覚醒~なんだこのクソスキル~
頭上から唐突に声。
振り仰ぐと――目を疑う存在がそこにいた。
『俺の名はシイン。お前等がよく言う妖精さんだ』
背中に二対の羽を生やした、手のひらサイズの少年――いや少女? が腰に手を当てて偉そうにそう言った。
ていうか妖精って……マジでいたんだ。
紺色のパイロットスーツにゴーグルを頭に載せた印象的な姿。まじまじと見ていると、目の前の妖精はツバを吐いてガンを飛ばす。
『あん? なに勝手に人様を妄想の産物みてーに扱ってんだ? どうせ“おとぎ話の産物だと思ったのに”とか言うんだろ? 勝手に面白おかしく人の事を本に書いて、“そんなのウソだ妄想だ”と勝手に批判しやがって。いい加減にしろよクソヒューマン共』
うわあ……めっちゃ口悪い……ドン引き……
『一応言っとくが、腕輪の所有者だからってチョーシ乗んなよ? パートナーとしてなら契約上認めてやるが、俺はお前のペットでも召使いでもねー。ナメた事すりゃ速攻シバキ倒すからな?』
怖っわ。いきなりそんな事いわれても――ていうか、契約って……?
『……ウチの一族がお前の母ちゃんの一族と交わした契約だ。腕輪の所有者をサポートすること……100年以上前のジジイ共が勝手に決めた事とはいえ、術による拘束力はまだ健在だからな。クソっクソっ』
なるほど……母さんの一族がシインの祖先と交わした契約。この腕輪の宝石を依り代に、いつでもシインを呼び出すことができる。これはそういう魔法具のようなものらしい。
シイン自身は僕に仕えるつもりはないようなので、召喚士に絶対服従する召喚獣とは違うようだ。
うーん、突然過ぎて頭の整理が追いつかないが……とりあえずまあ、よろしく?
『おう』
腕を組みながらぶっきらぼうに答えるシイン。扱い難しそうだなー。
……まあでもサポートしてくれるってさっき言ってたし。ちょっとお願いしてみようか。
僕はシインにこれまでのいきさつと、今現在最も困っている事について伝えた。
『……はあ。金がない? 稼げばいいじゃん』
親父とおんなじ事いうなよ! お金稼ぐってそんな簡単な事じゃないんだからね!?
『今すぐ金稼ぐってんなら……やっぱ魔獣倒すハンターとか、遺跡や未踏の土地を調査する冒険者とか……』
それ仕事の中で一番厳しいやつじゃん! 金儲けのために命掛けたくないよ! そりゃ、つよつよスキル持ちなら簡単かもだけどさあ!
『……そういやお前、教会でスキルの託宣受けてんだよな? ならもう何かスキルが使えるんじゃねえの?』
え? ああ……うん。そういやそうだったね。
『テンション低いなお前!? 普通もっとこう……新しいスキル得たらウキウキになんだろ!? さっそくちょっと試したろ! ってなるだろ!? ならないの!?』
シインは信じられないといった顔で愕然とする。
まあフツー、スキル手に入れればそうなるんだろうけどねえ……
『とりあえず、ステータス見てみるか? それでスキルがわかるからよ』
え? ステータス? どうやって?
僕が尋ねると、シインはニヤリと嫌な笑み。
『一言叫べばいい――“ステータス☆オープン”と』
やだああああっっ!!
『やだじゃねえ!! 自分の力一つで金稼がなきゃならねえんだろ!? 自分の力を知らなきゃ話にならねえだろ!』
見なくても大体わかるし! そんな事を叫ぶ恥辱を受けるくらいなら僕は死ぬっ!
『周りに人いねーし、大丈夫だろ?』
うっ……
『ホレホレ、ホントはどんなスキル手に入ったか実は知りたいんだろ? ステータス見れるって聞いた以上気になるだろ? 一度くらいスキルとか使ってみたいだろ?』
シインは僕のこめかみを肘でグリグリしながら、悪魔のささやきをかましてくる。
くっ……確かに少し気になるし使ってみるのはやぶさかではない……
僕は意を決し、やや緊張しながらも叫んだ。
ステータス☆オープンっ!
