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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

リグトベル台本

或る老魔導師の願い

作者: 霧夜シオン
掲載日:2023/03/06

●はじめに

漢字チェックはしっかりお願いします<m(__)m>

声劇台本・或る老魔導師の願い


原作:塵神

台本作者:霧夜シオン


所要時間:約60分


必要演者数:4~8人


●はじめに

漢字チェックはしっかりお願いします<m(__)m>


●登場人物


ニコラスフラメル・♂:魔法を発見した人物で、研究の第一人者でもある。

           研究を国に奪われぬ為、ウーシア大陸のデアロフ山

           脈頂上に城を築き、吹雪の防衛魔法結界を張る。

           心から人々の生活の向上を願っている。

           60代後半。


サタン・♂:ニコラスフラメルの弟子で、若き天才と言うべき頭脳と力を持

      つ。

      それは闇魔法と言う、魔法五大要素以外の属性を発見する偉業

      を成し遂げる程であった。

      しかし、師であるニコラスに光魔法と並んで禁術指定され、

      封じられた頃からサタンの変貌は始まる。30代。


ルーシィ・♀:ニコラスフラメルの弟子。

       際立って優れているわけではないが、地道に研究を重ねて結

       果を出していくタイプで、その努力量は群を抜いている。

       20代。


ヘルメス・♂:ニコラスフラメルの弟子。

       水魔法を専門に研究しており、その分野では並ぶ者が無い。

       サタンやニコラスフラメルのみが彼を上回る。

       サタンが天才ならヘルメスは秀才といったところ。

       20代後半。


ソロモン・♂:ヘルメスの弟子の弟子。直接の教えは受けていないが、

       間接的にニコラスフラメルの弟子にあたる。

       魔法の才能があり、指導してくれた師亡きあと、

       ニコラスフラメルを討伐するべく、山頂の城へ乗り込む。

       20代前半。


シャフィオール・♀:サタンが召喚した五体の龍のうちの一体。

          麓の村を襲撃した際に、ソロモンの師の命を掛けた

          攻撃によって重傷を負う。

          人間臭い性格をしている。

          年齢不詳。


ヴァーリ・トゥラ・♂:サタンが召喚した五体の龍のうちの一体。

           非常に残忍な性格をしている。

           年齢不詳。


ナレーション・♂:雰囲気を大事に。



●キャスト例

【3:1】

ニコラス(♂):

サタン、ヴァーリ(♂):

ルーシィ、シャフィ(♀):

ナレ、ヘルメス、ソロモン(♂):


【3:1】※演者の方の声質と相談して↑の配役表と選択してください。

ニコラス、ヴァーリ(♂):

サタン(♂):

ルーシィ、シャフィ(♀):

ナレ、ヘルメス、ソロモン(♂):


【4:1】

ニコラス(♂):

サタン、ヴァーリ(♂):

ルーシィ、シャフィ(♀):

ソロモン(♂):

ナレ、ヘルメス(♂):


【5:1or4:2】ナレのセリフ数が極端に少なくても良い方々向け。

ニコラス(♂):

サタン、ヴァーリ(♂):

ルーシィ、シャフィ(♀):

ソロモン(♂):

ヘルメス(♂):

ナレ(不問):


【4:2】※ソロモンがナレを兼ねることもできるが、演者数がいる場合は

      非推奨。

ニコラス(♂):

サタン、ヴァーリ(♂):

ルーシィ(♀):

シャフィ(♀):

ソロモン(♂):

ヘルメス、ナレ(♂):


【4:2】※三役演じ分けできる猛者推奨。(試読の際の演者構成)

ニコラス(♂):

サタン、ヴァーリ(♂):

ルーシィ(♀):

シャフィ(♀):

ヘルメス、ソロモン、ナレ(♂):


【5:2】※ここから台詞バランスが極端に悪くなるかと。

ニコラス(♂):

サタン(♂):

ヴァーリ(♂):

ルーシィ(♀):

シャフィ(♀):

ソロモン(♂):

ヘルメス、ナレ(♂):


【6:2】※台詞バランス悪くても気にしない!という方々向け。

ニコラス(♂):

サタン(♂):

ヴァーリ(♂):

ルーシィ(♀):

シャフィ(♀):

ソロモン(♂):

ヘルメス(♂):

ナレ(♂or♀):



――――――――――――――――――――――――――――――――――



ニコラス:この身の願いはただ一つ…そう、ただ、一つだけであった。

     だが今、その唯一の願いさえ叶わずに生涯を閉じようとしている

     …。


サタン:くくく…師よ、貴方がいけないのだ。私の偉大なる発見を、闇魔術

    を禁術扱いにして封印指定するとは…!

    優れた人格者たる貴方さえも、嫉妬という矮小な感情に囚われてし

    まったというのか…?


ニコラス:地に倒れ伏した私を見下ろし、大仰な仕草で語り続ける弟子…。

     いや、あやつは破門だ…。

     私の教えに背いたのだから…。


サタン:今日からはこのサタンが、魔法第五要素をはじめ、闇・光の魔術を

    総べる至高の存在となるのだ!

    くっくくくく、ははははははははは!!!!!


ニコラス:優れたあやつを変えてしまったのは、何だったのだろうか…

     いったいどこで我々は、間違ったのだろうか…?

     ただ全ての民が、魔法の恩恵を受けられる日が来ることを夢見て

     いただけなのに…分不相応だったというのか…? ああ……。



――――――――――――――――――――――――――――――――――


ナレ:ここは、ウーシア大陸のデアロフ山頂にある魔法研究所。

   魔法を発見したニコラスフラメルと、彼を師とする大勢の弟子達は、

   火、水、土、木、金からなる、魔法五大要素の研究に没頭する毎日を

   送っていた。


   魔法をみんなの生活の役に立てたい。


   山頂と断崖という、外界との往来が困難な場所ではあったが、

   ニコラスの理念に共鳴している弟子達が、不満を言うことは無かった

   。


ルーシィ:お師匠様! お師匠様ー!


