あなたにこいしたひ
覚えていてくれたことが、嬉しい。
あたしのために笑ってくれたのが、嬉しい。
ふわふわした気持ちであたしは家に帰るとあたしは早速お湯を沸かした。
その間に、化粧を落とすために洗面所に行く。
トロリとしたクレンジングでドロドロした化粧を落とす。
太めのアイライン。
薄暗い中でも目立つようにいれたキラキラしたシャドー。
赤い口紅。
全部黒く溶けて、排水溝に流れていく。
鏡でみる自分は、少し情けない顔をしている。
たれ目がちの目が自分を見返す。
不規則な生活のせいで疲れた顔。
これが、あたしの素顔。
タオルで手早く拭いてキッチンに戻る。
蓋つきのカップに貰った中国茶を一袋いれた。
木の実みたいな赤い実。
四角い氷砂糖。
茶色い乾いた花。
しゅんしゅんと沸いたお湯をカップに注ぐ。
蓋をして三分。
あたしは、三分キッチンに立っていた。
きっと、あなたにとっては些細な。
本当に些細なことだろうに。
でも、覚えていてくれたことが。
笑ってくれたことが。
あたしの胸を占めている。
タイマーが三分を知らせる音があたしを解放した。
そっと蓋を開けると、小さな野菊がカップいっぱいに広がっていた。
小さな白い花弁。
小さなカップの中でふわりふわりと咲き誇っていた。
一口そっと飲むと、少し甘くて。
少しだけ、苦い。
あたしは思わず、目を閉じた。
認めたくないのに、認めたくないけど。
あたし、恋をした。
あなたに。