6話 旅立
気づけば這いつくばっていた。
「くっそ」
完璧だった間合いに下手な1歩の甘い踏み込み。
そのひとつのミスが、否、そのひとつのミスで剣聖には充分であった。
「勝者ダグラス・ハーベルト」
周りから見たら普通の決勝戦以上の戦いであり、凄い見世物であった。しかしこの戦いには意味があった。意義があった。
「所詮その程度だ。貴族のバッジは貰っていく」
そう言うとアベルの胸に飾られた貴族のバッジを乱暴に取り、その場を去っていく。それを見送ったアベルも立ち上がろうとするが足に力が入らない。すとん、と尻もちを着いてしまう。そんな様子を見兼ねたのか、観客席から声が投げかけられる。
「アベル。ーー私待ってるから」
そう言った彼女、クレアもそれだけを言い残しその場を去っていく。1度だけでなく、2度敗北した。ただ、もう一度叶うなら、もう一度だけ挑みたい。
ーー落ち込んでる暇はない。
天を見上げ、大きく深呼吸する。そして力を込め、立ち上がる。まだ諦めたわけじゃない、諦めさせられたわけじゃない。諦めが悪い俺だから。もう一度、今一度。
△▼△▼△
「なぁ、ルイス。俺は旅に出るよ」
「あてはあるのかい、相棒くんよ」
正直ない。けど貴族のバッジを失った以上、どちらにしろ実家には帰れない。
「とりあえず3ヶ月後だ。3ヶ月後にあいつらの結婚式が行われる。それに乗り込む」
「僕もついてくよ。アベル一人じゃ心配だ」
「いやそこまでしなくてもーー」
「僕は君の相棒だ。相棒がそばにいて不満かい?」
なんていい友達、否、相棒を持ったのだろうか。こいつには救われてばかりである。
「そばに居てくれや相棒」
落ち込んでる暇はない。こうしてる間にも時間はすぎ、3ヶ月という期限が迫ってくる。
「はい、よろこんで!とりあえず寄り道でもしながらスコット王国の王都に向かおう。王族と剣聖の結婚式だ。きっとそこの王城で行われると僕は思うよ」
「わかった。行こう」
そして3日後。イクサナシ王国の学園を卒業したアベルとルイスは旅立った。
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