ニコラス:なんだねルーシィ、騒々しいではないか。


ルーシィ:で、でもお師匠様!

     先日いただいた課題の答えを、やっと導き出せたんですよ!


ニコラス:ルーシィ、嬉しい気持ちはわからんでもない。

     だが、ここはお前だけが生活しているわけではないのだぞ。


サタン:師のおっしゃる通りだ。キミはもう少し、落ち着く必要があるな。


ルーシィ:うう、兄弟子もひどいです!


ニコラス:はっはっは、まあいい。どれ、見せてみなさい。


     【二拍】


     ふむ…なるほどな、良い着眼点だ。


ルーシィ:やった…!


ニコラス:うむ。

     次はこの結果を更に発展させてみるのだ。

     それが、お前のステップアップに繋がる。


サタン:ルーシィ、キミの努力家なところは大いに優れている。

    キミのアドバイスで私の研究もはかどっているしな。


ルーシィ:本当ですか!?

     えへへ…じゃあそのうち、兄弟子を追い越しちゃうかもですね!


サタン:【軽い溜息】

    そうやってすぐに調子に乗るのは、悪い所だがね。


ルーシィ:そ、そんなぁ…。


ニコラス:ははは、さ、戯れはこのくらいにしておこうか。


ルーシィ:はいっ!

     お師匠様、失礼します!


サタン:そうだ。

    師よ、例の件ですが…。


ニコラス:おお、あれから更に研究が進んだようだな。

     いま行っている実験の結果が出てからにしたいゆえ、

     もう1時間ほどしたら私の部屋へ来なさい。


サタン:承知しました。


ヘルメス:失礼します。

     お呼びでしょうか、師匠。


ニコラス:おお来たかヘルメス、この使いなのだが、頼めるか?


ヘルメス:はい、わかりました。


サタン:そうだ、ついでに私の部屋にエレメント結合関連の資料を

    持ってきておいてくれるかい?


ナレ:部屋を出かけたヘルメスを呼び止めたのは、兄弟子のサタンだった。

   弟子たちの中でも飛びぬけて優秀で、師匠じきじきに別の研究を単独

   で任されている。

   なお、プライドが高いのが、玉に瑕である。


ニコラス:【軽い溜息】

     サタンよ、ヘルメスをこき使うでない。


サタン:良いではないですか。もののついでなんですから。


ヘルメス:大丈夫です、師匠。

     では先輩、お使いが終わってからになりますけど、いいですか?


サタン:ああ、それで構わない。


ヘルメス:では、失礼します。


     【二拍】

     さてと、まずは資料室に…。


ルーシィ:あ、ヘルメス!

     ちょっとこの数値を見てもらえる?


ヘルメス:どうしたんだい、ルーシィ。


ルーシィ:アルファ値が高いせいでさ。

     さっきお師匠様からもらった課題……進まないんだよ。


ナレ:実験室から顔を出したのは、同時期にニコラスに師事したルーシィ。

   その着眼点の良さと努力家な性格で、皆から一目置かれていた。


ルーシィ:…どうかな?


ヘルメス:うーん、じゃあデルタとイプシロンの数値をここまで上げてみる

     といいよ。

     そうしたらアルファ値の上昇を抑えられるはずだよ。


ルーシィ:! その発想はなかったよ。

     ヘルメスはすごいなあ。

     さっすが、水系統の魔法要素を専門に研究してるだけあるね!


ヘルメス:褒めたってなんにも出ないよ。


ルーシィ:あ、そうだ、兄弟子は?


ヘルメス:サタン先輩なら、お師匠様のところだと思う。

     単独研究の話みたいだから、時間かかるかもね。


ルーシィ:あ~…、じゃあ、後回しだなあ。


ナレ:いつもと変わらない日々。

   研究も順調で、このままいけば魔法の恩恵を皆が受けられる日が来る

   のも、そう遠くない未来になるはずだった。

   だが優れた力は、争いに利用されがちになる。

   ある時、国が研究結果を奪おうと兵を率い、彼らを脅してきたのだ。

   ニコラスは苦悩の末、ついに決断する。


ニコラス:…やむを得ぬ。

     研究の成果を奪われぬためにも、民達に魔法の恩恵を行きわたら

     せるためにも、この城に防衛結界魔法を張る。

     お前達、準備は良いか。


サタン:ぬかりありません。ルーシィ、ヘルメス、キミ達はそっちを頼む!


ヘルメス:はい!

     ルーシィ、いいかい?


ルーシィ:いつでもいけるよ!!


ニコラス:よし、吹雪の結界を発動させる!


     「万物の生命をはぐくみ、常に流れてやまぬ水よ!

     我、いま汝の動きを制し、水は氷に、氷は結晶にその姿を変じ、

     あまねく大地を吹き荒れる永劫の吹雪と化せ!」


     「ヌレンカ・ブリザル」!!


サタン:くうっ!


ルーシィ:きゃあ!


ヘルメス:うわっ!!

     …す、すごい…猛烈な勢いの吹雪が、城の周りで荒れ狂っている

     …。


ニコラス:…これであやつらはこの城へは辿り着けぬ。

     城の周りを吹き荒れているのはただの吹雪ではない。

     生ある者の生命力を急激に奪う、意思ある吹雪なのだ。

     …お前達にこれを渡しておく。


サタン:師よ、これはもしや…。


ニコラス:うむ。

     吹雪を無効化する護符だ。

     出入りできぬのでは食料や燃料の調達に支障をきたすからな。

     さあ、研究に戻ろう。


ルーシィ:はい、お師匠様!


ナレ:国が諦めたのか、吹雪の結界が想像以上の効果を発揮したのか、

この日以降誰からも邪魔をされることなく、研究に励むことができた

   。

   そのおかげか、ついにニコラスが大きな発見をしたのである。


ニコラス:おおお……お前達、見よ…!

