出会い~もうおしまいだぁ~
「お、おい誰なんだ彼は……この圧倒的な存在感! タダモノじゃないぜ!」
「見えるぞ……彼の背後に神々しいオーラが……!」
「着てる服からして貴族かしら……も、もしかして王族の方では……!?」
「い、一体何者なんだ!? 一体どれほどの実力を隠し持っているというんだ……!?」
周囲の希望者が僕を見て口々に驚きや畏れ、憧れの声を上げていく。
ふっふっふ……まさに想定通り!
自分自身にスキルを使うことで、この会場にいる全ての人が僕を謎の実力者として認識しただろう。
試験にエントリーする前に、マーカーレベルを10まで引き上げた成果だ。
レベル補正により、注視強制力は中、好感度操作は小まで引き上げることができた。中とか小とかおおざっぱな表記だが、効果はテキメンだ。
ちなみにレベルは、“ステータス☆オープン”を笑ってたバカップルを偶然見つけたので、怪我をしない範囲で執拗にイタズラをかましまくったことで上がりまくった。ありがとうバカップル。しかし公共の場でいちゃつきまくったのは許さぬ。
『で……どうすんだよ?』
やや呆れたような様子で尋ねるシイン。どうする、とは?
『あの試験官達が胸に挿してる金の羽取れって話だろ? お前のスキルでどれだけ印象操作しても羽はくれないだろ?』
印象操作っていうな! 人聞きの悪い! ……まったくお前はなにも分かってないな。
『なにがだよ?』
いいか? 二人一組でペアを組もうって時に、超絶オーラを放つ謎の少年がここに現れたわけさ?
『はあ……?』
そりゃもうね? 是が非でも同じペアを組みたい! ってみんななるだろ? 僕を中心に殺到する希望者達! そして僕はナナメ上から目線で一番強そうな人をペアに選抜! その人にオンブにダッコで試験を突破しようという魂胆なのさ!
『作戦しょっぱ! そしてダッサっ!!』
あと僕、実はすっごい人見知りだから、自分から声掛けられないんだ。だから誰かが声掛けてくれるのを待ち続けるしかできないのさ……やれやれ。
『やれやれ言いたいのはこっちなんだが。15歳なのにまだ人見知りとか言ってんのか』
……フッ。かつての古の民はこんな言葉を残している……“マジレスかっこ悪い”と……!
『お前が一番かっこ悪いからな?』
シインの発言は全力で聞こえないフリをし、僕は気を取り直してスキルに集中!
さあ! さあ来い! 憧れの眼差しで僕の元へ集うがよい! もろびとこぞりてかかってこい!!
そういえば希望者の中にけっこう女の子も混じってたっけ。
うわ~困るなあ。憧れと尊敬の瞳で女の子達に取り囲まれてさ。「ちょっと~この人はわたしと組むのよ~」なんてさ。女子に取り合いされておいおい僕は物扱いかい? 分かった分かった順番だぜウフフ。
『うおコイツキメえっ!!』
キモイだとお! 健全な男子が健全なハーレム妄想するのがそんなにキモイか! 僕には夢を見る資格すらないというのか!!
『妄想は自分の部屋の隅で体育座りしながら見る。それがマナーだぞ』
勝手に妙なマナーを押しつけるんじゃない! 貴様のような奴がいるから謎のマナー講師が量産される世の中になるのだ!!
『いやいやいや……ん?』
シインが何かに気づく。どうやら僕の背後に誰かがいるようだ。
「あの……」
来たっ! ついに誰か話しかけて来た! しかも声の感じからして女の子じゃあないか!
期待に胸を膨らませて振り返ると――想像以上の娘がそこにいた。
まるで陶器のように白く艶のある肌に、一際目を惹く金の瞳。ややウェーブの掛かった白っぽい金の髪……とてつもない美人だった。
「あ……その、ボクは、アイルゥ……といいます」
しかもボクッ娘とは……フェティッシュだな!
『お前ちょっとテンションおかしいぞ?』
(いやテンション上がりますよ! いきなりこんな超美少女が来たら爆上げですよ!?)
小声でシインとそんなやりとりしてたら、す、とアイルゥが右手を差し出した。
「パートナーに……なって、くれる?」
YES!!
降って湧いた幸運に僕がガッツポーズすると、アイルゥはきょとんとした表情。
「……OK、ってこと?」
あ、そうだった! うん、こちらこそどうぞ、末永くよろしくッ!!
手の平の汗を素早く拭い、アイルゥの手を強く握りしめた。
すると――先ほどまで無表情でクールな表情をしていた彼女が、やや頬を赤らめて、少しだけはにかんだ。
ぬおおっ!? こ、これは――バラ色の訓練生生活が始まる予感っ!!
心の中で浅草サンバカーニバルが絶賛開催中の僕だったが、ふと近くの希望者たちから気になるセリフを聞いた。
「オイオイオイオイ……」
「死ぬぞアイツ……」
ん? え? なに? どういうこと?
「“地獄のアイルゥ”じゃねえか……なんであの女がここに……?」
「知ってるぞ……あの女とパーティーと組んだ奴はほぼ全員病院送りになってるとか。まだ意識が戻ってない奴もいるらしい……」
「S級ダンジョンをソロで踏破できる実力を持つが、あまりの強さに敵だけでなく、味方まで攻撃の余波で全滅する……ついた仇名が“地獄のアイルゥ”。出くわせば、敵も味方にとってもまさに地獄を見るってわけだ……」
…………
僕は震えながら、ゆっくりとアイルゥへ振り返る。
彼女は周囲のウワサ話に対して、小さく肩を落とした。
「……そうなんだ。みんなボクとパーティーを組んでくれなくて……あなたがパートナーになってくれて、本当に嬉しい……」
いやあああっ!! タンマタンマタンマーっっ!!
『まあまあとりあえず落ち着けよ』
(これが落ち着いていられるかっ!! 僕の命が掛かってるんだぞ!?)
アイルゥに聞こえないよう、ボリュームを落としてシインに反論する。
『元々強い奴と組むつもりだったんだろ? 良かったじゃねえか目論見通りになって』
(強すぎるんだよ! 味方まで病院送りにする人と組めるもんか! もう実家に帰らせていただきます!!)
『帰れねえだろ実家……ああそっか。そういや嫁連れてきたら帰れるんだよな? よかったな可愛いお嫁さんができて』
(いや“地獄”とかいうアダ名が付いてる人と添い遂げるとか絶対無理だから! S級ダンジョン一人で攻略できる人ですよ!? S級っていったら国が1個大隊率いて攻略するレベルの場所ですよ!? 無理無理無理こんな人外さん普通に無理っ!)
『ん? そういやここって冒険者を養成する場所だよな? そのアイルゥって娘はもう冒険者として活躍してるんじゃないか? なんで試験を受ける必要が?』
(知るもんかそんなこと……うう困った、今さらパートナー解消しようとか言ったら……)
『……けっこう嬉しそうにしてたもんな。今さら断ったらすげー傷つくだろうし、もしかすると恨まれるかも……』
詰んだ……もうだめだ、おしまいだぁ……!
僕が頭を抱えて絶望していると――二人組の男が、僕達に話しかけてきた。
「フフっ、地獄のアイルゥに謎の存在感を放つ少年……なるほど興味深い」
「お前達の力を試させてもらう。見事、この金の羽を奪ってみせよ!」
カイゼルヒゲに縦ロールヘアーをした細身の男と、筋肉モリモリのタンクトップ男の二人組。
どうやらこの二人が試験官のようだ。