6.新たなる仲間、その2
そういうわけで、うちのパーティーに新メンバーが加入しました。たおやかな魔法少女、ファネ・スタッタです。
聞けば、由緒正しき魔女を始めとして妖精の血まで入った家系らしく、秘めた魔力はとんでもないものがあるそうですが……。
え、なんでそんなすげぇ力持ってんのに冷遇されてたの?
「お給金すら払ってくださらない雇用主に見せる魔力などありませんから」
見た目によらずしたたかである。そういやこの子、下に何人も弟妹がいるお姉ちゃんだったな。
「ですが、あれほどの力が眠っていたなんて私自身ですら知りませんでした。あの時はロクロー様を助けたくて必死でしたけれど……。私、ロクロー様さえそばにいてくださればどんな魔法でも使える気がします」
赤らめた頬を両手で押さえて、健気に語るファネである。……なるほど、雇用主氷漬け事件を機に彼女の魔力は大きく覚醒したらしい。
なるほど。それに比例して、スキル由来である俺への想いも強くなったと。
なるほど。
……とにかく、大きな戦力がパーティーに加わったことには違いない。さてさて、それではそろそろ魔物討伐に行って小銭でも稼いで……。
「まだ足りないわね」
はい、まだ足りないそうです。まあね、俺含めてまだ三人だからね。パーティーと名乗るには、あと一人必要です。
「ですが、魔物研究家のロクロー様と武闘家のルルーナ様に加えて、魔法使いの私です。他にどんな職業の方をお招きすべきでしょう?」
「んー……回復役とか? 僧侶や薬師、医師なんかもあるわね」
「確かにそういった方々がいらっしゃると心強いですね。ですが、あるいは回復役は不要と割り切って盾となれる方を引き入れるのも一つかもしれません」
「防御に特化した戦士や、敵の動きを翻弄する盗賊や忍者ってこと? んんん、悩むなぁ」
……今、この子ら回復役を不要と言い切ったな。ふむ、彼女ほどの火力があればそれもありかもしれない。大きなパーティーになればそうは言ってられないが、少数精鋭で拠点を街に置くならそれも……。
「そ、それに、ロクロー様はサブジョブとして僧侶の資格も持ってらっしゃいますしね! 怪我をしても、ロクロー様に治療してもらえると思えば……!」
「その手があったか!!!! アタシ怪我したこと無いから全然気づかなかったわ! 天才ね、ファネ!」
「えへへっ」
違った。俺目当てだった。つーか仲良いな、君ら。
ともあれ、四人目の仲間である。個人的な意見を取り入れてもらえるなら、男がいい。それもそんなに強くなくて、あわよくばこの状況を緩和してくれる人が。
何なら友達が欲しい。
いや、この子達が嫌とかじゃないんだよ。でも四六時中こんな美少女たちから(スキル由来の)好意向けられてみ? ご両親への申し訳なさで胃が荒れるから。
そうしてうむうむと頭を悩ませていたら、近くを通りがかった女性たちの話し声が聞こえてきたのである。
「――ねぇ知ってる? 今この街に、ハンターのウェンデルが来てるらしいわよ」
「え!? ウェンデルって言ったらあの“神狼”の!?」
「……!」
その名を聞いた瞬間、俺は思わず身を乗り出していた。
――ハンター・神狼ウェンデル。
元はどこかの国で雇われていた一傭兵という噂である。だが、その国が魔物によって滅ぼされてからは魔物ハンターとして放浪を続けているという男。そんな彼の名を何故、自分のような場末の魔物研究家が知っているのか。
それは、彼が“絶対ギルド依頼成功させるマン”だからである。
ギルドへ寄せられる依頼で最も多いのは魔物討伐だが、その他にも素材集めや魔物研究目的など、種類は多岐に渡る。中には、魔物自体は討伐せず希少なツノの一部だけを削り取ってもらいたいという、逆に難易度が高い依頼もあるのだ。
が、かのウェンデルはそれらを確実にこなしてしまうのである。
魔狼のごとき素早さで魔物の隙をつき、あっという間に目的を果たす。必要以上に魔物や動物を傷つけたりせず、ただ依頼の内容だけを確実に――。研究のために魔物を殺すのがしのびない研究者一同にとって、誰より信頼のおける憧れのハンター、それがウェンデルだったのだ。
かくいう自分も何度も世話になったものである。もう大ファン。大好き。
――会いに行きたい。会って直接、お礼を言いたい。
そう思った俺の足は、気づけば勝手に動いていた。
「失礼します、お嬢様方。そのウェンデル殿を見たのは一体どちらでしょう」
「まあお嬢様だなんて。えーと、私たちが見たのはここから南にあるワッツォって料亭よ」
「でもそれも一時間前の話だから、もうそこにはいないかも……」
「十分です。貴重な情報をありがとうございました」
ああ、いよいよ俺は憧れのハンターに会えるかもしれない。そんな期待に少年のように胸を躍らせながら振り返ったら。
……何故か、美女と美少女がこちらに尊敬の眼差しを向けていた。
「ハンター……! 確かにその方なら、私達の攻撃の準備が整うまで敵を翻弄してくれますね! 流石ロクロー様! 目の付け所が違います!」
「しかも神狼ウェンデルといえば、サブジョブとして薬師も持っていたはず! 加えて強さも申し分無いわ! ロクロー……アタシ達の上を行くわね!」
「……」
……。
……。
まぁな!!!!
人間、時として開き直ることも必要なのである。女の子二人にベッタベタに褒められながら街を歩くという世の男が嫉妬で死にそうな環境に身を置きつつ、俺は料亭へと向かったのだった。