表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

ベイタロウと旅行

今日はベイタロウとちょっとした旅行に行く。山の方にある温泉に行く。


「ベイタロウ! 行くぞ!」


「べぇ!」


海風はベイタロウと車に乗り込んだ。


「出発!」


僕は音楽をかけて、車を走らせた。ハイテンポなロックミュージックとともに景色は流れる。なんだか、天気も良くて心が晴々とする。窓を開けると心地良い風が車の中を吹き抜けた。


自動運転区間に入ったので、ベイタロウとともに外の景色を眺めていた。今、季節は春。桜の花がちょうど見ごろを迎え、桜の花びらが舞い降りている頃である。時折、桜色の道が高速道路からも見える。なんて、のどかなのだろう。寒い冬を越えて、春を迎えた街は新しい季節に向けて希望で満ちている気がした。



いくつか休憩をはさみつつ、車を走らせた。そして、目的地まで着いた。

そこは知っている人には有名な滝である。まだ少し肌寒い山の小道を抜けると見えてくる。落差50メートルくらいの綺麗なカーテンのような滝である。滝から溢れるミストが冷たいが、そこでしばらく自然に包まれていた。鳥の鳴き声と川のせせらぎ、滝の打ち付ける音が心まで響いてくる。俳句の一つでも詠みたくなった。ベイタロウもこの自然の良さを理解しているのだろうか。ベイタロウはあくびをしていた。つられて、僕もあくびをした。


そこの近くのお店でヤマメの塩焼きを食べた。絶妙な塩加減でおいしい。どんどん食べ進めてしまう。すぐに骨だけになってしまった。骨だけになった魚を見た、ベイタロウは「べぇ!」と言っていた。



その後、神社に行った。御神木がとても大きい。なんだかパワーがありそうである。キャッシュレスのお賽銭というのも最近では多いが、ここでは小銭を用意してお参りした。

「希来美さんとの恋が実りますように。」

恋みくじもひいた。それにはこう書いてあった。

「この恋、成功する。しかし、時を逃がすと凶。」

僕は、安心できたような、できないような気持ちになった。



今夜泊まる温泉宿に着いた。和風の造りでなんだか落ち着く感じである。この山の雰囲気に合っている。霧の中にひっそりと佇む感じはとあるアニメを思わせる感じである。受付を終えて、部屋の中に入った。畳やふすまがある和室である。とてもいい香りがする。窓からの眺めは山の木々と穏やかな川、桜並木が見える。美しい川の流れには桜色の天の川がかかっていた。



僕は体を洗いたかったのでまず温泉に入りにいった。ベイタロウはさすがに温泉には入れないので、部屋でお留守番である。それにしても、とても心地良い温泉である。湯けむりが幻想的に包み込んで、その霞の先に桜の花がひらひらと舞っている。露天風呂から見える夕日は温泉の湯の上でオレンジにきらきらと輝いている。それに今の時間は他のお客さんがおらず、一人占めの状態である。

聞こえる音は、鹿威しの音、川や温泉のせせらぎ、鳥の鳴き声、風に揺れる木々の音だけである。この瞬間は日常の大変なことは忘れて、ただ温泉の暖かさとこの風景に包まれていたいと思った。



夢見心地で温泉に浸かっていた僕は、やっと温泉から上がり部屋に戻った。コーヒー牛乳を買っていたのでそれをおいしそうに飲み干した。そんな幸せそうな僕をベイタロウはうらやましそうな顔で見ていた。それに気づいた僕は「ベイタロウとこんな素敵なところに来られて良かった!」と笑顔になるまでベイタロウの頭を撫でてあげた。ベイタロウは「べぇ!」と言った。



お食事が運ばれてきた。綺麗なお浸し。きのこの味噌汁。茶碗蒸し。山菜の天ぷら。ヤマメの塩焼き。霜降りの牛肉のステーキ。しゃぶしゃぶ。その他にもいくつかの料理があった。料理の量が多くてお腹いっぱい食べた。どれも美味しかった。普段、食べないものばかりだった。ベイタロウもいつもより高級な食事をもらえたため、嬉しそうに「べぇ!」と言っていた。


ベイタロウと僕だけで旅行に行くのは、気が引けたが来て良かったと思う。今度は、希来美さんとゼリーちゃんも一緒に来られたらな・・。

 

夜が深まり僕は布団に入って、ベイタロウに「おやすみ。」と言った。そして、そのまま静かな夜に包まれていた。夢の中で今日見た美しい景色を振り返っていた。



朝が来た。ふすまの先から優しい朝の日差しが溢れる。柔らかな光に包まれた。


「べぇ!」


「おはよう~。」


僕もベイタロウも心地良く朝を迎えた。



僕は身支度をしてベイタロウと散歩に行くことにした。


僕は朝靄と湯煙に包まれた街を歩きながら、澄んだ朝の空気を吸い込んだ。川のそばを歩けば、風がさっと吹き抜けて、桜の花びらが舞ってくる。桜の花びらが一片、ベイタロウの頭に乗っかって、髪飾りみたいになった。


「綺麗だね。」


僕はベイタロウに言った。


路地裏の猫がベイタロウを見ている。ベイタロウは「べぇ!」と挨拶した。猫は反応せず、相変わらず寝転んだままこちらを見ている。小さな街はとても穏やかである。すっかりと春に包まれていた。



散歩を終え、宿に戻って朝食を食べた僕らは、山の頂上の展望台に行くことした。ここから、山頂へは飛行機バスが運行されている。

僕はバスのチケットを買って、バスに乗った。バスはゆっくりと空に昇った。窓にうつる建物が徐々に小さくなる。そして、小さな街の全体が見える。山の木々や桜、川がそれぞれの色を放っていて、上から見るとそれが一つの絵画のようになっていた。


数分後、バスは山頂に着陸した。そこから、展望台へとのぼった。展望台からの眺めは霞んでいたが遠い向こうの海まで見える。緑の山の向こうに高層ビルの町があり、その向こうには海がある。なんだか、地球の上に住んでいるんだなと改めて感じた。ベイタロウはこの景色を見て何を思っているのだろうか? ベイタロウはよく分からない方向を見ている気がした。


僕はスマートフォンを取り出して、この景色を撮影することにした。綺麗にうつる場所を探して、ここだ! とシャッターを切った。今度こそ、目に映る美しい景色を切り取ることができた気がする。自信ありげに写真を見返して見た。

すると、それは不思議な写真になっていた。光の粒みたいなものがたくさん写っている。景色を見てもどこにもそのような光の粒はないのに写真には写っている。まるで、心霊写真である。「なんだ、これ?」と思った。このフェイク画像が簡単につくれる時代に、何も使わずにこんな画像を撮れてしまうのはもはや才能である。

しかし、あえて、撮り直すことはしなかった。この世の中、目に見えるものが全てじゃないし、こういう光の粒が写るのも別段、おかしなことではないと思った。こういうのも含めて自然ってことなんだろう。

僕は画面から目を離し、美しい景色を目に焼き付けていた。



そして、僕とベイタロウは旅行から帰って来た。温泉で日々の疲れを癒し、美しい景色で自然を感じることができた素敵な旅だった。


「楽しかったな、ベイタロウ!」


「ベぇ!」


ベイタロウも楽しかったと言っているみたいである。とても素敵な想い出になった。今度、旅行に行くときは、希来美さんと行きたいなぁ~。


(つづく)


読んでくださってありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