秘めた出発
俺が倉庫裏から出てくると、ミキが見つけて駆け寄ってきた。
「どうしたのよ? みんな片付けで忙しいのに。」
「すまなかった。でも聞いてほしい話がある。ちょっとそこまで来てくれ。」
俺が言うとミキが頬を赤らめて周りを見渡した。
「ソウタ。いきなりね。困るわ・・・」
ミキは何か勘違いをしているようだった。乙女の顔をしている。あまりにもったいぶると余計にややこしくなるようだったので、事情をこの場で話すことにした。幸い、誰もこちらに注意していない。
「違うんだ。ミキ。ジョーカーのことだ。」
俺は声を潜ませて言った。
「えっ! ジョーカーのことなの! それを早く言いなさいよ!」
ミキはツンデレに戻った。
「実はさっき倉庫の裏でゴウから知らされた。近くのアール山の地下に、人を改造するジョーカーの基地があるそうだ。」
「えっ! どうしてゴウがそんなことを知っているの。」
「それはわからない。だが聞かされた以上、その人たちを助けに行かねばならない。怪人にされる前に。」
俺はそうミキに言った。俺一人で乗り込んで人々を救出して基地を破壊しなければ・・・そうでないと不幸な人たちが増えていく。ミキは少し考えて言った。
「罠なんかじゃないの?」
「それも考えた。しかし罠にしては妙だ。稚拙すぎる。ゴウを完全に信用しているわけではないが、今すぐ俺一人でもやるしかない。今から行くからおやっさんにうまく言っておいてくれ!」
「だめよ。一人じゃ。私も行くわ。アキバさんには置手紙でもしていればいいわ。」
「ではそうするよ。」
「一応、勇者ノブヒコやアリシアにもテレパシーを送っておくけど、2人は今、遠くにいるから間に合わないと思うわ。」
そういう話になり、俺はそっと置手紙をしてミキとともにホバーバイクでアール山に向かった。この時はおやっさんと長い別れになるとは思いもしなかった。
後から聞いた話では俺の置手紙を見て、おやっさんは帽子を床に叩きつけたそうだ。
「せっかく優勝のパーティーをしようと思ったのに勝手な奴だ! せめて手紙じゃなくて直接、俺に言って行けよ!」
「まあまあ、おやっさん。でもこの手紙の様子じゃ、かなり急いでいるようですよ。ジョーカーの情報が急に入ったのでしょう。」
シゲさんがなだめてくれたようだが、それでもおやっさんはぷりぷり怒っていた。その時に、
「それはそうとレースに勝ったんでしょ。ゴウさんはうちに来るんですか?」
ロコがその場の空気を読まずにおやっさんに話しかけた。
「知るものか! あんな奴、うちにはいらん!」
おやっさんの機嫌はますます悪くなった。レースに優勝したが、俺のせいで祝勝ムードは吹き飛んでしまったようだ。みんなには悪いことをした。
だがそれでも俺はやらねばならない。正義のヒーローなのだから・・・。