     この赤き石…膨大な魔力が秘められておる。

     これがあれば更に研究を進め、

     新たな実験に挑む事も可能になるであろう!


サタン:実にすばらしい…!

    師よ、これで私の闇魔法の研究も大きく進展するでしょう!


ニコラス:うむ。

     だがこの石、まだまだ謎が多い。

     使用の際は必ずわしとお前、二人の立会いのもと実験を行う事と

     しよう。


ルーシィ:すごい…。


ヘルメス:これなら魔法の恩恵を、国のすみずみまで行きわたらせることが

     可能になりますね、先輩!


サタン:…ああ、そうだな。


ナレ:それから数年がたち、魔法五大要素がおおむね完成し、光と闇の魔法

   の研究も佳境に入った時。

   事件が起きた。


ルーシィ:いつもアドバイスもらって悪いねー、ヘルメス。

     今度何かおごらせてよ。


ヘルメス:気にしないで。またいつでも聞いてよ。


     【二拍】


     ふう、すっかり遅くなってしまった…。

     先輩に急いでこの資料を渡さないと…――


ニコラス:【↑の語尾に被せるように】

     駄目だ! 


ヘルメス:!!? …今の声は師匠…?


サタン:師よ、何故です!

    五大要素の上位にあたるとも言うべき光と闇、この魔術を解き明か

    して有効に用いることの何がいけないのです!


ニコラス:ならん。

     先ほどのお前の報告、そしてこの数値から導き出される答えは

     ただひとつ、今の時点では我々の手に扱いきれないという事だ。

     従ってこの研究は凍結、封印せねばならぬ!


ヘルメス:師匠と先輩が言い争ってる…?


サタン:馬鹿な!

    師よ、私や貴方がいさえすれば、この力も制御できるはずです!!


ニコラス:サタンよ。

     人間には決して手を出してはならぬ、神の領域というものが存在

     する。

     我々に許された領分は魔法五大要素までであったという事だ。

     わしは光魔法を禁術指定し、すべての資料と研究を封印凍結する

     。

     お前の闇魔法も同様だ。

     研究は即時停止、関連資料は封印するのだ。

     よいな…!!


サタン:!!

    ………………わかりました。

    く…ッ…!


ヘルメス:ッ!

     …し、師匠!?

     一体何があったのですか?


ニコラス:……ヘルメスか。

     話は立ち聞きしておったのであろう?


ヘルメス:う…はい。


ニコラス:ならば、何も言うな。

     

ナレ:己の師がこれほど苦悩に満ちた顔をする所を、ヘルメスは初めて見た

   。

   それから数日、どちらも自室に閉じこもったまま人前に姿を見せなか

   った。

   だが。

   ある日突然、ニコラスが弟子達を呼び集めると、驚くべき宣言をした

   のである。


ニコラス:お前達、聞けい!

     国がまたしても我らの魔法研究を奪うべく兵を差し向けたと聞い

     た。

     吹雪の結界だけでは心もとない。

     それゆえ今からこの赤き石を用い、伝承生物を呼び出す!


ルーシィ:【声を落として】

     ね、ねぇ…お師匠様、なんだか変じゃない?


ヘルメス:え、どこが?


ルーシィ:【声を落として】

     なんかこう、雰囲気が…うまく言えないんだけど…。


ヘルメス:そう、かな…?


サタン:ヘルメス、ルーシィ、キミ達も手伝ってくれ。


ヘルメス:は、はい!


ルーシィ:……。


サタン:どうしたのだ、ルーシィ?


    【軽い溜息】


    【力を込めて】

    …手伝って、くれるな?


ルーシィ:っ! …ハイ。


サタン:「太古の覇者にして天空と大地を自在に闊歩する者よ!

    我、サタンの名において汝らをこの場へ召喚し、

    城の守護者とさせん!」

    

    「ドラグネイト・スモン」!!


ヘルメス:!! こ、これは…ドラゴン!?


サタン:驚いたか?

    赤き石を使いこなせばこのような事も可能になるのだ。

    そうだな…召喚魔法とでも名付けようか!

    ははははは!


ヘルメス:(わからない…よくわからないけど、何かがまずい気がする…。

      っそうだ、師匠ーー)


ニコラス:【↑の語尾に被せて】

     これで城の防衛はより強固に、万全となった!!

     そしてサタンよ、今日より闇魔法の研究を再開するがよい!


サタン:はい、師よ。


ヘルメス:!!?

     バカな…闇魔法は禁術封印指定、研究停止したはずじゃ…!


サタン:ヘルメス、師は悟られたのだ。

    闇魔法の存在に気づいた事、それはすなわち、我ら人間の手に授け

    られたのも同然であるという事実に!


ニコラス:そうだ。

     神がまさしく我らに与えたもの、それを受け取らねばかえって罰

     を受けるであろう!


ヘルメス:(それはそうかもしれない…でも、やはり何か間違ってるような

     …。)


ニコラス:その恩恵のカギになったのが、この赤き石だ。

     調べた結果、これを構成しているのは生命エネルギーである事が

     分かった。

     いまドラゴン達を召喚してエネルギーをだいぶ使ってしまってい

     る。

     それゆえ補充せねばならん。

     そこで…お前達に最期の指示を出す。


ヘルメス:…最後…最期?


ルーシィ:ッま、まさか…!


ニコラス:【笑顔で】

     おおルーシィ、気づいたのか。

     勘が冴えているな。


     そうだ!

     お前たちの生命エネルギー、すなわち魔力をこの赤き石に捧げる

     のだ!!


ヘルメス:!? なっ、そんな!!


ニコラス:「地の底、冥府より這い出でし霧よ

     哀れなる供物の肉を苗床に種をまけ

     捧げられし贄の骨を堆肥に伸び育て

     注がれし血を啜りて魂を喰らえ」!


     「ニヴルドレイン・デトー」!


ルーシィ:くっ、黒い霧が…!

     う、うわッッ!!


