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ベイタロウと海風の友達

今週の仕事も終わり、休日になった。今日はわざわざ遠くから幼馴染の友達が遊びに来るので、駅で待ち合わせていた。


「おっは! 海風! 久しぶり~。元気にしていたか? それより、ジンベエザメのベイタロウくんはどこにいるんだ~。」


やって来た。友達の紗安久しゃあくである。僕の母と父の友達である鮫郎さめろうおじさんの息子で、古くからの友達である。鮫郎おじさんは面白いおじさんで幼い頃は、人生はクレーンゲームのようなものだからとクレーンゲームの取り方をよく教わったものだ。紗安久はそんなおじさんの息子である。


「おはよう! 紗安久! 相変わらず、元気そうだな。わざわざ、ありがとな。」


「おう! おう! やっぱり、リニア新幹線はいいよな! 時速500キロくらい出ているのに全然、揺れない。あれはもうすぐ、時空を超えて瞬間移動に近くなるな! それより、ジンベエザメのベイタロウくんは?」


「瞬間移動はないでしょ。でも、そのうちひょっとしたら・・いや、ないな~。ベイタロウは家にいるよ。」


「おう! おう! 会いに行こう!」


「まぁ~ いっか。ベイタロウに会いたいって言っていたもんな。じゃ~ いったん家に帰るか。」


「そうしようぜ!」



僕と紗安久は僕の家にきた。


「お邪魔するぜ! ベイタロウくんはどこだ~。」


僕が部屋を見るとベイタロウはいなかった。たぶん、変な奴が来たと察知して隠れているのだろう。でも、隠れるところは布団の中くらいしかない。

僕は掛け布団を押し上げた。布団にくるまっていたベイタロウがくるくるとローリングして出てきた。


「べぇ!」


すやすや寝ていたところを起こされたベイタロウは僕に言った。ベイタロウを探す紗安久はベイタロウを見つけて、歓喜の声をあげた。


「おう! ジンベエザメが布団の中で寝ている! ふ~~! かっこいい!」


「かっこよくはないだろう。」


なぜか、紗安久はベイタロウのことをかっこいいと言っている。変な反応である。ベイタロウは不思議そうな目で紗安久を見ていた。


「いや、かっこいいよ! 本来、海で泳いでいるジンベエザメが地上で夢を見ているってところは、とてもロックだ!」


「何が、ロックなんだ? 地上で夢を見ているってなんなんだよ!」


「おう! つまり、ベイタロウくんはかっこいいってこと!」


「意味不明だな。でも、良かったな! ベイタロウ。紗安久にかっこいいって言ってもらえて。」


「べぇ~!」


紗安久は、そんなベイタロウのそばに駆け寄って、「おう! かっこいい、かっこいい!」とつぶやきながら撫でてあげていた。ベイタロウは「自分、かっこいいです。」と言わんばかりの表情でくつろいでいた。


「おう! 表情が素晴らしいな、ベイタロウ! とってもいいな。今日は一緒に遊ぼうな。」


紗安久はそう言って、はっと、思い出したように言った。


「おう! 自己紹介をするのを忘れていたな! いくぞ!

