あなたとであったひ
あたしが初めてあなたと出会ったのは一年以上前。
薄暗い店内であたしは笑顔を振りまく。
バイトで始めたラウンジの仕事はあたしに以外と合っていて。
もう、半年は勤めている。
お酒好きだし、年上好きするあたしの容姿と雰囲気。
今時、夜の世界で珍しい黒髪。
今までの恋愛で培ってきた、媚び。
お客さんいわく、若いくせに色気があるらしい。
手でも握って、目を見つめてあげただけでデレデレするんだから、男ってばか。
ごめんね、名前わかんない。
興味ないし。
心は冷笑だけど、誰も気付かない。
本当にあの頃のあたしは、殴り倒くなる位嫌な女だった。
なんのプライドもなかった。
ただお金が欲しかった。
「あやちゃん」
チィママに呼ばれてあたしは、カウンターのお客さんから視線を外した。
「ボックス二番ね。」
チラリとボックスを見ると、ママがついてる。
みたことないお客さん。
知らないお客さん、嫌だな。
なんか若そうだし。
年齢層が高いこのお店では、30代は若い部類になってしまう。
あたしは厨房で一本煙草を吸ってため息をついた。
少し疲れた顔にファンデを叩きこんで、口紅を塗り直す。
それから笑顔を作って、あたしはフロアに出る。
「初めまして-」
ママがお客さんの右側に座っていたから左に座る。
赤霧島か。
チラリとボトルを確認する。
焼酎にしては高いの飲んでるんだな。
「メット、新人のあやちゃん」
メットが名前?あだな?
クエスチョンを押しのけてあたしは笑う。
ネックにはメット中田と書いてある。
多分、社名かな?
「あやです。よろしくお願いしま-す」
ぁ、顔タイプ。
それだけ思ったのを覚えてる。
あたしはお店で誰かを好きになることはないと思ってた。
どんなにタイプでも、あたしは恋には落ちない。
だって、お客さんだから。
面倒はごめんだし。
それが、出会いだった。
あたしはあのお店では殆どメットにつくことはなかった。
最初に挨拶をしただけ。
何か喋ったかも知れないけど、もう覚えていない。