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遊星の魔女と輝きの子供たち  作者: 宵月あきら
1/1

始まりの予感

はじめまして。宵月と申します。

このように小説を書くのは初めてのことで、拙い文章ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。


私には、7歳と5歳の2人の息子がいます。

夜眠る前に絵本を読むのが習慣でしたが、ある時絵本に飽きてしまった息子たちが、自分たちでお話を作りはじめました。

3人の勇敢な子供たちの冒険。

楽しいやりとりに、美しい世界、恐ろしいモンスターたち。

あっという間に私もその物語に夢中となり、親子3人でどんどんアイデアを出し合っては、テラたちの冒険を進めていきます。

いつしかそれは毎晩寝る前の日課になり、まさに魔法にかけられたかのように、仕事や家事に追われて疎かになっていた「親子の絆」を繋ぎ直してくれました。


私は彼らの話すストーリーを組み立て、文に起こしてみることにしました。

そうして出来上がったのが、この「遊星の魔女と輝きの子供たち」なのです。


これを読んでくださる皆様にも、魔法の力が届きますよう…願っております。

「お化け屋敷に探検に行こうぜ!」

夕陽が沈む様を窓からぼ〜っと眺めていたマックスは、思い付いた!とばかりに、夏の若草を思わせるグリーンの瞳をキラキラと輝かせて言った。


「絶対にいやだよ!僕は行かないからね!?」

それに即座に反応したのはヨハンだった。

飛び上がり抗議した反動でテーブルが揺れ、テラがノートに写していた文字がぐにゃりと歪んでしまった。


「あっごめんね、テラ…!」

とヨハン。

「ダッサ!何やってんだよ、ヨハン〜」

ケラケラと笑うマックスを、ヨハンは憎々しく睨みつけた。


テラと呼ばれた少女は、小さく一つため息をつくと、歪んだ文字を消しゴムで消しながら応える。

「…お化け屋敷って、マックスんちの裏手にあるお屋敷のこと?」


「そうそう!この前、隣のスージーが、あの屋敷の窓辺に動く人影を見たんだってさ」

な!興味あるだろ!?と、マックスはテラの顔を覗き込んだ。


「…とかなんとか言ってさ…本当は宿題やるのが嫌になっただけだろ…」

ヨハンがボソッと文句を言う。


テーブルにはマックスがやりかけた宿題が散乱し、消しゴムに突き刺ささった鉛筆やら、ノートの端に書かれたパラパラ漫画から、マックスが宿題に飽きて遊び始めた様子が手にとるようにわかった。


イースターホリデーがそろそろ明けるというのに、2週間足らずの間遊ぶことに全力を注いでいた3人は、そろそろ宿題に着手しないとまずいよ!というヨハンの呼びかけで、今日1日テラの家に集まって「宿題を片付ける日」にしたのだが。


マックスが素直に宿題を終わらせられるわけもなく、ーーーそんなことは幼児クラスの頃からわかりきったことだったけどーーースペルの学習にうつった時点で完全に集中が切れて、遊んだり他の2人の邪魔をしたりするマックスに嫌気がさしていたテラは、それでマックスが大人しくなるなら…という気持ちで「別にいいけど、」呟く。

続けて、宿題を全部終わらせてからね…と言い終わる前に「ええ!?」という困惑の声と、「よっしゃぁ!」という歓喜の声でテラの言葉はかき消されてしまった。


マックスはテーブルの上の宿題を、右腕でガーーーッと一気に集めると、テーブル下に大きく口を開けたリュックの中へと無造作に落とし込んだ。

「じゃ、それぞれメシ食ったら俺んちに集合な!!」

それだけ言い終わると、まるで嵐のごとくドタバタバーンバタン!と、騒がしく部屋から出て行った。


ヨハンは荒れ狂う嵐の中、「あっ」「ちょっと」「ねえ!」などと途切れ途切れに声をかけてはいたものの、嵐の勢いに敵うはずもなく、終いには部屋から飛び出していくマックスをポカーンと見つめているしかできなかった。