オレの名は・・


『サメのように

覚めぬような

ビッグウェーブ越えて行く

その名もシャークだ!!』


よろしくな!」


「なんだ。それ!」


紗安久は変な自己紹介がきまったように得意げな表情をしていた。そんなおかしなノリの紗安久にベイタロウもテンションが上がってきた。


「べぇ~! べぇ~! ゔぇ~!」


ベイタロウも自己紹介したみたいだった。


それから僕と紗安久、ベイタロウは、ペット同伴可能なアミューズメント施設に行くことにした。



「よし、着いた~。」


ここはスポーツやカラオケなどが楽しめるアミューズメント施設である。


まずは、バドミントンをすることにした。

紗安久は言った。


「おう! 準備体操をしようぜ! ラジオ体操。」


「ラジオ体操とかするの。あまり覚えていないな。」


「大丈夫。ラジオ体操もリニューアルさせて、リミックスしておいたから。」


「ラジオ体操、リミックスするなよ。」


「おう! まず、聴いてよ。」


シンセサイザーが効いたEDMのリズミカルで低音が効いた音楽が流れだした。


「よし、行くぞ。ラジオ体操!」


「ドゥーン、ドゥーン、テテレッテ、テッテテ、ドゥー、ドゥーン・・」


「いけるか~! これのどこがラジオ体操なんだよ。」


「ちょっと、雰囲気が違うだけじゃん。こんなの何十年前からもあるものだぜ。」


「何年前からあったとしても、合わないものなんだよ! ラジオ体操とEDMは。ダンスをしなくちゃいけないかと思ったわ。ほら、ベイタロウが踊り出しちゃったじゃん。」


「べぇ!べぇ!」


「おう! ベイタロウ、ダンスもできるのか、かっこいい!!」


紗安久はダンスをするベイタロウに感心していた。



そして、やっと、バドミントンのラケットを握った。


「よし、今日は海風に勝つぞ!」

紗安久はそう意気込んでいた。


「最近、スポーツしてなかったし、体を動かせるのはいいな。紗安久には負けない!」

僕は言った。


ベイタロウには観客になってもらうことにした。

「ここに座ってみといてね。今から、僕と紗安久の大事な試合だから。」



バドミントン対決が始まった。僕はそこそこの上手さで、紗安久もそこそこの上手さである。だから、今日はどちらが上手いか白黒をつける戦いである。


「はっ!」

「サメ!」

「はっ!」

「サメ!」


両者互角の戦いで試合は進んでいた。ひどいところもなければ、見どころもない試合である。ここで僕の返しが甘くなってしまった。この時を待っていたように紗安久が必殺技を繰り出す。紗安久は大声で言った。


「ここだ! 伝統の技、必殺、サメサメトルネードスマッシュ!! コンッ」


僕はびっくりしてしまった。


「なんだ、この技は! 伝統? 必殺? サメサメ? トルネードスマッシュ? 大層な名前だ。いやしかし、名前の割に全然、威力がない。それにラケットのフレームにあたって甲高い音とともに変な回転がかかったまま場外へ一直線に飛んで行っている。なんだ、この技は。これは勝てるぞ。」


そう思った僕は紗安久にこれが本当の必殺技だと強烈なスマッシュを打ち込んだ。紗安久はなす術をなくしていた。案の定、僕が紗安久に勝利した。


「くっそ~。負けたか・・。まだ、修業が足りなかったってことか・・。」

紗安久は悔しそうに言った。そんな紗安久に僕は笑いながら言った。

「これで次から僕の方がバドミントン、上手いで決定ね!」

ベイタロウは自分もやりたいという風な顔で「べぇ!」と言っていた。



次にカラオケにやって来た。久しぶりのカラオケである。何を歌おうか考え中である。


「さぁ! 歌うぞ!」


「サメ! サメ! サメのように!」


「何の歌?」


「ベぇ! べぇ! ゔぇ!」


「ベイタロウも歌いたいの?」


僕は最近、よく聞いているバンドの歌を歌った。しかし、キーが高くて歌えない。音を外すたびにベイタロウが、「べぇ!」という。いらないガイドである。


紗安久は最近、仮想空間シンガーとして、人間なのか、AIなのか分からないということが人気なアーティストの歌を歌っていた。もう、まるで原曲の面影はないが。とにかく、分からなくなったら、「サメ!」と叫ぶ。そして、ベイタロウにレスポンスを求める。ベイタロウは「べぇ!」と返す。それの繰り返しである。


「君と僕~♪ もつれて~♪ テレポーション~♪

・・んで・・あの・・」

「サメ!」

「ベぇ!」

「サメ!」

「べぇ!」

「サメ!」

「べぇ!」

「なんだこれ?」


そうして、アミューズメント施設での楽しい時間は過ぎていった。僕は最後に紗安久とベイタロウの写真を撮ろうと思い、スマートフォンを取り出した。そして、紗安久の膝にベイタロウが乗っている最高の瞬間を切り取った。カシャ。最高の一枚が撮れたはずである。

しかし、最高の一枚であるはずの写真、そこにうつっていたのは、ただぼやけた自分の顔である。

自分の顔?

やっと理解した。それは間違えて、シャッターを切る時にインカメラの方にしてしまったのである。それで写ったのが自分の顔である。今時、こんな凡ミスをする人はいない。こんなに便利になった時代でも、僕の不器用さには勝てないということである。しかし、あえて、もう一度撮ることはしなかった。アミューズメント施設の方が僕も含めた記念写真を撮ってくれたからである。まぁ~これでいいでしょう。



その後、食事に行ったり、家でゲームをしたり、ベイタロウと遊んだりして過ごした。久しぶりに幼馴染の友達と過ごす楽しい時間だった。



そして、次の日になった。紗安久が帰る時間である。


「またな! 紗安久!」


「おう! 海風! 元気でな! ベイタロウも、元気でな! すぐ、また遊びに来る!」


「べぇ!」


そう言って、紗安久は帰っていった。


「そっちじゃないよ~。」


「おう! 乗り場、こっちか! リニア新幹線で瞬間移動~。」



紗安久はとても面白い奴だ。帰ってしまうと寂しく感じる。ベイタロウも少し寂しそう。紗安久はベイタロウとも友達になったみたいである。


「また会えるよ。」


「べぇ!」


(つづく)





読んでくださってありがとうございます!!

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