人工知能ペットの交流会
「こんなのあるんだ! 行って見ようかな?」
僕は人工知能ペットを飼っている人たちの交流会があることを知った。普段はあまりイベントに参加しないが、ベイタロウがいつも家で退屈にしていると思うと、どこかに連れていこうと思った。そのため、交流会に参加することにした。
数日後―
僕はベイタロウを連れて街のカフェに入った。ここのカフェで行われるらしい。中に入ってみるととてもおしゃれなつくりである。落ち着いた雰囲気で広い。ちょっとしたライブができそうな感じである。ジャズの音楽が流れている。
人工知能ペットを飼っている人が数十人ほど来ていた。お金持ちそうな人が多い。なんだか、雰囲気にのまれて、ここにいるのが居心地悪く感じた。会場にいる人たちの装飾品が僕の安物の服(これでも僕にとっては最高のおしゃれ)とは、全然、違う。光っていた。ペットにつけている装飾品も違った。王子様、お姫様みたいである。ちなみにベイタロウは何の装飾品もつけていない。素である。
ベイタロウはこの状況でも呑気にあくびをしている。僕の緊張した感じとは温度差がある気がする。すると、あるマダムという感じの女性が話しかけてきた。
「あら、まぁ~。かわいいジンベエザメちゃんでありますこと。お名前は?」
僕は急に話しかけられてあたふたしながら応えた。
「ベイタロウって言います。」
マダムはベイタロウを見定めるようにジーと見ながら笑顔で言った。
「まぁ~。ベイタロウちゃん、本当に目が丸くてかわいいのね。うちの子も見て頂戴。うちの子のメイルよ。」
僕はマダムのペットを見た。猫型のペットであった。本物の猫に比べると少し毛並みが違うかなと思うが、ほとんど猫、そのものである。僕は「かわいいですね。」と言って、撫でてあげた。ベイタロウが仲良くするかな? と思ったが、どうも反応が悪い。ベイタロウは相変わらずあくびをしているだけであった。知らない人工知能ペット同士で仲良くすることはあまりないのかなと思った。
僕は次に態度がでかい皇帝ペンギンと目が合った。とてもふてぶてしく高そうな装飾品をつけてすましたような顔で座っていた。飼い主はどんな感じだろうとみてみたら、これまた僕が話しかけづらそうな高級時計、ネックレス、バッグ、その他を身につけたハイスペック感が満載の男性だった。僕はその男性の近くに行く予定はなかったが、ベイタロウがふてぶて皇帝ペンギン様の方へ行こうとしていたので、そちらの方へ押されるように行った。
ふてぶて皇帝ペンギン様は近くでみると大迫力である。同じ人工知能ペットでも雲泥の差があると思った。ベイタロウはそんなふてぶて皇帝ペンギン様の前に行って、なんだか体をくねくねさせていた。「どうしたんだろう?」とその様子を見ていると、ベイタロウが明らかにちょっかいをかけている。
すると、次の瞬間、ベイタロウがふてぶて皇帝ペンギン様に向かって、
変顔をして「べぇ!」と言った。
とんだ無礼である。一瞬で空気が凍り付く。それを見て、僕は冷や汗をかいた。ベイタロウは何をしてくれているんだろう。このハイスペック男性の飼う皇帝ペンギン様に変顔?
やめてくれ~!
しかし、皇帝ペンギン様は何の反応も見せなかった。
「なんだ、この頭が悪そうなジンベエザメは。」と言っているような感じだった。それでも負けずにベイタロウは別の変顔をしていた。
「べぇ!」
「こら! ベイタロウ、だめだよ~!」
僕は絶えられず、ベイタロウに言った。
そのちょっとしたやりとりに気付いた皇帝ペンギン様の飼い主がこちらを見た。僕は絶対に叱られると思った。もう見るからに僕とは生きている世界が違う。平民のような僕のペットが貴族のようなハイスペック男性のペットに変顔。許されるわけがない。もう土下座だ。土下座!