テラはというと、呆気にとられながら「もうっ…」と呻くも、うるさい友人が抜けたことで宿題に集中できることを、内心喜んだ。


すでに宿題を終わらせて趣味の絵に興じていたヨハンは、諦めたように「はぁ〜…」と長めのため息を吐き、「じゃあ…僕も一旦帰って夕飯を食べてくるよ…あぁ…嫌だな…」と、がっくりと肩を落とした。

仕立て屋の父親に新調してもらったばかりの革の鞄に、そっと勉強道具と空想を描いたキャンバス地のノートを仕舞う。

「じゃあ、テラ。後でね」

肩を落としたまま漏れる吐息に言葉を乗せた。


「うん。じゃあ、また後でね」

ヨハンを笑顔で見送ると、テーブルに置かれた大好物のリンゴジャムクッキーを手にとり齧る。

夕陽が落ちきった窓を眺めて、パーマがかった茶色い短い髪を指でくるくると弄り始めた。

これはテラが物思いに耽るときのいつもの癖だ。


テラには母親がいない。

テラが生まれたばかりの頃、車の事故で死んだのだ。

事故は凄惨なものだった。

トレーラーとの衝突で、テラの母親ーリズーの運転する車は原型を留めないほどに大破。リズは即死だったが、後部座席のベビーシートに同乗していたテラは全くの無傷で助けられたのだ。

