4.新たなる仲間
「えっ!? パーティーは四人以上じゃないと組めないの!?」
そしてギルドに戻った俺たちは、新たなるパーティーを結成する為申請をしていた。
のだが、なんか上記の理由で跳ねられてしまっていた。
「ど、どうしようロクロー。アタシ一緒に戦ってくれそうな友達いないわよ……」
「俺もです」
というか友達自体いない。何なら前世でもいなかった。
「でもせっかくパーティーを作るなら、強いパーティーにしたいわよね! ねぇマスター、誰か斡旋できない?」
ルルーナがカウンターに肘をついて、マスターに話しかける。ギルドには、こうして魔物討伐や旅の疲れを癒す為酒場が併設されている所も多い。チョビヒゲマスターは、丸眼鏡の奥の目を困ったように細めて言った。
「うーん、いるにはいるけど、ルルーナちゃんレベルとなるとなぁ。それにそういう奴らは、ちゃんとした功績のあるパーティーじゃないと入ってくれないんだよ」
「あら、そうなの? それじゃ直接スカウトしてみるしかないかしら」
「その方がいいかもねぇ」
そこまで聞いて、「強い」「スカウトされてくれる」「バトルの経験も豊富」な人材として俺の脳内にバジザ(恥じらいの姿)が浮かんだ俺である。が、流石に速攻打ち消した。
っていうか下手に強いメンバーを揃えてしまうと、スキルが反応して俺のハーレムができてしまう可能性がある。それは避けたかった。
「……ああ、そうだ。野良の子をスカウトしてもいいけど、引き抜きってやり方もあるよ」
「引き抜き?」
「おう」ギルドのマスターは、趣味であるグラス拭きをしながら言った。
「他のパーティーのメンバーに声をかけて、自分の仲間に引き入れるってやつだな。中には当然今のパーティーに不満に思ってる奴もいるし、条件が良ければホイホイついてきてくれることもある」
「うっ……でも好条件っていったって、アタシ達お金無いわよ」
「ルルーナなら魔物討伐ですぐ稼げるだろう」
「そのお金になる魔物討伐には、人手が必要なのよね……。ううーん、堂々巡りだわ」
「……それなら、引き抜いてくれれば私が謝礼金を払う、という子がいるとしたら?」
マスターが不可解な発言に、俺は首を傾ける。それはルルーナも同じだったようで、ぐいと身を乗り出した。
「何それ、つまりアタシ達は仲間もお金も手に入るってこと?」
「その通り。だからここから先は個人的な依頼になるかな」
マスターは、声を潜めた。
「あまりジロジロ見ないで欲しいんだけどね。右後ろの十人程度のパーティー……そこに、薄黄色の髪の女の子がいるだろ」
「ああ、あの可愛らしい」
俺とルルーナはやたら騒がしい集団に目を向ける。下卑た笑い声が飛び交う中、端っこの方でぽつんとうつむき座る少女がいた。歳の頃は、十四、五ぐらいか。
「あの子は、ファネという名の魔法使いでね。故郷に残した大家族を養うために、ギルドに加入したんだ」
「へぇ」
「本当は十九歳なんだが、苦労のせいか発育が遅くてさ。幼い見た目のせいで、随分と長くパーティーに入れなかった。私にも娘がいてね、他人事と思えなくて色々苦心したんだが……」
――やっと入れたパーティーが、クソの溜まり場だったと。
ふむ、言われてみればあんまり優遇されているようには見えない。時折呼ばれては細腕で酒を運ばされたり、雑用係のような扱いを受けているらしい。普通魔法使いといったら本人の精神面の影響がモロに技に出るのでむしろ大切にされるのだが、あの扱いを見るにそれはなさそうだ。
「……後悔してるんだ。あんな酷い奴らだと知っていれば、金を握らせてファネを入れるなんてしなかったのに」
「マスター……」
「一刻も早く、あの子を助け出して欲しい。そしてぜひ、君たちのパーティーに加えてもらいたいんだ」
「なるほど……事情はわかったわ。私も、あの子の扱いは見てられない。絶対に助け出してあげなきゃ!」
「そうか! ありがとう、そうしてくれると助かるよ!」
「まっかせて! ね、ロクロー!」
正義感に燃えるルルーナは、拳を握りしめてこちらを振り返った。
……。
……えー。
気が進まないなぁ。気が進まない。だってよそ様の話だし、そこそこ有名なパーティーなんだろうし。ただでさえビリャンの件が広まれば人は寄り付きにくいパーティーになるだろうのに、新たな火種を抱えるリスクは極力減らしたかった。
まあでも、能力が低い子なら一緒にいても俺が影響を与える心配は無いかな。そう思いながら、改めてファネの方に視線をやった時である。
バチリと、大きな目をした彼女と目が合った。
途端にファネの頬が紅潮する。慌てふためきながら髪を直したりスカートの裾を整えたりし始め、その後もチラチラと俺の方に視線をやっていた。
……ほうー?
……ほうほうほう、なるほど?
実は強いのね?
それも、ルルーナやバジザに匹敵するレベルで。
「……よし、あの子を助けに行きましょう。ルルーナ」
「ええ、ロクローならそうこなくっちゃ!」
「なんと……ありがとうございます!」
「ああ、任せてください、マスター」
愛されスキルに影響されるのは可哀想に思うが、能力ある人が不当な扱いを受けているのは見過ごせない。
かくいう俺も、かつては才能ある新入社員が、どクソ老害パワハラ上司にメンタルをぼこぼこにやられる光景を山ほど見てきたのである。しかし当時自分にできることといえば、退職を勧めたり、こっそり次の就職先を斡旋したり、鬱の診断書を通したり、パワハラ上司のパソコンのデスクトップをホラー画像に変えておくぐらいだった。
だが今は違う。もっと直接的に、人を助けられる力を持っているのだ。
「失礼します、パーティー・イプージャのベイバー様ですか」
「あぁん?」
威圧的な態度で、男は俺を見上げる。しかし俺は、前世でパワハラを無効化する術を身につけているので平気だ。端的に言うと慣れている。
「そちらの女性に御用があるのですが、少しばかりお時間をいただけませんか」
「そちらの女性」と言うと同時に、ファネに手を差し伸べる。ファネの目が驚きに見開かれる一方で、男は面倒くさそうに俺を睨んできたのだった。




