5話 決着
「気分はどう?お・う・じ・さ・ま」
いつもの調子で話しかけるルイス。だがその目は真剣な眼差しである。先日以降、話は広まり王子様VS剣聖という形で噂になっていた。その王子様ことアベルは順調に勝ち進み、舞台は決勝となっていた。観客席を覗くと席は満席でこれでもかというくらい熱が沸き立っている。
「めちゃめちゃ昂ってるよ。初めての感覚ってぐらいに」
「そういえばクレアさんが会いたがってたよ。一言、言いたいって」
「今は会えない」
どんな物語も王女を助けるのは敵に勝ってからときまっているのだ。なにより今は目の前の勝負に集中したい。
「そっか。勝ってこいよ」
「おう、相棒」
心情を察してか深堀せず、応援だけを伝えるルイス。さすがはこの学園に来て1番長くそばに居る友達なだけはある。
「ったく。初めて相棒って呼ばれたよ」
そしてアベルは会場へと、再び入場していく。そして観客は入場してきたアベルと先に入場していたハーベルトに盛大な歓声を上げる。
「これより卒業祭トーナメント、決勝を始める。お互いに礼っ!」
声に合わせて礼をし、顔を上げながら剣に手をかけ、抜き出す。そしてそのまま流れるように剣を構え、合図を待つ。ーーそれに呼応するように観客は静まり返り、物音ひとつしなくなる。
「はじめっ!」
始まりの合図がなると同時にいきなりハーベルトが繰り出したのは斜め下からの切り上げ。それに対しアベルは重みを生かすため剣を上から振り下ろす。
しかし筋力量で負けたのか、物理法則を無視するような弾道で弾き飛ばされ大きく後退していく。そしてその隙を見逃すはずがなくハーベルトが一気に詰め寄り突きを放つ。しかしそれを意図も簡単に受け流しその力を利用して縦に下からの回転斬りを放つアベル。それに対し寸前で避けたハーベルトは大きく距離を取り仕切り直す。
「出たな十八番」
アベルがここまで勝ってこれたのはもちろん全体的な力量もあるが振り下ろしなどそれぞれのレベルは普通と言っても過言ではない。そんなアベルが決勝まで上がってきた理由。それは受け流しに特化した剣術が理由である。先日、ハーベルトと授業でやった時は単純に攻めの剣術で仕掛けて行ったが本来のアベルの剣術ではないのだ。この試合、勝算があるとするならばアベル本来の受け流すメインの剣術をどう使うかが決め手になるだろう。
「一般貴族にしてはよくやる方だ」
「剣聖の血筋って大した事ないんだな」
お互いが睨み合い、ただならぬ覇気がぶつかり合う。その完璧な立ち回り、剣戟に誰もが目を引き寄せられる。
どちらが勝つのか。
どちらが負けるのか。
その勝負の行く末に誰もが注目をする。静まり返る観客、静まり返る闘技場。ーーそしてついに決着が着いた。
「くっそ」
「勝者ダグラス・ハーベルト」
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