プロローグ
それは、土砂降りの雨の日で、雷も激しく鳴る日の夜だった。
だけど、雨よりも雷よりもけたたましいサイレンの音がよく響いていた。
「はぁ……はぁっ……絶対、絶対助けるからな!」
ずぶ濡れになりながら、私を抱えて走るその人の目は必死に前を見ていた。
肩ごしに見える遠ざかる景色は、暗い暗い閉ざされた場所に不気味にそびえる四角い建物。
初めて見た檻の正体。
「はぁ……はぁ……」
彼は木々の間や岩の陰に隠れては追っ手をやり過ごしあてもなく先へと進んだ。
「ここまでか……」
そんな呟きが耳に届くと、
「俺はダメでも、この子だけなら……」
彼は意を決した様にガサガサと草を分け、木々の中を入っていく。
グルルルと何が唸る声や、カカカカと変な音がしているけれど、逃げようにもずぶ濡れになって失った体温に、私も彼も既に限界だった。
「誰か……この子を……!」
白い息を吐き出しながら、大声も出ない体力で重たい足をそれでも前へ進める。
「……っ!」
けれど、疲れきった彼の足は思うように上がらず何かに躓き、私は抱えられたままドサッと地面へ転がった。
――もういい。ありがとう。
そう言いたいのに、声は音にならず、雨に冷え切った身体は重い瞼に抗えない。
「まったく、招かざる客が来たものだ……」
そして、目に映った白い四肢とふわりと頬に触れた何かを、その声の正体を、確認しようと視線を動かし終わるより先に私は意識を手放していた。
初執筆小説。
拙いながら頑張りますので、お付き合いいただけたら幸いです。