ヘルメス:こ、これは!?


ルーシィ:うっ、く、くるし…あ、がッ、へる、めす、たすけ、て…!


ヘルメス:る、ルーシィ!


ルーシィ:ッッッ!!!


ナレ:地獄絵図だった。

   地面に突如魔方陣が出現、陣から湧き出た黒い霧が、ルーシィはじめ

   皆にまとわりつくと、


   ねじり潰した。

   

   流れ出る血は魔法陣を伝い、ニコラスの持つ赤き石に吸い上げられて

   いく。

   強い輝きを放つ石を片手に、彼は哄笑した。


ニコラス:うははははは、見ろヘルメス!

     なんと美しい輝きではないか!

     さて…ここで問題だ。

     なぜお前だけ生きていると思う?


ヘルメス:!…そういえば…、なぜ俺だけ…?


サタン:簡単なことだ。

    お前は弟子たちの中でも、私を除けば一番優秀だったからな。

    つまり、お前は生きて私や師の研究を手伝えという事だ。


ヘルメス:な…!?


サタン:さすがに私と師だけでは、研究の細部に手が回らないのでな。

    お前にも手を貸してほしいのだ。


ヘルメス:…ッ、断る…!


サタン:…何?


ヘルメス:師匠! 貴方はこんなことをする人じゃなかったはずだ!

     純粋に人々に魔法を伝え、恩恵を行きわたらせたいと願っていた

     はずではなかったのですか!


サタン:ふ…青いな、ヘルメス。

    力とは! それにふさわしい者が扱うべきなのだ!

    …なんだ、身構えて。

    まさかとは思うが、この私や師に攻撃するつもりではあるまいな?


ヘルメス:誤った道に進むのを止めようとしているだけだ!


サタン:笑止な!

    そんなセリフは、力ある者に許された特権だ!

    お前にそんな実力があるとでも?


ヘルメス:確かに貴方は天才だ…だが、水系統の魔法なら…!


     「ヌレロヤ」!


サタン:はははは、なんだその水鉄砲は!

    お前の魔法はまるで曲芸だな!

    そら!!


ヘルメス:くっ、あっさりかき消された!?

     だったらこれならどうだ!


     「ヌレンカ」ーー!


サタン:ほう、水柱か!

    だが…しょせんこの程度か。

    はぁッ!


ヘルメス:! そんな、全力の魔法がここまで通じないなんて…!


サタン:フン…どうやら見込み違いだったようだな。

    師よ、これ以上は時間の無駄でしょう。


ヘルメス:し、師匠…!


ニコラス:あの程度で水魔法を専門に研究していたとぬかすか!

     おこがましいにもほどがあるわ!

     水魔法とは、このレベルのものを言うのだ!!

     ぬうぅぅぅん!!


ヘルメス:なッ、バカな…あんな巨大な水球が…!!


サタン:己の無力さを噛みしめながら、師の手にかかって死ぬがいい!

    くくく、はははははァーーーッはっはっは!!!


ヘルメス:ッ、発動を阻止しないと…


     「ヌレロ」!


ニコラス:!うぬッ、こんなちっぽけな水玉が何の役に立つか!

     このたわけめ!!


     冥府で悔いるがよい!


     「ズブ・ヌレロ」!!


ヘルメス:う、うわあああああーーーーーッッッ!!!


ニコラス:ふははははは!! 逆らわねば生きられたものを!


ナレ:ヘルメスは為すすべもなく吹き飛ばされ、城を取り巻く吹雪の結界に

   放り込まれた。

   途端に全身が周囲の水球ごと急速に凍りついていく。   

   それと共に彼の意識は、瞬時に遠のいていった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:それからおよそ百年の月日が経った。

   サタンが召喚した五体の龍は町や村を襲い、住民を殺戮しては容赦な

   く赤き石に必要なエネルギー、エレメントを奪っていた。

   人々が恐怖におびえて暮らす中、一人の優れた魔法使いがその現状を

   打破すべく、龍たちに戦いを挑む。

   奇策や道具を用い、五体のうち残り一体まで追い詰め、優位に戦いを

   進めていた。

   しかし己の弟子を人質に取られ、為すすべもなく殺されてしまう。


ヴァーリ:弟子を盾にされただけで、身動きもできなくなるとは!

     ゴミカスの考える事は実に分からんなァ!!

     さて、我輩以外の目障りなドラゴンもどきも死に絶えた事だし、

     好き放題させてもらうとしようか!

     ハハハハハ!


ソロモン:ッ師匠…師匠ーーーッ!!!

     うわああああああッッッ!!

     俺のせいで…俺のせいでこんなことに……!!


     【二拍】


     …師匠の遺志、俺が継ぎます…!

     必ずあいつらを、倒す!


シャフィ:ウ…グ…。


ソロモン:! こいつ、生きてたのか!?


シャフィ:死んでいなくて…生憎だったな……。

     しかし…途中から聞いていたが、フン…人間と言うものは…

     理解できない…。

     弱き者…油断した者から先に死んでいくのは、当然の摂理ではな

     いか?

     それに…まだ私の同胞が残っている…。

     貴様の実力では勝てんな…。


ソロモン:違う!

     俺がヴァーリに捕まって人質にされなければ、師匠は負けなかっ

     た!

     現に奴とお前を除けば他のはすべて倒したし、お前だってその有

     様だろうが!


シャフィ:これは貴様の師自身の実力ではない…、道具や策に頼った力など

     、力ではない…。


ソロモン:それこそ詭弁だ!

     あらゆる手段を含めて、それを扱えるのが力じゃないのか!?

     お前達ドラゴンはプライドが高い。

     だから負けた事を素直に認められないだけだろう!     


シャフィ:!! く……ッ。


     【三拍】


     ッ確かに………私の負けだ。


ソロモン:!?

     敗北を…認めた…?


