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とある休日の過ごし方

「何しようかな?」


さっきまで暗いニュースを見ていたが、今日は休日である。ただでさえ、仕事で疲れているのに休日くらい楽しまないと損である。そう思った僕はベイタロウにねこじゃらしを振りながら何をしようか考えていた。


とりあえず、お腹がすいたので少しご飯を食べることにした。一食分ライスを温めて、その上に僕の大好きな卵ソースをかけた。卵ソースとは、卵を買うのが煩わしい人のために開発されたソースである。かけるだけで卵かけご飯ができる。その他、料理で卵の味を加えたいときに使えるソースである。しかし、実際の中身は卵ではないらしい。いろいろ、加工、調整されて卵の味を出しているらしい。少し、不安にもなるがそんなことを言いだしたら、きりがないので気にせず食べている。

僕は卵かけご飯を口の中へ流し込んだ。


「べぇ!」


そんな僕にベイタロウがエサをくれと鳴いた。



次に、僕は最新の仮想現実のゲームをしようと思った。昔からあるVRゲームの進化版である。脳波コントローラー付きのVRゴーグルを準備した。これは今の時代では必須アイテムである。脳波の信号で操作できるものである。

今のゲームは仮想空間の中で遊ぶものが多い。様々なタイトルが発売され、それぞれでいろんな世界の中に入って遊ぶことができる。僕は「リゾート オブ ベイ シティ」というゲームをすることにした。VRゴーグルをつけた。


きらめく海の中である。色鮮やかな魚たちが泳いでいる。まるで南国の海の中を泳いでいるみたいである。海の感触がする。脳波によってコントロールされるので、基本は頭で考えたように動く。僕はゆらゆらと泳いでいた。宝箱を探しては、珍しい生き物を見つけては泳いでいた。波の音が心地よい。水面にうつる月明かりの描写は幻想的である。


脳波コントローラーの技術は便利だが、少し怖くもある。

最近、人間が頭の中で何を考えているのかを知ることが出来たり、記憶を抜き取ってデータ化したりできるらしい。記憶が盗まれることもありうるらしい。つまり、人間の脳自体もインターネット接続され、機械のように扱われるのである。

さらにありもしない記憶を埋め込むこともできるらしく、そこまでくればもう人間も終わりだと思う。しかし、あくまで医療用に開発されている技術である。これで脳の病気などで苦しむ人が救われるというなら悪くないかもしれない。

実際、今の時代、目に見えないことが多すぎて、どこを生きているのか分からなくなる。

今、目に映る綺麗な海も本当は存在していない仮想の世界である。


僕は仮想の南国の海を彷徨っているのに疲れて、VRゴーグルを外した。

すると、目の前に南国の海から飛び出して来たような影が目に映った。


「うわっ!」


僕はびっくりした。


そこにいたのは、ベイタロウだった。ベイタロウが変顔をしている。


「驚かすなよ~。」


「べぇ! べぇ! ベぇ~い!」


とベイタロウは変な鳴き方で笑っていた。



なんだか疲れてしまうVRのゲームではなく、レトロなビデオゲームをすることにした。昔からあるビデオゲームも人気が高い。僕はオフラインのRPGゲームを始めた。ベイタロウも見ているので、ゲーム実況風に何かつぶやきながらしていた。


数十分後、ゲームも飽きたので、次にギターを取り出した。僕はギターにあまり興味がない。しかし、母である陽呼子が昔、バンドをしていた。その時に使っていた黄色いギターを一本、僕に授けてくれた。そのため、時々、触ってみることがある。かっこいい。母さんはこれを使って音楽をしていたんだなぁと思う。

僕は母さんの音楽についてあまり多くのことを知らない。それについて聞こうともあまり思わなくなった。それは自分が人生を歩む中で母さんには母さんの人生が昔から続いていて、その中で音楽が大きな意味を持っていたのだろうと思うようになったからである。それは僕が軽く話すよりも神聖なものかもしれない。(僕は軽い気持ちでギターを弾こうとしているが。)



