試験開始~眼鏡っ子は良し~
『お、おい何だその嫌な笑み……なに企んでんだお前?』
身構えるシインを放置し、僕は脇道から馬車の通る街道へと登った。
すると、すぐに目的のブツが見つかった。おそらく先ほどの馬車のものだろう。
僕はゆっくりとブツへ指を指し、スキルを発動!
[marker]馬糞[/marker]
『おおいコラあ!? なんてことしてくれてんだテメー!!』
大声で罵詈雑言を叫びながら、シインは馬糞へと一直線に飛んでいった。
フハハじっくり注目するがいい。お馬さんの落としたアレを!!
『く、クソっ!! 視線が全然外せねえっ!! それどころか、なんだかちょっと神々しささえ感じてきやがる!? なんなんだよそのクソスキルは!!』
ん? 神々しい……?
僕は先ほどのステータスパネルから、スキルの内容を改めて確認。
■detail
マーカー/Lv.2
この能力を持つ者は、他者の〈注目度〉を自由に操作することができる。
[レベル補正]
・注視強制力:(小)
・好感度操作:(微増)
……これは。
そうか……ふっふっふっふ……!
『キショイ笑いしてねえではよ解けコラァっ!!』
苦悶の表情でブツを眺め回す妖精に、僕は勝ち誇ったように言った。
この能力の生かし方がわかったぞ――これで野宿は避けられるっ!!
◆◆◆
「……それではこれより、訓練生の試験を始めます」
黒髪ボブカットで眼鏡っ娘の教官に呼ばれ、僕達希望者は席を立った。
……いやー凄い。あの女性教官、僕の好きな属性全部乗せじゃないですか。萌え萌えじゃないですか。
『久しぶりに聞いたな、萌えとか』
そういえばもう死語でしたっけ。悲しいなあ。
『……てかよ、本当にこれでよかったのか?』
シインが怪訝そうに尋ねるが、僕は堂々と頷いてみせた。
ここは、冒険者訓練校。
名前の通り、冒険者を志す人に対して技術や知識を学ばせてくれる施設なのだ。
なぜそんな場所へ出向いているのか?
それは――ここが働かずにメシを食える場所だからだ!
遡ること2時間前――
『ん? なんだよその張り紙?』
僕とシインは街道を辿り、フルームという街にたどり着いた。
寝食付きですぐに働けるところが無いか、求人の張り紙を眺めていた時――1枚の張り紙に目が留まった。
【来たれ未来の勇者! 冒険者訓練生募集!9/3まで】
9月3日……って今日じゃん! んでもって面接と試験も今日やるのか……
『すげーギリギリまで受け付けてんだな……希望者、もしかしてめっちゃ少ないのか?』
訝しげに眺めるシインに対し、僕はちちち、と指を振る。
『ウザっ! なにが言いたいんだよお前?』
僕はわざとウザめにニヤけつつ、張り紙の一点を指さした。
『あん? ……訓練生は寮と食堂が利用可能。寮費・食事代タダ……随分気前のいい話だが……おいちょっとまてお前まさか』
フッ、そう……もしも訓練生として受かったら! 働かずにタダメシ食っちゃ寝し放題というワケさ……!
『いやいやいやちょっと待てお前! お前のそのクソスキルで冒険者になるつもりか!?』
は? そんなもんになるつもり微塵もございませんが? あとクソとか僕が一番わかってるから言うのやめてくれる?
『冒険者になるつもりはない……? ならどうして――』
フウ、分かってないな。まずこの訓練校に受かるとするじゃん? んでここは3年ほど訓練できるから、その間は働かずに食っちゃ寝できるわけじゃん?
『いや訓練とか座学とかあるとは思うが、まあ働いてはいないか……それで?』
……以上です。
『は?』
とりあえず3年はタダメシにありつける。今はそれで大満足です。
『訓練校を卒業したら……?』
やだなあ、冒険者になるわけないじゃないすか。卒業後はそうだなあ……またタダメシ食べられる所探して暮らそうかなあウフフ。
『社会ナメてんのかコラァ! 働けやあッ!!』
僕はまだ15歳だぞ!? せめてあと3年……いや20歳になるまでは遊んで暮らしてもバチは当たらない! 当たりませんよ!?
『……フツーさ、不遇なスキルとかジョブとかになったらさ、なんとかして強くなろうとか、なんだったらバカにしてた奴ら見返してやろうとか、そうなるだろ? なんだよこのダメ人間……』
人は人、自分は自分! 不遇やら落ちこぼれやらの人達は頑張ればいい。僕はしばらく頑張らない! みんな違ってみんないい! これが多様性なんだよ!
『お前が親父に追い出された理由がなんとなくわかったわ……で、どうすんだよ? 条件がいいだけに、多分この訓練校の試験って相当厳しいぞ?』
フッ……そこに関しては勝算アリ……!
『ほんとかよ……まあ、そこまで言うなら見せてもらおうじゃん』
◆◆◆
とまあそんなやりとりのあと、こうして訓練校の試験会場に来ているというわけだ。
場所は野外。日が落ちかける時刻の空は、暗い青と褪せた夕日により、寂しげなグラデーションを見せる。
――ボゥッ。
音に振り返る。会場の四方に備え付けられた大きな松明に火が灯されたのだ。煌々と輝き揺らめく大きな炎が、会場を明るく照らした。
「はーだる……おっといけない! それでは希望者の皆様! 二人一組でチームを作ってください。2人で力を合わせて、試験官の持つ金色の羽を手に入れること。それが合格条件でーす! ……はい。」
黒髪ボブ眼鏡っ娘の女性教官が、めんどくさそうにそう説明した。……うーん、あの気怠げな感じ。正直に言って……割とポイント高いですよ?
『モエモエしてんじゃねーよ! ってか、予想通り実践形式の試験じゃねえか! お前あのクソスキル一つで戦えるのかよ!?』
クソクソ言うな! 僕に勝算アリと言ったはずだ!!
『ホントかよ……』
うさんくさげに僕を見下ろすシイン。
まあ見てろ。お前が言ったクソスキルの真価をな……!
さっそく僕はマーカースキルを発動させる。
対象は……僕自身だっ!!
[marker]コウマ[/marker]
大変こっ恥ずかしい表示が僕の頭の上に現れているが、このマーカーの発動表示は僕の目にしか見られない。その辺はこのクソスキルの良心とも言える。
そして――マーカースキルが発動した瞬間、周囲にざわめきが広がった。