少女の実力~出てくる小説間違ってない?~
「羽を奪う……倒せばいいの?」
小首を傾げるアイルゥに、縦ロール試験官が頷いてみせる。
「もちろんそれで構いませんよ? 手段は問いません。ただし――」
縦ロールの男の腕に、黒色のインコが降り立った。すると――彼の周囲に強力な魔法のバリアが展開!
「私の召喚獣は最高レベルの魔法障壁を発生させられます」
「そして俺はっ! あらゆる物理攻撃を跳ね返す硬化魔法をマスターしているっ!」
マッチョ試験官が魔法を唱えると、彼の体は全身がメタリックな輝きを放った。
「私に触れるには物理的な干渉を行うしかありません」
「そして俺を倒すには魔法を使うしかないだろう」
「「さあ! 魔力・知力・身体能力、そしてチームワークを駆使し、我らから金の羽を奪い取れ!!」」
なんてこった……魔力・知力・身体能力・チームワーク……全部僕に欠けてるものじゃないか……
『お前のお嫁さんに任せとけばいーんじゃねーの?』
お嫁さんじゃないし! 誤解を招くことを言うな羽虫っ!!
……だがこの試験を突破するなら、シインの言っていることは正しい。よし、ここは一つ、巻き込まれないよう距離を取って逃げるとしよう。
僕は物音を立てず、そーっとアイルゥを置いて逃げだそうとした。
……しかし物事はそう甘くはなかった。
「ぬうん! どこへ行く少年! お前の相手は俺だ!」
メタリック試験官が素早く回り込み、臨戦態勢バリバリで身構えている!
やばい! 逃げられない!!
「この金の羽欲しくば、お前の魔法を使うほか無しっ! さあ、お前の実力を見せてみよっ!!」
ええ……魔法って、あのクソスキルのこと……?
「では行くぞ少年! ぬおおおーっっ!!」
猛烈な勢いでメタリック試験官が突進!
や、ヤバイ! と、とりあえずスキル“マーカー”発動!
えーと……あっち向いてー……ホイっ!!
僕は自分から見て左に立っていた試験希望者の一人をマークした。
すると。
「ぬぬっ!? な、何故か俺の右側が猛烈に気になる!? って――オゴアッ!!」
全力で突進している最中に突然よそ見をしたせいで、メタリック試験官は全力ですっころんだ。
しかも頭から突っ込んでしまったらしく、首がヤバイ角度に曲がっている!
だ、大丈夫ですか!?
「フフフ……心配には及ばん。俺は魔法だけでなく体も鍛えている。この程度はどうとういこともない」
首がヤバイ角度のまま、メタリック試験官は余裕そうにそう言った。さすが試験官だけあって、こういうダメージを受けても平気な技とか――
「だが鍛えているからといって! 怪我人を見たらまず人を呼ぶのが人の道だ!!」
あ、はい。そうですよね。絶対お医者さん呼んだほうがいいですよねそれ。
ほどなくしてモエ教官(黒髪眼鏡っ子教官を僕が勝手に命名)が空に信号弾を打ち、箒に乗って空を飛ぶ救急魔法士が登場。彼女達の手により、メタリック試験官は搬送されていった。
……焦ってとっさに使ったマーカーのせいであんなことになるなんて……本当に悪い事したなあ……
ちゃっかり回収した金の羽を握りしめつつ、反省。
……そういえば、アイルゥの方はどうなったんだろう?
彼女の方を見ると――彼女は未だに縦ロールの試験官と対峙し、ボンヤリと立っていた。
「どうしました地獄のアイルゥさん? どこからでもどうぞ?」
カイゼルヒゲを指先でクリクリしながら、縦ロール試験官が彼女を挑発。
「…………」
対するアイルゥは、顎に手をやり何かを思案している様子だ。
「何か心配事でも?」
「……羽を取るのは簡単だけど……怪我をさせない方法が思いつかない……」
それを聞いた縦ロール試験官は、天を仰いで大笑い。
「はははは……いやはや、ここまで来ると関心ですな。アイルゥの偽物さん?」
えっ……ニセモノ?