シャフィ:私の種族すべてがそうだと思うな。

     さっきは頭に血がのぼっていたが…、貴様の師はたいした奴だ。

     実力差をあらゆる手段を使って補う…その結果が我らのうち三体

     を討ち倒すに至ったのだからな…。


ソロモン:…なんだか、人間臭いな、お前。


シャフィ:! 貴様…私を侮るのか…!


ソロモン:いや、そうじゃない。

     ただ…お前となら分かり合えるような…そんな気がしたんだ。


シャフィ:人間が…私と分かり合うだと…?

     そんな事が…出来るとでも思っているのか。


ソロモン:ああ。

     現にさっきの戦い、お前だけ積極的じゃないように見えた。


シャフィ:!

     …気づいていたのか。

     

     そうだ。

     百年ほど前、あのサタンと言う人間に召喚されて以来、こんな山

     の山頂にある城を守護し続けてきた。

     だが対価をもらっているとはいえ、我らドラゴンが人間に命令さ

     れる事など、耐えがたい日々であった…。


ソロモン:確かに…ドラゴンの種族性を考えれば、そう思うのが当然か…。


シャフィ:今こうして深手を負っているのも、どこかでこの日々に終わりを

     求めていたからなのかもな…。

     これ以上の問答はいらん。

     さあ、殺すがいい。


ソロモン:…。

     癒しの草木そうもくをもって彼の者の傷を塞がん。


     「ハエロヤ」。


シャフィ:? お、おい、何をする…!?

     傷が…!


ソロモン:師匠ほどじゃないけど、これくらいなら俺にもできる。

     さっきよりは少しマシだと思う。


シャフィ:ッ貴様、どういうつもりだ!!

     私の話を聞いていなかったのか!?


ソロモン:聞いていたさ。

     けど、ここでお前を仮に殺したところで、まだ最後のドラゴン、

     ヴァーリ・トゥラが残っている。


     …悔しいけど、今の俺じゃ奴には勝てない。

     【絞り出すように】

     だから…お願いだ。俺に力を貸してほしい!


シャフィ:何だと!? 私に同胞殺しをしろというのか!!


ソロモン:違う! あくまで先頭に立って戦い、ヴァーリを倒すのは俺だ!

     お前はただ、力を貸してくれる立場でいい。


シャフィ:それとて結果は同じ事だろうが…!


ソロモン:俺に従えとか、そういうことを言ってるんじゃない。

     この戦いが終わったら、お前達がやって来た世界に戻れるように

     、今度は俺がお前に力を貸す!


     だから…頼む…!


シャフィ:ぬううぅぅ………。

     ………。

     …あては、あるのか?


ソロモン:師匠から聞いた事がある。

     百年前、この世界に魔法の恩恵を行きわたらせるべく、

     あの山頂では日々研究がおこなわれていた。

     俺がさっき使った魔法は木の魔法、五大要素の一つだ。

     五大要素が生まれる過程で様々な系統の魔法が生まれたらしい。

     それこそ、お前達をこの世界に呼び出した魔法系統とかな。


シャフィ:! そうか…ならば城を調べれば…。


ソロモン:ああ。

     お前を元の世界に戻す方法が見つかるはずだ。


シャフィ:……。


     そこまでの交渉を含めて助力の懇願か…。

     いいだろう。

     貴様に力を貸してやる。


ソロモン:! 本当か!?


シャフィ:ただし!

     もし方法が見つからなかった時は、容赦なく貴様を喰い殺す!

     …良いな?


ソロモン:わかった、それで構わない。

     そういえば、お互い名乗ってなかったな。

     俺はソロモン。


シャフィ:ソロモンか…。

     …牢記せよ。我が名はシャフィオール。


ナレ:互いの利害に一致を見いだし、そして何かを感じたソロモンとシャフ

   ィオール。

   一人と一頭はしばし休息すると入念な準備を整え、作戦を打ち合わせ

   ると山頂へ向かった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:雪を踏みしめ、氷を踏み砕き、やがて山の中腹に差し掛かった。

   あと一時間も歩けば山頂の城を取り巻く吹雪の結界に至る。

   ソロモンは周囲に気を配りながらひたすら登っていく。

   そんな様子を、上空から見下ろす影があった。


ヴァーリ:揃いも揃ってゴミカスの人間ごときに討たれるとは…

     我らドラゴン種族の面汚しもいい所だ。

     ンン? あれはさっきの…。


ソロモン:はぁ…はぁ…。

     奴の性格なら、必ず俺を仕留めようと襲ってくるはずだ…。

     ヴァーリは、殺戮を好んでいる…。

     ッ!?


ヴァーリ:ンンン?

     そこにいるのは、さっき我輩の手にかかって死んだ哀れなゴミカ

     スの弟子とやらではないか!

     まさか…師匠の仇討ちにでも来たのかァ!?


ソロモン:そうだ!

     俺が人質に取られさえしなければ、師匠が死ぬことは無かった!

     師匠に代わって、貴様を必ず殺す!!


ヴァーリ:ンン~、仇討ち、仇討ちねェ…。


     フッ、ハハハハハハ!!


     つまらん! くだらん!! 実に面白くない!!!

     しかも、取るに足らんゴミカスがこのドラゴンの我輩に対してだ

     と!?


     まッッッたく笑えん!!



ソロモン:そのゴミカスにお前の同胞がことごとく倒されたわけだが、

     何も思うところは無いのか?


ヴァーリ:ど、う、ほ、う??


     あんな我輩の足元にも及ばん、成り損ない風情どもがドラゴンを

     名乗る資格など、


     まッッッッッたくもって、無い!!!


     むしろ消えてくれて清々したというもの!


ソロモン:何だと…シャフィオールは貴様をかばって傷を負ったんだぞ!

     それを清々しただと…!

     ふざけるな!


ヴァーリ:ンンン~、あのドラゴンもどきがどうしたというのだ?

     否、ドラゴンと呼んでやるのもおこがましい。


     メストカゲだな、ハハハハハハ!!!


