試験終了~フラグなどバッキバキよ~
「はい、生存確認……はあ」
モエ教官は縦ロール試験官を先ほどの救急魔法士達へ預け、ため息とともに大きく肩を落とす。
「……はい皆さん。試験官に突如2名の欠員が出てしまったので、一旦試験は中止します。希望者の皆様には、後日追って試験の期日をお伝えしますね……」
えっ……試験中止!? じゃ、じゃあこの金の羽は!?
「えー……これまでに金の羽を得た方については、その合否についても追ってお伝えしますねー……まあ、合格と考えていただいてOKですけどね。はい」
よ……よかったあっ!! い、一応合格みたいだ!!
『良かったじゃねえか。意外だったがおめでとう』
意外とかいう余計な一言が引っかかるが、まあ良しとしてやる! 今の僕はウキウキだからな!!
シインの奴にやっかみを入れてやると……背後から、アイルゥが困ったような顔で僕に話しかけてきた。
「どうしよう……これで大丈夫かな? 羽」
彼女の手を見ると――ほぼ黒コゲ状態の元金の羽が指先にあった。
……大丈夫だと思うよ。誰も反論とかしないと思うし。怖くて。
「大丈夫なんだ……よかった……」
キリっとしたアイルゥの顔が、その一瞬、安心したように、ちょっとだけほころんだ。
ギャップからか、ほんの一瞬の笑顔がやけに眩しく感じて――
って、いかんいかん! 見とれてどうする!? あんな子に惚れたら命がいくつあっても足りんぞ! しっかりしろ僕っ!!
『……盛り上がってるとこ悪いんだけどよ。どうすんだよ、今夜のメシと寝床は?』
えっ? いやだからほぼ合格らしいから、寮とかで――
『合否は追って連絡って言ってたろ? つまり合格とするかはこれから審議するってことだろ? ……今の状態で寮に入れるのか? 特に寮の説明とかなかったから無理っぽいぞ?』
え……はっ!!? うわあああどないしよおおっ!?
僕が頭を抱えて苦悶していると――背後からペチペチと肩を叩く手。アイルゥだった。
「お疲れさま……ご飯、食べにいこ?」
えっ?
美少女からの願ってもないお誘い。本来ならば0.1秒で承諾するところだけど……正直これ以上関わりたくないかも……!
彼女を傷つけない断り方について考えていた時――
――キュウ。
小動物の鳴き声のような音……見ると、アイルゥがクールな表情のままお腹を押さえていた。
……もしかして、今の……お腹が鳴った音……?
「……ご飯、食べたい……」
(うぐぅっ!?)
表情は変わらないけど、お腹が減っている姿がとても悲しげで。
僕が断ったら……もっと悲しい顔をされそうで……想像すると耐えられなくて。
ほとんど衝動的に、僕はご飯を食べに行くことを了承した。
「……やった」
目元はクールなまま。けれど口元は優しくほころばせる彼女を見ると、良かったと心から思い……そして自分の考え無しの行動に激しく後悔した。
『おめでとうコウマ。今のは間違いなくフラグ立ったぞ』
うわああああっ!! やめろおおっ!!
「それで……何食べに行く?」
可愛らしく小首を傾げてみせるアイルゥ。
……フラグとか冗談じゃない。これ以上好感度を上げるわけにはいかぬ……
ならば僕の取るべき選択肢は一つ。
――そうだね。じゃあ僕のイチオシのお店、ラーメン三郎なんてどうかな?
『こ、このクソ野郎!! 初めてのデートであの客層9割オッサンの背脂マシマシコッテリ系ラーメン屋とかありえねえぞマジ! せっかくこんな美少女に誘われてんのにふざけてんのかテメエ!』
何とでも言え! 自分の命が掛かっているのにそんなこと気にしていられるか! あとデートでもねえし!!
「いいよ。行こ?」
二つ返事で了承っ!? フッ……だがそれも想定内! 次の僕の一言に震えろ……!
「いやー……実は、ちょっと言いにくいんだけど……僕本当はお金持ってなくてさあ……」
『さ、最低だコイツ!! ラーメン屋に誘った挙げ句奢らせる気マンマンじゃねえか!! 自分に言い寄ってきた美少女にこの扱い! 死刑を求刑するレベル!!』
フハハ何とでも言うがいいさ!! ともかくこれでこしゃくなフラグなどバッキバキよ!!
僕がそんな風に勝ち誇っていると――アイルゥはこともなげに一言。
「いいよ。君の分も払うね」
……えっ?
呆然と固まる僕とシインをよそに、アイルゥは僕の手を取ってグイグイ引っ張ってくる。
「確かお店はこっち。早く行こ?」
え……えええ……
ズルズルと引っ張られながら、僕は美少女に手を引かれる状況を喜ぶべきか、逃れられない現状を嘆くべきか――結局店に着くまで断じることができなかった