「彼女の武勇伝は数知れず。それ故に彼女の名を騙った不届き者共も大勢この世に現れました……彼女の名を借りれば、私が戦わずに降伏すると思いましたか? 残念ですねえ。ここに来た以上、どんな経歴の者でも必ず試さなければならない……さあ、無様な化けの皮をはがして差し上げましょう……!」
ニセモノ呼ばわりされたアイルゥは……またも小首を傾げる。
「ボクの……ニセモノ? いっぱいいるの? 変なの……」
「その演技も見飽きましたよ? 何なら、私の方から仕掛けましょうか?」
「……物理的な干渉、のほうがいいんだよね?」
「手段は何でも。魔法の方に自信があるなら、そちらでも構いませんよ?」
「魔法?」
「ええ。ただしこの私の最高位の魔術防壁を破れればの話ですが。試してみても良いのですよ? ……無駄でしょうけれど」
「そっか……防御してるなら大丈夫だよね……ありがとう。やってみる」
そう言うと――ざわり、とアイルゥが身にまとう、鎖を編み込んだ彼女の黒いマントが不吉に揺れる。
ゆらりと、右手を突き出し――グッと拳を握り、呟いた。
「ウェイクアップ――スタン・バイ……」
瞬間。
ズドオッ!!
彼女の背後に――全長2、3メートルはあろうかという巨大な黒い棺が4つ、突如として現れた!!
「な、あ、これは、一体……!?」
縦ロール試験官も、この異様な状況に余裕の態度は取れないでいた。
「命ずる。隔層封霊術式・第三を解錠。再び盟じる……汝、ヒオドシの輩よ。その呼気をば尊ぶとすれば、今再び赤空を捧げ言祝ぐべし……」
や……ヤバイ……
アイルゥがなにを言ってるのか皆目サッパリだけど、なんか、この雰囲気は何か本当に危険な感じがする……!
アイルゥが右手を掲げると――突然棺の一つがバキン! と開き――中から巨大な武器が姿を見せた。
赤黒い蛇が巻き付くような形状の……全長2メートル近い巨大な大砲だった。
「サラマンドラ/L・L……灼け。悉くを」
ゆらりとそれはひとりでに宙を浮き、砲口を縦ロール試験官へ向け――発射!
キュドオオオン!!
横向きの巨大な火柱が噴き上がり――縦ロール試験官を飲み込み、試験会場の屋根の一部を焼き貫き、槍状の炎は沈み行く太陽に向かって飛んで行った……
シュウ……と大砲が冷却音を発すると共に、煙と砂埃が晴れる。
果たしてあの縦ロール試験官は……生きていた。
プスプスと飾り多めの服が若干焦げてるが、召喚獣と一緒に地面に伸びてピクピクしている。
「命ずる。隔層封霊術式・第三を施錠……ふう」
アイルゥは先ほどの大砲を再び棺に入れ、満足そうに息を吐いた。
――いやいやいや! 何してんの君!? フウじゃないよフウじゃ!?
「え……? だって魔法使ってもいいって言うから……」
そうじゃないって!! 明らかにやり過ぎでしょ!? 試験会場ブチ破るほどの超魔法使うとかやり過ぎだって!!
「でも……すごく手加減したよ? 100分の1くらいの出力だよ……?」
ひゃ……1/100……? ちょ、ちょっとまって単位おかしくない? アレで? 100分の1?
「全力で撃ったらこの街自体が消し飛んじゃうから……一生懸命抑えた」
…………
地獄だ……
ニセモノなんかじゃ決してありえない……彼女は間違いなく本物。本物の“地獄のアイルゥ”だ……
スキルと魔法の違いがよくわからぬ……