが・・・。
「・・・でもいい気にならないでね。」
「へっ?」
「私だってあの怪人がパパを殺したのがわかっていたわ。だからやっつけようと思っていたの。」
「ええ!」
「あなたが勝手に倒したのよ。私の仇を。」
ミキは「ふん!」と顔を左上に向けた。あまりのことに俺は何と言っていいかわからなかった。困っている様子を見てミキは言った。
「まあ、特別に許してあげるわ! 喜びなさい! じゃあ、またね!」
ミキは手を振って行ってしまった。俺とおやっさんはポカーンとして見送っていた。
「なんだ? ありゃ?」
「いや、何でしょう・・・」
そう答えながらなんとなくわかった。あの態度はレイコと全く同じだ。当時は嫌な女だと思っていたが・・・
(もしかしてツンデレ? そうか、気づかなかった・・・)
レイコは悪態をついては俺に付きまとっていた。あの頃はツンデレの概念さえなかったからわからなかったが・・・。同じように俺にミキが付きまとうような気がした。
(あのツンデレに振り回されるのか・・・)
俺はため息をついた。