     トカゲならトカゲらしく、我輩の盾になっておればよいのだ!


ソロモン:【呟くように】

     なんて奴だ…。


     【ヴァーリに向かって】

     貴様のようなドラゴン種族の風上にもおけないクズドラゴン…

     いや、イグアナの盾代わりにされたとあっては、シャフィオール

     も報われないな!


ヴァーリ:……ゴミカス、今、我輩の事を何と言った…?


ソロモン:なんだ、急に耳が遠くなったのか?

     イグアナって言ってやったんだよ! イ・グ・ア・ナ!!

     それとも、それ以下だっていうのか!?


ヴァーリ:!! ッほざいたなァァァ!!!

     ゴミカス風情が!

     我輩の爪で原形をとどめぬほどに!!

     ズタズタに引き裂いてくれるわァァァ!!!


ナレ:ヴァーリは侮っていたソロモンに挑発され、怒りをむき出しにすると

   咆哮を上げて襲いかかった。

   その視線も、意識も、全てが彼へ集中して向けられる。

   だが、そうすること自体がすでに、ソロモンの思惑に嵌まっていたの

   だ。


ヴァーリ:どうした、すくんで動けんのか!? 今さら遅いがなァァァ!

     死ィねェェェェ!!


ソロモン:【↑の語尾に被せて】

     今だ!! シャフィオール!!!


ヴァーリ:! 何?! ッッッッグアッッ!!?


ナレ:ヴァーリの首と背中目がけ、背後上空で完全に気配を消していたシャ

   フィオールが最大速度で砲弾のごとく急降下、研ぎ澄まされた鋭い爪

   で容赦なく抉った。


ヴァーリ:グッ、グウウゥオオオッッ!!

     ば、バカな…シャフィオール、貴様、生きて…!?

     な、なぜ同胞たるこの我輩を攻撃するのだ…!?


シャフィ:ど う ほ う だと?

     先ほど自分で言った事をもう忘れていると見える。

     まぁ、貴様に言わせれば私はメストカゲらしいからな。

     攻撃しようが、構うまい!


ヴァーリ:グギャアアア!!

     わ、悪かった、失言だった!

     だから爪を離してくれェ!!


シャフィ:ソロモン、穴は開けてやった。

     あとはお前の仕事だ。


ソロモン:ああ。

     外側は強固なドラゴンの皮膚も、内側からなら俺の攻撃が通用す

     る!

     覚悟しろ、ヴァーリ・トゥラ! 

     今こそ、師匠や貴様らのために命を落とした者達の無念を晴らす

     !

     穿て、巨木の柱。


     「ハエンカ」ーーー!!!


ヴァーリ:グゴッ、がッ!!!


シャフィ:フン…貴様のような奴こそドラゴン族に相応しくない。

     生まれ直してくるんだな。


ソロモン:シャフィオール、すまない。

     俺が提案した事ではあるが…。


シャフィ:気にするな。先ほど貴様に回復してもらったのもある。

     このくらいどうと言う事は無い。


ソロモン:ならいいんだが…。


シャフィ:それより、これから吹雪の結界を越えねばならん。

     アレと城の行き来はそれなりに骨が折れる。

     貴様をかばいながらは行けんぞ。


ソロモン:ああ、その事なら心配はいらない。

     俺の師匠の師匠、ヘルメス老師が残した、吹雪の結界を無効化す

     る護符がある。


シャフィ:なに、そんなものがあるのか?

     チッ、サタンめ…私達には存在すら教えなかったぞ。


ソロモン:サタン…確か、ヘルメス老師の先輩で天才と呼ばれてた男だった

     と聞いてるが…。


シャフィ:奴はヘビのような人間だった。頭は切れるが、ただそれだけだ。

     初めから好かなかったが…まあすでに死んでいるから、

     もはやどうでもよいがな。


ソロモン:ッそうなのか?


シャフィ:ああ、赤き石の実験に失敗したらしい。

     いま城に残っているのはサタンの師である、

     ニコラスフラメルだけ――


ナレ:その刹那だった。

   彼らの背後、完全な死角から死んだはずの者が、突如頭をもたげると

   、


   噛み折った己の牙を放った。   


シャフィ:! 伏せろ、ソロモンッ!

     ッグアアッッ!! 


ソロモン:シャフィオール!?


ヴァーリ:グ、グゲゲ……。


シャフィ:グウゥ…まだ、息があったのか…。


ヴァーリ:ぎ、ぎざ、ま”、も…みち”づ、れ…だ……ッ。


ソロモン:しっかりしろ、シャフィオール!


シャフィ:気に、するな…油断していた…私が悪い。

     言っただろう…弱い者から死んでいくと…。


ソロモン:そんな…!


シャフィ:グ…ッ、どうやら…ここまでか…。

     故郷に…もう一度戻りたかったが…。


ソロモン:ッ約束する!

     俺が必ず、その体だけでも故郷に送り返す!


シャフィ:フ…。

     礼を…言うぞ…ソロモン…。


ソロモン:……少し待っててくれ。

     長年の決着をつけてくる。


シャフィ:あぁ…いって…こ…い…。


ナレ:シャフィオールの目がゆっくりと閉じられていく。

   それを見届けたソロモンは吹雪の結界を突破、やすやすと城への

   侵入に成功する。

   エントランスホールで彼を出迎えた者、それは悪意に満ちた一人の

   老人だった。


ニコラス:この城に外部の者が入り込むとはな…吹雪の結界と五体の龍を

     退けたというのか。


ソロモン:あんたがヘルメス老師の師匠、そして俺にとっても師である、

     ニコラスフラメル…!


ニコラス:なに…?

     ヘルメスめ、生きておったのか…!?

     そうか…あの時苦し紛れに放ったあれで威力を殺したか…!


ソロモン:五大魔法要素に光魔法と闇魔法、その研究結果を独り占めしよう

     としたあんたとサタンを諌めようとし、殺されかけたヘルメス老

     師。

     俺はその最後の弟子、ソロモンだ!