皇帝ペンギン様の飼い主であるハイスペック男性はベイタロウをみていた。僕は息がつまりそう。この場から逃げたくなった。そんな時、男性はついに口を開いた。
「かわいい~!! この子、かわいいね。君、ジンベエザメの子を飼っているの? この表情豊かな感じ。本当、素敵だね! 僕のアイスくんはかっこいいが、あまり笑わない。君の子はよく笑うね。素敵だ!」
僕は一気に脱力した。思っていたのと違うことを思っていたのと違う声のトーンで言われてある意味動揺した。
「この方、ベイタロウのことをかわいいって言ってくれている。そう言っている時の顔はさっきまでの威張った感じではなく、とても素敵な笑顔である。それにこのふてぶて皇帝ペンギン様の名前はアイスくん? アイスくんなのか? まぁ~ アイスくんなんだろう。全然、イメージと違う。絶対、怒られると思ったのにむしろ褒められた。やっぱり、人を見かけで判断してはいけないな・・。とても優しい感じの人だった。さっきまでの印象は僕の偏見だった。」
そう思っている間にも、まだベイタロウはアイスくんに変顔をし続け、無視され続けている。
次に僕とベイタロウは違うフロアへ行った。接客ロボが「いらっしゃいませ」と色とりどりのドリンクをのせて通り過ぎていった。
このフロアでは、僕と同じくらいの年齢の人が多かった。人工知能ペットのグレードの低いものは比較的安価なのでそれなりに飼いやすい。ベイタロウのように命が宿っているという感じはないが、みんな大切な家族のように接していた。それにしてもいろんな子がいる。小さくてちょこちょこ歩く馬型やのしのしと歩く亀形、くるくる回るパンダ型などである。中でも特殊なのが、アニメやゲームの中で出てくるモンスターの形のものである。この時代では、アニメやゲームの架空の動物が本当に意思を持った動物のように動いている。とてもレアであるため、出会うことはほとんどないが、出会うと結構、びっくりする。
ベイタロウはとある子に反応して、僕を引っ張った。僕はそちらの方に行った。するとまたペンギンの子がいた。
「また、ペンギンか・・。」
ベイタロウはまたペンギンの子にちょっかいをかけようとしている。今度はフンボルトペンギンの子である。
ベイタロウは小さくて優しい雰囲気のフンボルトペンギンの子の前に行って、また「ベぇ!」と変顔をした。僕は呆れた。
しかし、それを見たフンボルトペンギンの子はさっきの皇帝ペンギン様とは違って笑った表情で跳ねて喜んでいる。その反応を見たベイタロウは嬉しくなったのか、変顔だけでなくくるくると踊り出した。それを見たフンボルトペンギンの子も足をステップさせて踊っていた。とても楽しそうに踊っていて、見ている僕が癒された。
そんな様子を見ていたフンボルトペンギンの子の飼い主の女性が声をかけてきた。年齢は同じくらいの女性である。
「こんにちは。かわいいジンベエザメの子ですね! うちのゼリーとも仲良さそうで。ふふふ。私は希来美って言います。そちらの子はなんて名前ですか?」
急にペンギンの子に負けないくらい優しい雰囲気を纏った女性に声をかけられて焦った。それにとてもかわいらしい表情の人である。好みである。若い女性と関わることの少ない僕は急に春の木漏れ日のような雰囲気を感じて恋に落ちそうだった。
・・・何を言っているのだろう? 我に返って、なるべく焦りを隠すように言った。
「海風です! じゃなかった・・。この子はベイタロウです。僕の名前が海風です。え・・っと、かわいいですね! ペンギンちゃん。・・・。ゼリーちゃんですっけ? うちのベイタロウとも仲良さそうで・・。」
僕はかっこよく話そうと思ったが、ダメな自分を隠し切れずに話してしまった。希来美は僕の落ち着かないおかしな人間なところに気付いてしまったのか微笑んでいた。僕は恥ずかしくて赤面してしまった。そんな顔が燃えている僕に希来美は言った。
