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Noah-領域外のシロ-  作者: 文祈奏人
3章

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86.アリシャの訪問

 ロシュとの面会とルキシウスたちとの話し合いから数日。

 その日の朝もいつもと変わらず、ハークハイトと基地に向かうと正門の前に小さなお客さんが来ていた。


「アリシャ!」

「おはようございます、姫、ハークハイト。お身体何もないようで安心致しましたわ」

「もうすっかり元気だよ。アリシャたちもみんな大丈夫だった?」

「姫のお力のおかげで、みな無事でございます」

「良かった」


 今日は他のネコは見当たらず、アリシャ単独で基地まで来たようだ。

 艶々とした長毛の毛並みを撫で抱き上げると、アリシャはされるがまま、私の腕に抱かれてくれた。


「ところでハークハイト。賊から情報は聞き出せたのですか?」

「進展は色々ありました。ここでは人目もあります、場所を移しましょう」


 私たちは執務室へと場所を移す。

 途中、魔獣は出入り禁止じゃなかったの? とハークハイトに言うと、ネコ一匹くらいなら構わんと言われた。

 ついこの間カオとヤヤが破壊した扉はすぐさま修理され、元に戻った綺麗な扉を開き中に入るといつもの様にユーリが待っていた。


「おはよう。ハークハイト、シロ……とアリシャ殿?」

「ユーリ、おはよう」

「お久しぶりですね、ユーリ」


 朝の挨拶も終わり、すぐに話し合いに移るだろうと執務室の長椅子に腰掛け、アリシャを膝に抱える。


「あー……シロ? アリシャ殿は大切な用で来たんだろ? 客人が膝の上と言うのはちょっと、なぁ」

「構いませんよ、ユーリ。我々にとって、姫の手で撫でていただけることはとでも幸福なことです」

「アリシャの毛、艶々でふわふわで気持ちいいんだもん」

「アリシャ殿が良いなら良いのですが……」


 苦笑いを浮かべつつも、ユーリは話し合いに参加するべく反対側の椅子に腰かける。


「ところでアリシャ。私は姫じゃなくてシロだよ。ちゃんと名前で呼んで」

「そう言えば、鹿の王もそう言われたとおっしゃっていましたね。では改めて、シロ」

「うん」


 「シロ」、そうマオが名付けてくれたこの名前で大好きなみんなに呼ばれるのが、私は何よりも好きなんだ。


「では、アリシャ殿。賊の長である男から得られた情報をお伝えいたします」


 席に着いたハークハイトの言葉で、話し合いは始まった。

 

「まず、研究所で例の獣を作っている首謀者として、元領主夫妻の息子である、イリヤ・デミコフと言う人物が浮かび上がりました。ですが、これはまだ確定ではありません。そして、そのイリヤと行動を共にしているのが神獣、朧鴉(オボロガラス)とのことです。賊の証言と先日の事件の際に、領境付近でメテルキア方面へと飛ぶ朧鴉が目撃されていることから、何らかの関わりがあるのは間違いないでしょう」

「鳥の王が? そんなまさか。我々の調べでは鳥の王が研究所付近にいると言う話は……。何より、鳥の王は……」


 ちらりと振り向き私を見るアリシャの額を私は優しくなでる。


「わかっています。朧鴉(オボロガラス)とシロとの関係については不明点が多く、我々も困惑しているところです」

「いつの時代も、鳥の王は四神獣の中で最も慈愛に溢れ、命を尊ぶ御方であると、我々ネコ族の間では語られております。私は、残念ながら鳥の王にお会いしたことはありませんが、単独主義の王たちと唯一平等に関わりを持っているのが鳥の王で、全ての王の中で最も攻撃的力を持たないとされる鳥の王は、ある意味他の三神獣にとって守るべき存在なのだと聞き及んでおります。そんな鳥の王が、あのような命を侮辱する様な行いができるとは思えません。我々にとって、姿形は変われども、この時代の鳥の王は姫なのだと思っております」


 この時代の鳥の王……。

 そんなことを言われても困ってしまう。


「そして、もうひとつ。シロを育てていた人物が、研究所に捕まっているとの情報が。そして、その人物から二十年前に起きた事件の真相を調べる様言付かっています。恐らく、その事件の真相を明るみにすることで首謀者を止める鍵になるのではなかいかと我々は踏んでいます」

「二十年前、ですか……。彼の地の薬草園付近は、鳥の王が治め、多くの鳥を始め、数多の魔獣たちが再び鳥の王が帰ることを信じ、今もなお住み着いている土地ではありですが、その様相は二十年で随分変わってしまったと聞いています」