ニコラス:ほお…そうか。

     だが弟子など邪魔なだけだ。

     全ての魔法を手に入れようとしているこのわしにはなァ!


     「モエンカ」!


ソロモン:!? なんだ? 動きが鈍い…。火球もそれほど大きくない…。

     っと!!


ニコラス:おのれ、かわしおったか…。

     ならばこれはどうだ!


     「シビロ」!


ソロモン:ぐっ!

     …? シビロの威力はこんなものじゃ…?

     それに心なしか、ニコラスフラメルが弱っているような気がする

     …。


ニコラス:はははは、どうだ、我が魔法の威力は!

     どれ、とどめを刺してくれようぞ。


ソロモン:それに、自分の状態を認識していない…?

     …もしかしたら…。

     穿て、巨木の柱…!

     

     「ハエンカ」ッ!!


ニコラス:!!うっ、ぐぶおぉぉお!?


ソロモン:効いた!

     手に持っている赤き石も、輝きが鈍い…。

     これならいける…!!


ニコラス:お、おのれ、こんなはずでは…!?

     なぜだ、なぜわしの魔法が効いておらんのだ!?


ソロモン:ワケは知らないが、ずいぶん前からその石にエレメントが供給さ

     れてないんじゃないのか?

     それにさえ気づいていないとは…。

     研究に没頭するあまり、周りが完全に見えなくなったようだな!


ニコラス:!!?

     こ、これは…なぜだ!?

     ドラゴンどもにエレメントを集めさせていたはずだぞ!

     まさか彼奴らが横取りしていたとでもいうのか!?

     なぜだあああぁぁ!


ソロモン:……。

     見るに堪えないな、ニコラスフラメル。

     その腐りきった魂ごと洗い流してやる!


     あんたがかつて我が老師、ヘルメスに放ったこの魔法でな!!


     「ズブ・ヌレロ」ーーー!!!!!


ニコラス:う、うおおぉぉぉおおおぉぉおおお!!!!


ナレ:ソロモンの渾身の魔力が込められた、巨大な魔力の水球。

   それはニコラスフラメルはおろか、城のエントランスホールごと押し

   流し、眼前の壁に大穴を開ける。

   その跡には、ニコラスが持っていた赤き石が転がっていた。

   不意に、鈍かった輝きが本来の色を取り戻す。

   まぶしさに目を細めたソロモンの眼前に、一人の女性が立っていた。


ルーシィ:…キミが、ボク達を解放してくれたんだね。


ソロモン:え…あ、あなたは…?


ルーシィ:石の中でも話は聞こえてたよ。

     キミ、ヘルメスの弟子なんだってね!

     あんな魔法を撃てるなんて、やっぱり彼、すごかったんだなぁ。

     あ、ボクはルーシィ。ヘルメスとは同期だったんだ。

     もう肉体は失われちゃってるけどねえ。


ソロモン:肉体が…?

     ! てことは、その赤い石の犠牲になった…?


ルーシィ:うん、そう。

     解放してくれたお礼に、この城を案内してあげるね。

     ここって結構広いから、キミが求めているモノを探すだけでかな

     り骨が折れると思うんだ。


ソロモン:え…いいんですか?


ルーシィ:それくらいはさせてよ。

     ずっとあの中に囚われたまま、いつエネルギーとして使い潰され

     るのか怯える日々だったんだから。


ソロモン:そうですか…わかりました、よろしくお願いします。


ルーシィ:【苦笑】

     かしこまらないでよ。

     ボクの時間は百年前で止まっちゃってるからさ、友達感覚でいい

     よ。


ソロモン:そ、そうですか…わかった。

     よろしくな。


ルーシィ:うん、それじゃ着いてきて!


ナレ:赤き石に囚われていたルーシィに導かれ、ソロモンはこれまでの経緯

   を語りながら城の奥深くにある、ニコラスフラメルの居室へ苦もなく

   たどり着いていた。


ルーシィ:ここがお師匠様の部屋だよ。

     研究の結果は全てこの部屋に集められるようになってたから、

     キミの探し物もきっとあると思う。

     ボクも手伝うよ。


ソロモン:ありがとう、ルーシィ。

     とりあえずデスク周りから探ってみるよ。


ルーシィ:【ぶつぶつと】

     うー、これでもない……、んんー、それでもない……。


ソロモン:うず高く資料や書類が積まれてるな…。

     引き出しは……ん? ここだけ鍵がかかってる…。

     でもだいぶ古くなってるな…。


ルーシィ:これ、ちょっと引っ張ったら開きそうだよ?


ソロモン:よし…。

     ッ! ッ!


     開いた…!

     

ルーシィ:中身は…日記?


ソロモン:…サタンの名前が書いてある…なんでこんなとこに?


ルーシィ:読んでみる価値はあるかも。

     兄弟子、日記にも研究のことけっこう書いてたみたいだし。


ソロモン:そうか。


     【三拍】


     !! これは…!!


ルーシィ:どうしたの、ソロモン?


ソロモン:俺が倒したニコラス…いや、アレはどうやら、ニコラスの姿をし

     た別の何かだったみたいだ…。


ルーシィ:ウソ!?

     じゃあ、本物のお師匠様は…?


ソロモン:どうやら、ドラゴンを呼び出す数日前にはもう入れ替わっていた

     のか…。

     ほら、ここ。


サタン:10月14日

    なぜだ、なぜ師は闇魔法の研究を封印しようとしているのだ。

    この神からの贈り物とも言うべき発見を、むざむざ闇に葬って良い

    わけがない!