「実は、私、この子がいきなりショッピングセンターのくじで当選して来て、だから、まだ飼うのに慣れていなくて。ふふふ。分からないこともあるので良かったら、仲良くしてほしいです。」
これを聞いた僕は!!!!!! って気持ちになった。「ショッピングセンターのくじ? それって!」そして、僕は興奮を抑えながら聞き返した。
「えっ! もしかして、ベイタウンモールのハッピーショッピング運試しくじですか? あの5,000円の買い物で応募できる?」
「そうです!」
「本当ですか! それはびっくりですね! 実は僕もそのくじに当選してベイタロウが家族になったんです。」
「まぁ~!」
「えっ! あのくじの特賞の当選人数は5人でしたよね! その5人のうちの2人が今ここに揃うなんて。奇跡ですね! 運命・・。あっ・・いや・・そんなんでもないですね・・。」
僕は5人のうち2人が揃うという奇跡に運命を感じて盛り上がってしまった。しかし、冷静に考えると人工知能ペットの飼い主が集まる交流会なのだから、出会ってもおかしくはない。しかしだ。今年のおみくじに書いてあった。「今年、出会う人が運命の人になるでしょう。」って。なんの根拠もないが。だから、この広い世界で2人が出会う確率。
これは奇跡。いや、運命?
「奇跡かもしれないね~。こんなゼリーちゃんとベイタロウくん、仲がいいですもん。ふふふ。見ているこっちが癒されますね~。」
希来美は素敵な笑顔で言った。
ベイタロウとゼリーは本当に仲がよさそうである。ダンスをしながら、
「べぇ!」
「ぐぅ!」
と言っている。
なんて、楽しそうなんだろう? もしかして、ベイタロウもゼリーちゃんと恋に落ちたのではないだろうか。(人工知能ペットに恋の感情があるのかは知らないが。)だとしたら仕方がない。これからもたくさん会えるように飼い主も頑張らねば。
「ベイタロウとゼリーちゃん、仲いいですね! これからも友達のゼリーちゃんと遊びたいってベイタロウがきっと言うと思います!・・・これからも仲良くさせたいので、 良かったら、連絡先交換しませんか?」
僕は恐る恐る連絡先を聞き出した。
「ぜひぜひ、しましょう! 人工知能ペットを飼っている人と仲良くなりたかったんです! まだ分からないこともあると思うので情報交換しましょう! 」
希来美はまた素敵な笑顔で言った。僕はその笑顔と言葉にフワフワしすぎてベイタロウの尾びれがパタパタとお腹にあたっていることなど気にもならなかった。そんな状態で希来美さんと様々な話をした。
僕はベイタロウとゼリーちゃんの仲良しな写真を撮ってあげようと思った。スマートフォンを取り出して、シャッターを切った。楽しい二人の写真が撮れたような気がしたので、すぐにベイタロウに見せてあげた。
「べぇ~!」
ベイタロウは少し馬鹿にしたような鳴き方をした。僕は改めて写真を見てみた。すると、ピントは机の上のコーヒーカップに合っていて、ベイタロウはぶれている。さらに肝心のゼリーちゃんは半分しか写っていなかった。これではいくら補正機能の発達した今のスマートフォンでもどうしようもなかった。しかし、あえて、撮り直さなかった。それは、またいつか会えることを考えるとまたその時に撮ればいいと思ったからだ。これから、何回も何回も会って、希来美さんと仲良くなるんだから!
今日はこれで希来美さんとゼリーちゃんとは別れた。でも、連絡先を交換しているので、いつでも会える。それに「また、会おうね!」と約束した。なんだか、今日は交流会に参加してよかったと思う。とても素敵な人と会えたのだから。僕もベイタロウも行きの時より心が浮ついていた。
「ベイタロウ、今日は楽しかったね!」
(つづく)
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