美しい希望の未来
「眠れない・・。」
僕は今、全然、眠れない。頭の中から希来美さんのことが離れなかった。
あれから数回、希来美さんと会った。ホワイトデーに美味しそうな高級マカロンとゼリーちゃんにビスケットをあげた。でも、まだこの想いを伝えられていない。なんだか、このままでは、時を逃して、希来美さんとは会えなくなる気がしていた。そうなる前に、僕はどうしてもこの気持ちを伝えなければならない。
どうしよう。
今すぐにでも、メールでこの想いを伝えたいが、それでは違う気がする。今度、あったときに直接伝えたいと思う。
そう思っていても朝が来ればこの気持ちも覚めて、今は友達でいいかなと逃げてしまうかもしれない。
僕は眠れぬまま、朝を迎えた。仕事に行かなくてはならない。変に熱を持った眠たい頭を整えて、仕事に行く前にベイタロウに聞いた。
「僕は希来美さんに想いを伝えるべきかな?」
ベイタロウは答えた。
「べぇ!!」
とりあえず、気持ちを切り替えて、仕事に行った。
そして、仕事にも疲れきって迎えた休日、今日、希来美さんに会いに行くことにした。今回はベイタロウには留守番をしてもらう。二人で会うのだ。家を出るとき、ベイタロウは「頑張れ!」という風に「べぇ!!」と言ってくれた。
僕は人生で一度も告白をしたことがない。緊張していた。どうしようか。断られてしまったらそれは仕方がないことだが、うまく伝わらなかった時が一番嫌である。上手く伝えられるだろうか。そんな不安でいっぱいである。
希来美さんは何も知らずにやって来た。
しかし、僕の異変に気付いた。
「どうしたの。海風くん。目の下にクマができているし、大丈夫? 疲れていない?」
「・・・」
「お~い。大丈夫? また、どこかに意識が飛んじゃっているよ~。」
・・・
「希来美さん! 出会った時から好きでした! 僕と付き合ってください!」
・・・
僕はもう伝えるしかないという勢いで言った。あんなに言うことを決めていたのに、もう何の面白みもない告白をしてしまった。これしか、言えなかった。これでダメならもう仕方がないと思った。
伝わったのだろうか?
希来美さんは突然の告白に少し動揺していたが、すぐに笑顔になって言った。
「よろしくお願いします。」
僕はすっと肩の力が抜けた。こんなにうまくいっていいのかと逆に不安になるくらいだった。
希来美さんもこういうのには慣れていないみたいで、真剣に想いを伝えた僕に何か伝えたかったみたいだが、試合が終わって勝利を噛み締めている選手みたいな表情を隠しきれていない僕を見て、ここで笑ってはいけないと思いながらも大爆笑しそうになっていた。
必死に抑えている。
下をみて、僕を見て、天を見て、また下を見ている。
そういうところがまた希来美さんの良いところだ。
希来美さんは笑っていた。
その後、急遽、希来美さんとデートをすることになった。水族館に行ったり、夜景を見ながらご飯を食べたりした。人生の中でも一番くらいの最高な時間だった。
僕はそんな希来美さんとのデートから帰ってきた後にベイタロウに言った。
「希来美さんと付き合うことになったんだ! これから、ゼリーちゃんと会うことも増えると思うからベイタロウもゼリーちゃんと仲良くしてね!」
ベイタロウは笑顔で「べぇ!」と言った。
人工知能ペットにも、寿命がある。20年~25年くらいである。その時間の中で家族としてたくさん愛し、たくさんの想い出をつくりたい。
きっと、心を持つものは生きている時間の中でたくさんの想いを抱く。その想いはもし寿命が来たとしても、どこかで生き続けるんだと思う。ベイタロウも同じだと思う。
ずっと一緒に生きて行こう。
そう思って僕はベイタロウを優しく抱きしめた―
今日は海に来ている。心地良い海風が吹いてきて、懐かしい気持ちになった。目の前に広がる海をベイタロウも見ている。気付けば、太陽から伸びる光の道が僕らの元まで伸びていた。僕は言った。
「ベイタロウ、この美しい海は心の中にしまっておいて。いつかまた、海風に吹かれた時に思い出せるように。」
「べぇ!」
ベイタロウは特に意味は分かってなさそうだが、笑顔で言った。
僕はスマートフォンを取り出して、カメラのシャッターを切った。そのレンズの先には希来美がいる。少し、シャッターを切るタイミングがずれてしまったので、良くない写真になったと思った。
しかし、見返してみると、これまで撮った写真の中で一番いい写真である。希来美の素敵な笑顔が写っていた。輝いている。あえて、撮り直す必要もない写真である。
そんな様子の僕を今度は希来美がカメラで撮った。映し出されたのは僕の笑顔の写真である。自分で見ても分かるくらい自然な笑顔だった。いつの間にか、ゼリーちゃんはベイタロウの元へ行って、楽しそうに遊んでいた。本当にゼリーちゃんとベイタロウは仲良しである。出会えてよかったんだと思う。
この時代に奇跡的に生まれてこうして出会えてよかった。
希来美は僕に言った。
「最近来てなかったけど、新しいカフェができているのね! 時代も変わったのね。これからも、どんどん変わっていくんじゃない?」
「変わっていくだろうね。でも、僕はずっと希来美とゼリーちゃんとベイタロウと笑っていたいよ。」
「ふふふ。なにそれ? 海を見すぎておかしくなっちゃった? ・・でも、そうね。私もみんなと一緒に笑っていたいな。」
「うん。本当に。未来が楽しみだ!」
ベイタロウはまだ誰も知らない未来に希望を込めるように言った。
「べぇ!」
(おわり)
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