僕はまず、ギターの弦の音を合わせようと思った。しかし、チューニングの仕方が分からない。とりあえず、ベイタロウを呼んだ。


「ベイタロウ、もし、チューニングがあっていたら、合図してね。」


「べぇ!」


ベイタロウは僕の無茶ぶりの要求にあたかも「できますよ!」といった感じで答えた。僕はその返答を信じて、上の弦から順番に弦を鳴らしながら、締めたり、緩めたりした。

ベイタロウが「べぇ!」といったタイミングでとめて、弦のチューニングをしていく。こんなんでいいのかと思いながら、チューニングを進めた。

なんとかチューニングが完了した。僕はチューニングを終えたギターの全ての弦を一気に鳴らしてみた。きっと、いい音がするはずである。


「ジャラディラトゥインヴィ~ン」


・・・それは期待外れの音だった。チューニングする前よりも聞き苦しいとんでもない不協和音になっている。ギターが心配になるくらいチューニングができていなかった。そりゃ、当たり前である。ベイタロウはチューナーではない。

ジンベエザメのベイタロウはテキトーな僕に対して笑い転げていた。僕はさすがにこれではよくないので、どうにか、チューニングのやり方を調べてそれっぽくチューニングした。


チューニングを終えた僕はドレミファソラシドの弾き方を練習するために弾いてみることにした。


「ド・レ・ミ・・・」

「べぇ!」


「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・・・」

「べぇ!」


「ド・レ・・・」

「ベぇ!」


「ド・レ・ミ・ファ・ソ・・・」

「べぇ!」


ベイタロウは僕が間違えるたびに「べぇ!」と言っていた。あまりにも間違えすぎて、「べぇ!」の嵐である。


今度は「きらきら星」を弾いてみた。


「トゥン・トゥン・トゥ・チュン・トゥン・トゥン・カッ・・」

「べぇ!」


「トゥン・トゥン・カッガッ・・」

「べぇ!」


「チュ~ン・・」

「べぇ!」


ベイタロウは僕が音を外すたびに「べぇ!」と言っていた。「ベぇ!」ばっかりである。おそらく、ベイタロウは「きらきら星」を知らない。それなのに、僕の演奏に「ベぇ!」である。だから、僕はベイタロウに言った。


「僕は音を外しているんじゃない、アレンジだ!」


そう言い張った僕にベイタロウは笑いながら言った。


「ベぇ!」


僕はちょっと腹が立ったのでギターはやめにした。



次はまた仮想空間に行くことにした。『アバターベイ』と呼ばれるメタバースの仮想世界に入った。

この仮想世界では、ショッピングモールや図書館、美術館、ライブハウスなど、様々な施設があり、そこで買い物やライブ鑑賞などをすることができる。僕はそんな仮想世界を一人で歩いていた。誰もいない世界である。この仮想世界の良いところは他のアバターを存在させたり、存在させなかったりすることができることである。一人で街を歩きたいときは自分のアバターだけを存在させ、恋人と歩きたいときは二人のアバターだけ、不特定多人数で遊びたいときはたくさんのアバターを表示させることができる。

僕は自分の分身であるアバターとこの世界でのペットである猫だけを存在させ、街を歩いていた。



通知ボックスに何か届いた。新しく連絡先を交換した人からのメッセージである。


「KICOMIN」


「あっ!」


僕は少し嬉しくなった。

あのフンボルトペンギンの子、ゼリーちゃんの飼い主、希来美(きこみ)さんからだ。僕はドキドキしながらメッセージを開いた。


「こんにちは! 海風くん、覚えている?

交流会でお話した希来美とペットのゼリーです!

ゼリーがまたベイタロウくんと会いたいみたいで、私も海風くんとお話ししたいから、今度、時間があれば、お話ししましょう!」


という内容だった。


僕はそのメッセージを見て、一気に心が跳ねた。体が熱くなる。先の未来が明るく照らされたような気分になり、喜びが溢れ出す。自分のアバターも歓喜する。


「あの希来美さんから連絡が来るなんて! それも、また会いたいって!! やった~!」


僕はVRゴーグルを外し、興奮冷めやらぬままベイタロウに言った。


「ベイタロウ、ゼリーちゃんにまた会えるよ!」


いきなり、すごい勢いでこんなことを言われたベイタロウはよく分からないという表情をしていたが、一応、「べぇ!」と言った。


僕はすぐにスケジュールを確認して、日程調整カレンダーと「ぜひ、会いましょう!」の返信を希来美さんに送った。



僕は気持ちが舞い上がって、ベイタロウのように「べぇ!」と言った。そして、なぜか、流行りのダンスミュージックをかけて踊っていた。もう浮かれてしまっている。ベイタロウはそんなテンションが高い僕を見て、「べぇ~い!」と言って、一緒に踊っていた。僕とベイタロウ、ともにリズムに合わせて踊っていた。


今夜はダンスパーティーである!


(つづく)



読んでくださってありがとうございます!!

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