昔の阪神タイガースは弱いなんてものじゃなかった
オリックスファンとしては羨ましい限り
野球観戦です。
趣味は?と聞かれると、いつもそう答えている。
野球にまったく興味がない人であれば「あ、そうなんですね。ところで……」と次の話題に移ってくれるので問題はないのであるが、中には食い付いてくる人も少なからずいる。昔に比べると日本の野球熱も下がったと言われているが、依然として野球ファンというのは多数存在するらしい。
「どちらのファンですか?」
「オリックスです」
そう答えたあとの一瞬の静寂。相手のどうしたらかいいのか分からないといった顔。
これが巨人や阪神なら話を拡げられたのに、という落胆が手に取るように分かる。本当に申し訳ないとしか言いようがない。
いやほんと、オリックスですいませんという感じだ。せっかく野球で話を拡げようとしてくれたのに、オリックスだと拡げようがないですもんね。
「へえ、珍しいですね。オリックスバッファローズですか?」
はい。オリックスです。ですがバッファローズではありません。バファローズです。
もちろんそんなことは口に出さない。いいんです。バッファローズでもバファローズでも大した違いはありませんからね。知っていただいてるだけでも感謝ですよ。
そのあとは相手の好きなチームを聞いて、そのチームの話を広げていく。生粋のオリックスバファローズのファンであれば、どこのチームであってもある程度には話を広げることができる程度のスキルは持ち合わせている。ロッテはもちろん広島のチーム状態くらいは頭に入っている。横浜については同情しているくらいだ。
もちろんオリックスの話をしたいのはいうまでもない。しかし、比嘉投手のタイミングの取りづらさや、安達選手のゴールデングラブが取れない問題や、Tー岡田選手のメンタルについて、話についてこられる人がいるとも思えない。今なら山本投手や宮城投手の知名度も上がってきているので、コアな野球ファンならこのふたりの話はできるかもしれないが、山本については凄すぎるで終わってしまうし、宮城については家庭環境の話になってしまったりする。
阪神ファンだったらよかったのに。
そう思ったことは一度や二度ではない。
実際に阪神の話題についていけなければ仕事に差しさわりがあるというくらい、関西では阪神の話ができることは必須のスキルのひとつである。
「趣味は?」「野球観戦です」「お好きなチームは?」「タイガースです」というのが関西での会話の自然な流れだ。
しかし、阪神ファンは、野球が好きというよりは、阪神が好きなのである。(おっさんの阪神ファンほどこの傾向が強いので、この場合の阪神ファンは昔の阪神ファンと言い換えよう)。野球が好きでオリックスが好きという筆者とは違うのである。
だから、「趣味は?」と聞かれても「阪神!」と答えたり「阪神ファン!」と答えたりする。つまり、昔の阪神ファンというのは、阪神という文化というか生き方が好きなのであって、野球は二の次。だから、勝たなくてもそんなに怒らないし、阪神タイガースが勝つのをそこまで求めていたわけでもない。
最近でこそ阪神ファンは勝利を熱望しているように見受けられるが、昔の阪神ファンときたら負けることすら許容していたのだ。
「川藤は三振するために出て来てるから三振してもええ」
こんなことを平気で言う阪神ファンが、当時の梅田の地下街にはほんとに山ほどいたのである。(当時の梅田の地下街は本当にダンジョンだった。モンスターみたいなおっさんもいっぱいいた。年中冒険しているようなおっさんが寝ていたり、ニセ夜間金庫があったり、なにかといえば警察官が走っていた。というか、ダンジョンの中に曽根崎警察の扉があった)
そして、そんな阪神ファンに限って、野球とはまったく関係のない日常でも阪神の帽子をかぶっていた。いったい何が彼らをそこまでさせるのか。当時子供だったわたしにはさっぱり分からなかった。だって、どう見ても金を持ってそうにないオッサンに限って、阪神の帽子をかぶって必死になって阪神を応援していたのだから。
そんなオッサンの様子を見て、まだ現役だった紳助がよく言っていた。
「いや、おまえが頑張れよ」
まったくその通りである。
ポケットに小銭しか入っていないようなオッサンが、必死になって年俸数億円の金本や鳥谷を応援していた。しかも、今では信じられないが、昔の阪神ファンは本当に巨人にさえ勝てばあとは大洋やヤクルトには負けても許してくれた。(なんなら新庄のホームランボールを応援旗で叩き落とすなんてこともやっていた)
あまりにも心が広すぎる。今の阪神ファンなら耐えられないだろう。
「好きな電車は?」「阪神電車です」
「好きなタイプは?」「鳥谷です」
「好きな食べ物は?」「阪神のイカ焼きです」
「信仰している宗教は?」「バースです」
そこまでファンが阪神に捧げているにも関わらず、昔の阪神は本当に弱かった。
いや、今のベイスターズの方が弱い! という意見もあるだろうが認めない。
本当に、本当に当時の阪神は弱かった。だからこそ、あのバックスクリーン3連発という伝説のざまあが未だに語り継がれているのである。
当時よく「PL学園よりも弱い!」などと揶揄われたものだが、絶対にないとは言い切れなかった。なにせ当時のPLは桑田清原がいた全盛時代。3年間の甲子園で決勝に行けなかったのは2回だけ。しかも桑田清原が3年の時には1年に立浪や片岡や野村や橋本がいたのだ。あの時のPLの層の厚さたるや高校野球史上最強と言ってもいい。しかも立浪は、片岡とプロ野球を見に行って「こいつら下手くそや!」と言ったのだという。さすがの片岡も驚いたそうだが、実際に立浪は1年目でゴールデングラブを受賞してしまった。
1試合限定で桑田が絶好調なら本当に分からなかったと今でも思うし、そう思わせるくらい当時の阪神は弱かった。
ところがどうだ。最近の阪神ときたら、人気もあるのにちゃっかり強さも手に入れている。
昔は阪神の助っ人外人ときたら碌な奴がいなかった。どう見てもただのおっさんが混じっていた。神のお告げの人だって、ゴルフをするのが目的だった。バースという超ド級の当たり外人は別として、使える外人など見たことがない。
なのに、最近では阪神は非常に当たりを引き当てている。アダム・ジョーンズなんて、本来は阪神が取るべき外人なのだ。
そのうえドラフトでは、オリックスの恋人だった佐藤まで引き当てやがる。
人気でも負け、強さでも負け、助っ人の質でも負けたら、オリックスの立場がない。
大体、大阪のチームはオリックスで、阪神は兵庫のチームなんだぞ!
いや、妬んでるわけじゃないんです。楽しそうだなあと思っただけです。
阪神とオリックスの日本シリーズ。死ぬまでに見れるかな。