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デッドヒート

 いよいよレース本番の日になった。俺のマシーン、アキバスペシャル2号は快調だ。ライバルのゴウの漆黒のマシーンに引けを取らない。練習走行でもゴウに迫るタイムを叩きだした。後は俺の調子次第・・・というところか。

 ピットにはおやっさんをはじめアキバレーシングの面々がおり、そこにはミキも駆けつけていた。


「絶対に勝ちなさいよ! 負けると許さないから!」


 ミキは怖い顔で脅すように俺に言った。よほど前回の負けにがっかりしたのだろう。


「ソウタ! ゴウは焦っているぞ。お前のタイムが急に縮んだからな。お前なら勝てる。いつも通りにして行け!」


 おやっさんは激励ともプレッシャーともなるような言葉をかける。どうも少し舞い上がっているようだ。それはシゲさんもジロウも同じようだった。ただロコだけが楽しそうにペロと遊んでいる。

 俺は不思議とリラックスしていた。ジョーカーとの戦いに比べれば、この重圧はなんてこともない。ただ前回の借りはある。今回は勝たねばならない。それにおやっさんがゴウと賭けをしてしまったからなおさらだ。俺は負けるとゴウのいるチームに行かねばならない。


 いよいよレーススタートとなった。各マシーンが並び、合図とともに飛び出して行った。まずは先頭に立ったのはゴウだった。やはりあの漆黒のマシーンは侮れない。加速は向こうが一枚上かもしれない。

 だがこちらはおやっさんが丹精込めたマシーンだ。きめ細かく設定がされている。スピードなら負けない。アップダウンの激しいコースで時には大きくジャンプし、コーナーをぎりぎりまで攻め、森の中を抜けて1周目を終えた時には後続をかなり引き離していた。やはり今回もゴウと俺の一騎打ちだ。俺はゴウの後ろにぴったりとついている。


「行け! ソウタ!」


 ピットでおやっさんが帽子を手に持って振っているのがわかる。いつもならサインを送るのだがそんな余裕はない。レースは3周だからあと2週で何とかしなければならない。はやる気持ちをなんとか抑えている。

 それはゴウの方も同じようだった。俺を振り切ろうとマシンをぎりぎりまで攻めている。前のレースの時よりテクニックが冴えていた。俺も懸命にマシーンを操るが状況は変わらない。このまま3週目に突入した。


「ソウタ! ラストだ! 思い切って行け!」


 ピットのおやっさんはさっきより激しく手に持った帽子を振っている。その横にいるシゲさんもジロウもミキもロコも手を振って


「ソウタ! がんばれ!」「がんばれ!」


 と大きな声で応援してくれていた。だがそれだけでない。


「ギャア! ギャア!」


 とペロまでも立ち上がって吠えている。この犬、いやウルフは驚くほど空気が読める。これほどみんなの声援を受けると俺は必死にがんばらなければならない。

 追い抜く場所は限られる。俺が狙いをつけたのはマシーンをジャンプさせるところだ。コースの位置取りとマシンの引き起こし方でジャンプの大きさが決まる。通常は大きなジャンプを抑えるのだが、俺は逆のことをしようと考えた。セオリーには反するが、ホバーバイクの特性を利用することによっては空中のスピードが稼げるはずだ。


(そこに最後の望みをかける!)


 ゴウのマシンも彼の調子もすこぶるいい。それしか勝機がないように思った。


 いよいよそのジャンプの場所になった。ゴウはやはりマシンを抑えてジャンプの距離を短くする。俺は逆にマシンを大きく引き起こした。


「ブォォォォーン!」


 マシンがうなりを上げて大きく空中を飛ぶ。やはり思った通りスピードは落ちない。いやそれどころか加速している。そしてそのままゴウのマシンを飛び越えて先頭に立った。


(やったぜ!)


 俺はそのままスピードを上げた。ゴールまであと少しだ。背後からゴウが必死になって追いかけてくるのがわかる。ぴったりと俺のマシンの後ろに食らいついている。


 ゴールが見えてきた。おやっさんたちが懸命に応援している。俺はそのまま突っ込んだ。一方、ゴウはゴール前の直線で俺の背後からスピードを上げて横に並んで追い抜こうとした。果たして・・・



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