「プークスクス」
背後から笑い声。見ると、偶然背後を馬車が通りかかっており、客車のカップルと行者のオッサンが僕を指さして笑っていた。
――人いるじゃねえかコラあああッ!!
僕はシインを右手でとっ捕まえ、握力全開で締め上げた。
シインは苦しげに小さい手で僕の親指の付け根を何度もタップ。
『すまんマジすまん! 人いるとかマジ気づかなかった! す、ステータス表示のパネルが出てるだろ!? まずそれ見ようぜ……く、苦しい……!!』
シインに言われて、視界の右端に半透明のパネル状のものが浮いているのに気づいた。
これに僕のステータスが載ってるのか……どれどれ?
シインを解放し、さっそく内容を見てみた。
[status data]
--------------------------
-name:ムラシキ・コウマ
-sex:男
-age:15
-looks:ukemen(smile)
■ability numeric
-total level/5
-power/13
-defense/10
-speed/22
-magic power/3
-magic defense/4
-luck/36
-----------------------------
『なるほど。今はレベル5か。魔力と魔法防御力が低い代わりに運は平均以上だな』
ねえねえ、年齢の下に“ルックス:ウケメン(笑)”って書いてるように見えるの気のせい?
『気のせいだろ。スキルの詳細はもっと下か? スクロールしてみようぜ』
絶対気のせいじゃないだろとか思いつつ、言われた通りにスクロール。わあ、某リンゴ社製品並みに直感的な操作性だあ。
--------------------------
[skill data]
-methodical/無属性
■detail
能力名「マーカー」
この能力を持つ者は、他者の〈注目度〉を自由に操作することができる。
対象:物質・非物質・概念上の存在問わず対象内
効果範囲:術者が視認できる範囲
継続時間:解除するまで永続
能力傾向:補助系
能力の希少性:SSS
能力のニーズ:E-
-------------------------
……途中で英語表記ダレやがったな。そんな事考えてると、シインがウキウキで口を開く。
『希少性SSS!? やったな! めっちゃレアじゃん!』
一番下を見ろ。ニーズが最低だぞ? 珍しいゴミってことだぞ?
『まあまあ、今はニーズが無くても使いようによっては変わるかもだろ? とりあえず使ってみようぜ!』
なぜかワクワクしているシインに促され、ステータスパネルの下に書かれていたスキルの発動条件を読み込んだ。
……うん、だいたい理解した。じゃ、使ってみようか?
『おし! どんと来い!』
テンション高いなあ。他人事なのに……他人事だから楽しめるのかねえ。
ともかく、僕は手に入れたスキル「マーカー」をさっそく発動させてみた。
ワクテカしてるシインの背後、一本の低木に指を指し、心の中で呟く。
(マーカー!)
すると木の上に奇妙な2つの英字が現れる。
[marker][/marker]
僕は2つの英字の真ん中に、指さした物の名を思念で以下のように記述した。
[marker]そこに生えてる木[/marker]
すると――
『……ん?』
シインは唐突に、背後の木へと振り返った。
……どうした?
『いやなんとなく……お前が指さすから気になったんだろ?』
なるほど。そっか。
僕はシインに見えないよう、右袖で手を隠しながら、左斜め前方の黄色い花を指さした。
(マーカー!)
『……んん?』
スキルを発動させた瞬間、またもシインは僕が指さした花へ振り向いた。
どうしたシイン?
『いや……なーんか、そっちの方角が気になって……もしかして、今のがお前の“スキル”か……?』
僕はゆっくりと頷いた。
『なるほどねえ……注目度の操作か……はー使っかえ……』
おい今何か言ったか!? さんざんスキル見せろって言っておいてそれかオイ!?
『お、おう悪かったよ。ニーズがE-だけあってほんとひで……じゃない! いやーその、なんだ? 使いようによっては化けるんじゃねえの? ほら、あっち向いてホイとか死ぬほど強くなるかも? みたいな?』
なんだその取って付けたようなフォローは!
持ち上げといて落とすようなマネをしたこの妖精、どうしてくれようかと思っていると――先ほどのステータスパネルに通知が来ていた。
[Level UP!!]
■スキル:マーカーのレベルが2に上がりました。
なるほどレベルが……ほほう?