しばらくの間、「奇跡の子」としてニュースなどで取り上げられるほどの出来事であった。


その後は祖母のソフィアが同居し、テラの面倒を見ていてくれたのだが…。


去年、祖母がまるで娘のリズが生きているかのような口ぶりをしはじめたので、おかしいと気付いたテラが祖母を無理矢理病院に連れて行った。

すると、アルツハイマー型認知症が発覚し…そのまま施設に入所することになってしまった。


週に一度は必ず施設を訪問し、祖母との時間をとるようにしているが、祖母はテラをリズだと思い込んでしまっている。

心が自分を見ていない祖母と、亡き母。

さまざまな想いが重なって、いつも施設をあとにするときには、耐えられず涙がぼろぼろと流れ出した。


それでも施設通いをやめないのは、祖母を1人にしたら可哀想という想いと、祖母との会話で母の面影を感じることが出来るからかもしれない。



突如として始まった父との2人暮らし。

父親のジェイクはまるで悲しみを追いやるかのように仕事に没頭し、同じ家の中でもなかなか会うことができない。

いつしか家事や料理などはテラの役目となった。

それでも、夕食だけでも一緒に摂ろうと約束し、テラにとって夕食の時間はかけがえのない幸せな時間のひとつになる。

ところが、ここのところジェイクの仕事が多忙を極め、約束は反故にされてしまっていた。


忙しいのはわかってる…

私を育てるため、必死なのだ…

そんなふうに自分に言い聞かせて、もう2ヶ月が経った。


「お父さんと一緒に夕食を食べたの、いつが最後だったっけ…」



リンゴジャムクッキーの最後の一口を口に放り込み、呟く。

クッキーはいつもより塩辛く感じた。



6:00PM


真っ赤なとんがり屋根の家の前。

テラはベネット家のこの家がお気に入りだった。

マックス…本名を、マクシミリアン・ベネット…の家族は、全員が燃えるような赤い髪をしている。

まるで家人の象徴のような「赤い」屋根。

意図的かどうかはわからないが、よくお似合いだと思う。


ライオンモチーフのノッカーでノックしようとしたところ、叩く前にガチャリとドアが開く。

迎えてくれたのは、銀と茶の毛並みを持つ、とてつもなく大きな犬だった。


「ハーイ、マチルダ!」

言うと、テラは大きなモフモフの塊に体を埋めた。

この大きな犬に抱きつく度に、暖かで気持ちの良い感触をいつまでも堪能していたいという気持ちになる。

マチルダはテラを歓迎し、優しく頬を舐めた。


彼女はアラスカンマラミュートという大きな犬で、とても賢く聡明な女性だ。

悪餓鬼マックスのお目付役でもある。


「テラ!いらっしゃい!」

一瞬、マチルダが喋ったのかと思いギョッとしたが、ドアの向こうからマックスの母オリヴィア・ベネットが現れた為、胸を撫で下ろした。


テラはすっと姿勢を整えて顔に笑顔を与えると、「ベネットさん、こんばんは。クッキーご馳走様でした。とても美味しかったです」

と流れるように挨拶をする。


オリヴィアはそんなテラの笑顔に「大人にならざるを得なかった」事情が垣間見え、胸の奥が熱くなるのを感じた。


「全く。いつまでも他人行儀なんだから」

と、恰幅の良い体と同じく、大きな手のひらでテラの頭を優しく撫でた。

「さあ、入んなさい。2人ともお待ちかねよ!」

オリヴィアの言葉とほぼ同時に、家の奥から「母ちゃ〜ん!?テラ来たの〜?」という元気な声が聞こえて、2人は顔を見合わせて笑った。



マックスの部屋に行くと、すでにヨハンが来ており、2人でコンピューターゲームに勤しんでいる最中であった。

テラにはよくわからないが、スクールの男の子たちが夢中になっているシューティングゲームだ。


「あっ!クソ!なんだよ!」

「あーーーやられちゃった…」

「よっしゃ!潰した!」

などと大盛り上がりの2人に、半ば呆れ気味に尋ねる。

「ねぇ、探検はどうなったの?」


「あーーー!そうじゃん!ちょっと待って…このミッションだけクリアしちゃうから!」

マックスがゲームから目を離さずに応え、ヨハンは「あっ…もう…テラぁ」と落胆気味にテラに目線をやった。


どうやらヨハンはお化け屋敷探検が嫌で、ゲームでマックスの気を時間いっぱい逸らそうと画策してたようだ。


テラは(ごめん!)と、口だけうごかして申し訳なさそうな表情を作った。


「よっし!これで最後!」

マックスが声を上げる。

マックスのチームが敵チームを負かし、画面上には「mission complete!」の文字とともにチームメンバーのアバターが勝利のポーズをとっていた。

「さっすがマックス!逆転勝ちだね」

ヨハンがまるで自分のことのように喜び、2人は「イェーイ!」とハイタッチで興奮を分かち合う。

こればかりはテラの入り込む余地のない「男の友情」というやつで、テラは毎度羨ましいような寂しいような、複雑な気持ちになるのであった。


「諸君!新しいミッションだ!君たちの装備を確認する!」

マックスはまるで自分のアバターである、グレン・ストレンジ大佐のような口振りで号令をかける。


テラとヨハンは「やれやれ…」と言った様子で顔を見合わせた。


まずはテラから、「そんなに持ってきてないよ」と言いながら、カラフルな缶バッヂがたくさんついたショルダーバッグから、ひとつひとつ取り出していく。


「えっと…懐中電灯、トランシーバー、カメラ…それから、余ったクッキーと…ミントキャンディ」

そう言って、白い光沢のある美しい飴がぎっしりと詰まった小瓶を取り出すと、ひとつ手に取り口に含む。

口の中に、爽やかな甘さがじゅわっと染み出し、鼻から抜ける香りが祖母を思い出させた。


このミントキャンディは、小さい頃に祖母に作ってもらい、以降テラの大好物のひとつだ。

今ではレシピをテラが継承して、なくなっては作って足して…を繰り返し、絶えないようにしている。

甘いミントの香りが好きというのもあるが、大好きな優しい祖母を思い出すこの味と香りが、テラの心の安定剤でもあるのだ。



続いてヨハンが、「探検って言ったって、夜だし短時間だろ…」とぶつくさ言い、マックスに「いいから早く!」と促され、渋々と革の鞄から懐中電灯とトランシーバーを取り出し、肩をすくませて「これだけ」とつぶやいた。