「魔獣にとっても、なのですか……? 二十年で大きく変わったのは人も同じです」

「人間と魔獣の変化が同じ二十年前からと言うのは少し気になりますね……。彼の地では二十年前から鳥の疫病が猛威を振るう様になったとも言いますし」


 色々なことが「二十年前」と「メテルキアの薬草園」と言うキーワードで繋がって行く。


「人間の事件については我々が関与するところではありませんので、あなた方に解明をお任せします。あなたがたがその真相を調べることで、結果研究所の行いを止められる可能性があるならば、その間に更なる被害が魔獣に出ない限りは鹿の王も動くことはないでしょう。ですが、猿の王はここ最近所在が分かりません」

猿忌(エンキ)ですか……」

「猿の王は力も強く、人間に対して友好的ではありません。いつ、魔獣たちの未来を憂い人間に牙を剥くか、それは我々にも分かりません。人間を見張るは鹿の王だけではないと、くれぐれも肝に銘じて解明を急いでください」

「心得ています」

「それから、姫。……ではなく、シロ」

「ん?」


 ハークハイトとの話がひと段落すると、アリシャは尻尾で私の腕をなぞる様に振り向いた。


「鹿の王が、またあなたにお会いしたいとおっしゃっていましたよ」

「ルーシュが? 私もまた会いたいなぁ。ルーシュと一緒にいた小鹿ちゃんたちも元気?」

「えぇ。それはもうすっかりお転婆で、王も手を焼いております」

「ふふふ。王でもそう言うことあるんだね」

「王とて、親としての役割は他と変わりませんよ」

「そっか」

「鹿の王がこちらの近くへ来ることがあればお声がけ致しますね」

「うん、楽しみにしてる!」


 ロシュから得られた情報をハークハイトに聞くと、それではまた良き頃にと、アリシャは帰って行った。

 二十年前の事件の真相も解明しないといけないところだけど、私としてはやっぱり薬草園付近で流行している鳥の疫病と言うのが気になった。もしも、なすすべなくたくさんの鳥が亡くなっているのだとしたら心が痛む。

 ルキシウスが王への謁見の機会を探ってくれている内に、もう少し鳥の感染症について研究しておくべきかもしれない。


「ハークハイト、もう一度領主城の薬草園にある資料室へ行きたいんだけど良いかな?」

「ガンフに複製を大量に届けてもらっていただろう? 足りないのか?」

「もらった資料は全部読んだけど、資料室に置いてあった資料に比べたらほんの一部だもん。足りないよ」

「あの量をもう読んだのか。君は薬学の分野に関しては本当に恐ろしいな……」

「ハークハイトが忙しいのはわかってるけど、メテルキアで起きてる鳥の感染症がどうしても気になるの。レパルからもらった手紙である程度対処方は思い付いてるんだけど、もう少し参考になる資料を探したくて」

「感染症についてか……」

「ダメ?」

「いや、君の心配症がこれまでも功を奏してきた。調べておけば万が一、フェリジヤまで被害が及んだとしても抑えられるだろう。すぐに、ルキシウスに確認して日程を調整しよう。今回はルキシウスに会う必要もないから許可だけ取り付けたらすぐに行けるだろう」

「ありがとう、ハークハイト! 資料たくさんあるし、モリスとカスクにも手伝ってもらいたいんだけど、二人も連れて行っていい?」

「構わん。モリスには父親に会う可能性があるとしっかり伝えておきなさい」

「わかった」


 私は、ハークハイトとの話を終え、すぐに処置室に向かい、近いうちに領主城の資料室へ行く話をモリスとカスクに伝えた。

 

「だから二人にも来て手伝ってほしいなって。本当に貴重な資料ばかりだからすごく勉強にもなると思うよ」

「父に会うリスクはあるけど、資料は見たい……」

「俺、平民なのに行っても良いんでしょうか?」

「ハークハイトが良いって言ったし、大丈夫だよ! ガンフもウェインもそんなこと気にする様な人たちじゃないよ」

「じゃぁ、俺は行きます!」

「僕も行く。……けど、当日は変装してもいいかな?」

「私は構わないけど、城内で変な格好してたら逆に目立つんじゃない?」

「後で、ハークハイト様に父と鉢合わせない様にルキシウス様に頼んでもらおう……」


 ルキシウスに頼むと、逆に鉢合わせする様に仕向けられそうな気も……と思ったがモリスが行かないと言い出すと困るので黙っていることにした。

 それに、私としては病気も治して立派に騎士団で働いているモリスの姿をイールに見て欲しいと言うのもある。

 そんな訳で、私たちの領主城薬草園の資料室行きが決定した。

話の本筋の整理を数話にかけてやったのですが、ちょっとくどかったかなと反省しています。。

この辺の加減は本当に難しいですね。

次回より、話は通常運転に戻ります。

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