    そうか、師は妬ましいのだ。天才たるこの私が、自分よりも先に

    闇魔法の研究を成功させようとしているのが。

    きっとそうに違いない。


    そうはさせるか。


    力に訴えてでも、たとえその果てに師を亡き者にする事になったと

    しても、私は私の研究を守ってみせる。


ソロモン:自分の研究を否定された気になったんだろうか…。


ルーシィ:兄弟子…。


サタン:10月15日

    師をこの手に掛けた。

    間違いなく私は地獄行きだろう。


    だがそれが何だというのだ。


    光魔法と闇魔法、この二つの研究を成し遂げた私に、不可能など

    もはや存在しない。

    赤き石はまだ謎が多いが、それとて私の手にかかれば解明もそう遠

    くない未来だろう。

    魔法はこのサタンの未来を、明るく照らしているのだから。


ソロモン:魔法の魅力にすっかり取り込まれているな…。


ルーシィ:兄弟子ほどの人でも、誘惑に耐えられなかったのかな…?


サタン:10月16日

    またしても国が、私の魔法研究の成果を奪う計画を企てているよう

    だ、諦めの悪い愚者どもめ。

    吹雪の結界があるというのにこの暴挙をあえてするという事は、

    何かしらの対策を講じている可能性がある。


    だが、闇魔法を会得している私にしてみれば児戯に等しい。

    伝承生物を呼び出し、ことごとく皆殺しにしてくれよう。


ソロモン:…ここまでくると妄執じみてるな…。


ルーシィ:……。


サタン:10月17日

    伝承生物を呼び出すには多大なエレメント…魔力が必要だと分かっ

    た。

    赤き石を使えば難なく補えるであろうが、問題はその後の研究に

    差し障る可能性があるという事だ。

    当座の研究に支障の無い量のエレメントを確保しなければならない

    。

    先ほどルーシィが夕食だと呼びに来た。

    以前は気にならなかったが、今はあの声がどうも耳障りだ。

    どうしてくれようか。


    そうだ、何も悩むことは無かった。

    こんな身近にエレメントを得る手段があるではないか。

    ついでに他の者も、いや、助手は必要だ。

    ヘルメスだけは生かしておくか。

    そうなればまずは、師の、ニコラスの替え玉を用意せねばな。

    ニコラスが死んだことは、まだ誰にも悟られてはいない。

    だが、いずれ知れれば騒ぎになる。

    それではエレメントをまとめて手に入れるのが難しくなるだろう。


    自らの最期の時まで、目の前にいるのが己の師だと思わせておかな

    くてはな。


ルーシィ:…バカだよ、兄弟子は。

     お師匠様がそんなことで、闇魔法の研究を封印させるわけないじ

     ゃないか……。


ソロモン:…じゃあ、ニコラスフラメルは、いや、本当にニコラス大師匠は

     、皆に魔法の恩恵をもたらそうと研究を重ねていたんだな…。


ルーシィ:当然だよ! ボク達の尊敬するお方だったんだから!


ソロモン:…ニコラス大師匠、誓います。

     貴方の遺志は俺が受け継ぎ、必ず魔法の恩恵を皆に伝え、

     広めます…!


ルーシィ:ありがとう、ソロモン。

     お師匠様もきっと喜んでるよ。

     さあ、ぱぱっと探しちゃおう!


ナレ:その後数時間かけて、二人は研究結果をまとめた書物を探し当てると

   、吹雪の結界が消失した山道を下り、シャフィオールの亡骸の元へ戻

   ってきた。


ルーシィ:…あの時もびっくりしたけど、改めて見ると本当にドラゴンって

     大きいねえ。


ソロモン:俺も最初見た時、心の中でビビってた。


ルーシィ:それで、逆召喚の魔法が記されてるのがその書物?


ソロモン:ああ、この詠唱文をいじるだけで良いみたいだけど。

     やってみるよ。


     「太古の覇者にして天空と大地を自在に闊歩する者よ!

     我、ソロモンの名において汝らを元の世界へ帰還させん!」


     「ケール・ドラグネイト・スモン」!


     !?うううぅッ、ぐぅうう!!!


ルーシィ:ソロモン!?


ソロモン:や、ヤバい…魔力が足りない…!

     このままじゃ…!


ルーシィ:!!


     ………。


     あるよ、魔力。


ソロモン:…え?


ルーシィ:忘れたの?

     ボク達は赤き石にエレメントとして吸収された存在だよ。

     まだ石には魔力が残ってるから、それを使えば足りると思う。


ソロモン:で、でもそれをやったらルーシィ、君は…!


ルーシィ:大丈夫だよ。

     ボク達はもうとっくに死んでるんだ。

     わけのわからないことに使い潰されるより、こうして知り合えた

     キミの為に使った方が、吸収された皆も納得して逝けると思う。


ソロモン:だ、だけど…!


ルーシィ:キミはさっき誓ったよね。

     皆が魔法の恩恵を受けられるようにするって。

     だからさ、使ってよ。


ソロモン:る、ルーシィ…!!

     う……く…うッ…【泣く】


     うあああああああああーーーーッッッ!!!!


     【三拍】


     はぁ、はぁ……ッ、シャフィオールの体は……無い。

     そうか…無事に元の世界に戻れたんだな…。

     ! ルーシィ!


ルーシィ:ありがと、ソロモン。

     短い間だったけど楽しかった。

     またいつか会おうね。


ソロモン:ッ…さよなら、ルーシィ。

     また、いつか…。


ルーシィ:バイバイ…!

     【呟くように】

     …やっと、ヘルメスに会えるよ。


ナレ:ルーシィは微笑みながら、その姿を消した。

   同時に赤き石は粉々に砕け散り、風に乗って飛び去る。

   その後、世界に魔法の存在は急速に広まっていき、一人の老魔導師が

   願ってやまなかった、全ての民に魔法の恩恵があまねく行きわたる事

   となる。

   そこには魔法を発見したニコラスフラメル、ヘルメスと託されてきた

   遺志を継いだ最後の弟子、ソロモンの存在があった事は伝承の示す通

   りである。



END





はい、作者です。

塵神さんをはじめとする方々が作り出した世界観と設定に基づき書き上げた台本です。

楽しんでいただければ幸いであります。


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