本当は自分の空想上の生き物を描いたノートと銀のロザリオも持ってきていたけれど、言うとマックスにバカにされるので言わなかった。


「なんだよ、お前ら…随分と軽装じゃんか。探検ナメんてんだろ」

とマックスが鼻を鳴らし、大きなリュックをドン!とテーブルに乗せた。

「ふっふっふ…!見て驚け!」

サプラーイズ!と、リュックから取り出し、誇らしげに掲げたその右手には、高価そうなエアガンが握られている。


「え!なにそれ!どうしたの!?」

ヨハンが興奮気味に身を乗り出した。

「ダグから拝借したんだ!今日はミランダとのデートでいないから、こいつを使えるチャンスだと思ってさ!」

それで急にお化け屋敷に行こうなんて言い出したのか…と、合点がいった。


マックスは3人兄弟の末っ子で、2人の兄がいる。

普段は怖いものなしのガキ大将であるマックスだが、この2人の兄に比べたら子犬のようなものだ。

特に「一番上の兄」であるダグことダグラスは、優等生でありスポーツマン、それでいて弟たちにとっての暴君であるため、マックスの畏怖の対象なのである。

「…それってバレたらまずいんじゃないの…?」

ヨハンが不安気に問うが、当然の心配だとテラも同意した。


「大丈夫、大丈夫!ダグって意外とヌケてるからさ。バレたりしないって」

満面の笑みで応えるマックスだが、その笑顔には一抹の不安が張り付いているのを、2人は見逃さなかった。


そのほかにも、マックスのリュックの中には、まるで狩りにでも行くのか?と思えるほどの武器やツール、大量のスナックや甘菓子、水筒まで入っていたが、いちいち突っ込むのも面倒なので、そのまま行くことにした。


「それからもちろん、我が相棒マチルダも一緒だ」

マックスに寄り添うように伏せていたマチルダが、嬉しそうに顔をあげて「ウォフッ」と鳴く。

「貴女が一緒なら百人力ね」と、テラは自分とマチルダの鼻をチョンッと合わせた。

「よかった…マチルダも一緒なんだ」

戦々恐々としていたヨハンすら笑顔にするほどの安心感が、母性に溢れた大きな犬…マチルダにはあるのだ。



「8時までには帰ってきなさいよ」というオリヴィアの言葉に、3人同時に「はーい」と応えると、いざ、お化け屋敷へと出発した。


出発…というものの、ベネット家からはさほど離れておらず、さながら庭を探検するようなものである。

今までにも何度か、門の辺りにまでは足を踏み入れたことがあった。

オカルト好きのベネット家の次兄、アルことアルヴィンからは散々脅され、曰くについても聞き及んでいた。

なんでも、1800年代からあるこの屋敷は、住人がことごとく非業の死を遂げていることで有名らしい。

自殺、無理心中、一家惨殺、事故死…

まるで死の博物館と言うべきか、ありとあらゆる死に方をしていると。

テラは殆ど信じてはおらず「よくある作り話」と思い、アルのラップトップの中身くらい胡散臭い…と心の中でひとりごちて、フフッと笑った。

ヨハンなんかは、途中から耳を塞いで「もうやめてよぉ」と真っ青な顔で懇願していたし、マックスは目をキラキラさせて兄の話すオカルト話を楽しんでいた。


その時の話やスクールの噂話などをぺちゃくちゃ喋りながらノロノロ歩いていると、霧がかった林道の向こうから、重厚な鉄の門が3人を出迎えた。


門の前には、古い書体で、ボロボロに朽ち果てた「FOR SALE!」の看板が、虚しく横たわっている。


ヨハンは勿論のこと、テラやマックスでさえ、この不気味でおどろおどろしい雰囲気に飲まれ、足がすくむ。


「…ねぇ…ほんとうに行かなきゃダメ?」

いつの間にかマチルダの背中にくっついていたヨハンが、涙声で呟いた。


「…なんだよ!全然怖くねぇだろこんなの。…行くぞ!」

マックスがエアガンを手に前陣を切ってみせると、テラがヨハンの手を握り「行くよ」と声をかける。

ヨハンは少し頬を赤くしたが、暗くてテラにはバレずに済んだ。


真っ黒く、鎖で何重にも巻かれ施錠されている大きな門。

地面が陥没し傾いていることから、大人1人がようやく通れるくらいのスペースが出来ていた。

「…入るぞ」

マックスが言い、2人は無言で頷く。

マチルダ、マックス、テラ、ヨハンの順に潜り、敷地内への侵入に成功した。


問題はここからだ。

顔を上げると、そこには大きな大きな…それから酷く恐ろしい様相の、闇色の屋敷が佇んでいたのだ。


3人はゴクリ…と生唾を飲み込み、迫り来る恐怖に身を震わせた。




ーーーーーーーーーー




…今回は、ここまで。

さあ、次のお話では、3人の子供たちの摩訶不思議な冒険がはじまるよ。

続きはまた、よい子にしていたらね。

おやすみ…愛しい子。

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