誤解
気を取り直して俺は山小屋の方に向かった。クモ怪人は追い払ったが、カワミさんが心配だ。俺は変身を解いて山小屋に戻った。
「カワミさん! しっかりしてください!」
俺はカワミさんを抱き起した。だが返事もせずにぐったりしている。顔を近づけてみたが、もう息をしていない。死んでしまっていた。巻き付いた糸が彼の首を絞めて窒息死させていたのだ。俺が戻ってくるのが遅すぎた・・・。
俺はカワミさんを腕からゆっくり下ろして寝かせた。その苦しげな死顔が哀れに見えた。せめてひどく巻き付いたその糸を外してあげようと俺はカワミさんの首に手を伸ばした。その時、急にドアが開いた。
(誰だ?)
俺がドアの方に顔を向けるとそこには若い女性が立っていた。マリンキャップに白いブラウスに紺のジャケット、デニムパンツの可憐な姿だった。そしてその顔は誰かに似ていた。それを思い出そうとしていると、彼女は驚いて声を上げていた。
「パパ!」
この女性はカワミさんの娘のミキだったのだ。彼女は父親の遺体を見て愕然とした。そして次の瞬間、俺に信じられない言葉を浴びせてきた。
「この人殺し! パパを殺したのね!」
確かにカワミさんの首には糸の束がかかっているし、それを俺の手でつかんでいる。パッと見たら俺が絞め殺しているように見える。だが締めているのではない。ほどこうとしているのだ。
「俺じゃない。俺じゃ・・・」
「うそ! あんたがパパの首を絞めたのね! 許さないわ!」
このままでは俺が殺人犯にされてしまう。俺は必死に否定した。
「誤解だ! 俺がやったんじゃないんだ!」
そう叫びながら、目を剥いたミキの顔を見て俺は思い出した。
(そうだ。レイコだ。高校のクラスメートのレイコに似ている!)
こんなときにどうでもいいことだが急に思い出した。確かにレイコは思い込みがひどく、俺にひどく食って掛かることがあった。彼女の早とちりには本当にひどい目に会った。今はそんな状況、いやそれ以上だ。
「パパの仇をとるわ! 覚悟しなさい! サンダー!」
彼女は懐から棒を抜き出すと、俺に向かって電気魔法を放ってきた。俺は素早く避けた。後ろを見ると、電撃を受けた壁が黒く焼き焦げている。やべえ奴だ。こんな時は逃げるのが一番だ・・・その時、俺はヒーローを忘れて素の自分に戻っていた。ドアを突き破って外に出て一目散に逃げた。
「待ちなさい! 待ちなさい!」
ミキは外に出て来て、さらに電撃をぶっ放してきた。俺は森の中に逃げ込んだ。彼女は森の中まで追ってきたが、木の陰に隠れて何とかまくことができた。しかしあんな女は執念深い。執拗に俺の命を狙ってくるだろう・・・それは感じていた。
「とにかくおやっさんのところに戻ろう。あんな女相手では身が持たない」
俺は重い足取りで、元来た道を歩き始めた。
しかしその様子をクモ怪人が陰から見ていたようだ。奴はそれを見てほくそ笑んでいただろう。そして次の手としてミキを利用しようとしていたのだ。




