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11.パーティー結成

「こんにちは! アタシ達新しいパーティーを組みに来たの! ね、どの角度から見ても四人いるでしょ!? ちゃんとパーティーを組めるのよ!」

「はい、パーティーの登録ですね。ではここに皆様のお名前を……」

「ねぇしっかり数えた!? 四人! ほら、何回数えても四人なんだから!」

「はぁ……」

 山から降り、我々はパーティー登録のためこの辺りで一番大きなギルドにやってきた。が、はしゃぎすぎたルルーナがギルドの管理人を引かせていた。申し訳ないけど、どうか大目に見てやってほしい。ここまでくるのにほんと苦労したんだ、俺たち。

 こうして、晴れてパーティーを組めるようになった俺たちである。人数としては最少だけど、メンバーはどこに出しても恥ずかしくない精鋭達だ。


 俺以外は。


 ギルド管理人のお姉さんは、貼り付けたような笑みで紙の空欄を指差した。

「それでは、こちらにパーティー名をご記入ください」

「え、パーティー名?」

「はい。ちなみに既存のパーティーと同じ名前は使用できませんので、お気をつけを。お時間がかかるようでしたらあちらで記入し、もう一度並び直しをお願いします」

「ここで考えちゃだめ?」

「他のご利用者もおりますので」

「何よ、人の門出に冷たいわね」

 ルルーナは腰に手を当てて鼻を鳴らしている。しかし、これも仕方のないことだ。こっちは一世一代のおおごとでも、相手からすれば一日何件もある仕事の内の一つである。えてして市民のお役所仕事への不満は、こういったすれ違いから起こったりするのだろう。

「でも、確かにアタシ達ってばパーティーの名前を考えてなかったわね。ねぇファネ、何かいいのある?」

「そうですねぇ……」

 ルルーナに話を振られたファネが、ムムと腕組みをして考える。彼女は無事元の大きさに戻っていた。ギルド近くにある魔力補給所のお陰である。

 桜色の小さな唇が、動いた。


「……好き好きロクロー様団……」


 待って。


「そうです、スキスキロクロー団はどうでしょう! この名前ならみんなの心が一つになれると思います!」

「え、嘘ですよね、ファネさん!?」

「わあ、最高じゃない! でもこれ、口にするたびロクローへ好きって言ってるようなものじゃ……べ、別にアタシは何回でも言ってもいいけど!」

「ルルーナも正気ですか!? ちょ、ウェンデル君……!」

「フッ、時にはレディ達の意志を尊重しなければな」

「君まで!?」

 ヤベェ、このままだとマジでパーティー名が『スキスキロクロー団』になってしまう。見るのも言うのも恥ずかしい。やめてほしい。

「はい、『スキスキロクロー団』でございますね。他のパーティー名との重複もありませんし、問題無くご登録できます」

「ええ、お願いね!」

 ダメだったー! ルルーナのスピードとたまたま空いていた列にオッサンの速度全然間に合わなかった! 管理人さんも止めろよ! 被るよりもっとデケェ問題あるだろ、その名前!

「わーい! これでスキスキロクロー団結成ですね! 私達は今日からみんな仲間です!」

「ええ! 改めてよろしくね、みんな!」

「ああ。……フフ、俺が仲間か……フフ……」

 だがみんなはとても喜んでいる。何なら普段クールなウェンデル君すら嬉しそうだ。アホ毛もしっかり揺れてんな。


 ……ええー……。


 じゃあ、まあいいかぁ……。


「とにかく乾杯しましょ! 今日は結成記念日よ!」

「そうですね! ほらほら、ロクロー様も!」

「はい……」

「席を取ってきた。店員も呼んだから、まもなく来るだろう」

「ありがとうございます、ウェンデル君。やはり君は段取り上手ですね」

「!? と、当然だ!」

 ……ところで、なんか全員俺の服の裾を掴む癖があるっぽいんだけどコレ何なんだろうな。スキルの説明には「もれなくスキル保持者の服は伸ばされる」とか無かったと思うけど。

 そっとしておこう。いずれにしても、俺の服の裾はもうビロンビロンなのだ。

「それじゃ……スキスキロクロー団に、カンパーイ!」

「乾杯!」

「乾杯」

「乾杯ー」

 ルルーナの明るい掛け声に、みんなで杯をかちあわせ一気に中身を飲み干す。これで葡萄酒とかなら格好がつくんだろうけどね。前世でも今世でも下戸な俺が飲んでいるのは、新鮮なオレンジジュースだ。変わらぬ味だね。おいしい。

 それにしても、こんなファンタジーな世界観でもめでたい席では乾杯するんだなぁ。普段からこの世界の言語を日本語として認識してる(これも謎現象)俺としては違和感が無いけど、些細な文化も殆ど日本とはズレが無い。

 ……なんか、怖いな。実は過労死寸前の男が見た都合のいい夢でした、なんて言われてもおかしくない。むしろそっちの方が納得できるぐらいだ。でもそうなると、俺の深層心理は、健康的グラマラス最強美女とおしとやか幼お姉ちゃん、クールなイケメンハンターから好き好き言われるのを求めてるってことになる。欲も業も深くて嫌だ。あと、流石にパーティー名の知能指数が低過ぎる。

「な、なんかロクロー、ちょっと顔色悪くない? 大丈夫?」

「まあ、オゥレンの実のジュースがお体に合わなかったのでしょうか。お腹をあっためる魔法をおかけしましょうか?」

「おい。毒消しが入り用なら、ここで調合してやってもいいぞ」

「あ、大丈夫です、大丈夫……。皆さん、ありがとうございます」

 ……みんなの気遣いが、社畜体質に染み入る。でも、この子達の優しさも俺の妄想かもなと思うと今にも泣けてきそうだ。

 だからといって、好き勝手していいわけじゃないとも思うのだ。むしろ自分が創造主だとしたら、尚更この子達を大切にせねばならないとすら思う。そんな謎の使命感が湧いてきた。

 よし、俺は絶対にこの子達を守るぞ。たとえ自分の妄想だったとしても、俺はスキスキロクロー団の一員として微力ながら命を捧げ、彼女達を平和で幸せな日々へと導くのだ。


 ………………パーティー名!!!!


「邪魔するよ」

 そうして和気あいあいとみんなでテーブルを囲んでいた時である。新たに訪れた知らない男の一声により、酒場は水を打ったように静まり返った。

 いや、本来ならそんなことあるはずがないのだ。酒場といえば、豪快な荒くれ者から品のいい王宮魔術師まで訪れる憩いの場。たかが一人の客如きに動揺などするわけがないのだから。

 だが、こと彼においては違った。

「ここに、ゴウモウドラゴンの毛を三十本も集めたハンターを擁するパーティーがいると聞いたが……はて、どの者であろうか」

 短く整えられた白髪と背筋の伸びた佇まいだけを見れば、あるいは良家の執事かと思っただろう。しかし、深い皺の中に刻まれた大きな傷と、背中に負った巨大な剣。それらが、たとえ歳を重ねていようとも衰えること無き絶対的強者の風格を知らしめていた。

 この場にいる者で誰が彼を知らぬと言えようか。赤子ですら、母の歌乗せられるその男の名を知っているだろう。

 彼の名は、ワジャス・ベル。この世界の最高正義執行機関、『円卓の天秤』の裁定者の一人であった。

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