94.王の戸惑い
「すまぬな、突然呼び出してしまって」
「いえ、陛下がお呼びとあらば、たとえどこにいても即刻馳せ参じる所存であります。それが従者としての務めですから」
「我々は主の望むがままに行動する、それが仕事なので」
「ふふふ、相変わらず堅いなお主らは。もう長い付き合いなんだ、今はそういうのはなしにしよう。座ってくれ」
「は、はい……」
「失礼します」
二人は近くにあった椅子を手に取ると、フォルトのベッドのすぐ横に置き、腰をかける。
「お体の方は……?」
「まだ少し痛むが医療班のおかげでだいぶ良くなった。敵が射撃の名手じゃなくて助かったよ。あと数センチズレていたら致命傷だったらしいからな」
フォルトが撃たれたのは足に数発と腹部に一発。
どれも急所はギリギリ外れており、大事には至らなかった。
「本当に申し訳ありませんでした。我々が付いていながら……」
「もう良い、レイム。あまり自分を責めるな。身体に悪いぞ」
「はい……」
俯くレイムに優しく問いかけるフォルト国王。
しかしすぐに表情を険しくさせると、
「それよりも、どうやってこの城に入り込んだのか。それを調べなくてはならない。何か手掛かりになる情報は手に入ったのか?」
「それが……」
アルバートは例のアジトの件を簡潔にフォルトへと伝えた。
「なるほど。収穫は無し、おまけに騎士を数名失ってしまったわけか」
「申し訳ございません、陛下。ご期待に沿えることができず……」
「仕方あるまい。捜索隊は?」
「今、向かわせております。一応護衛として、高級冒険者もつけておきました。それと万が一の時のため、彼らには転移結晶を持たせてあります」
「そうか。なら良い」
「陛下。今一度確認しておきたいのですが、犯人は使用人に変装した状態で、いきなり銃を向けてきたと?」
「うむ。最初は使用人として部屋に来てな。時間的に清掃の時間かと思い、部屋に入ることを許可したのだ。だがその者を部屋に入れた途端、魔法銃を突きつけられ、そのまま撃たれた」
「そしてその者は転移結晶を使い、逃げたと?」
「恐らくな。意識が朦朧としていてよく分からなかったが、何かを手に持ち、暗示をかけていた。そして姿ごと丸々消えたのだ」
これがこの事件の経緯。
フォルトが目を覚まし、記憶にある全てを吐きだした結果だった。
犯人は使用人の姿で城内に潜伏していた。
そして一番警備が薄く、いつもの清掃の時間とマッチする時間帯に王室へと向かい、犯行に及んだ。
犯人は魔法銃を用い、陛下に手傷を負わせ、転移結晶で逃亡した。
ざっと纏めると、こんな感じだ。
「犯人が魔法ではなく、魔法銃を使ったのも、何か関係があるのかもしれんな」
「それなら恐らく、魔力探知をさせないためと思われます。私たち宮廷魔術師は護衛の為に魔力を感じとる能力に長けていますから」
「なるほど。魔法銃を使えば、それができなくなると」
「発射と同時にかなり微量の魔力が検知されると思いますが、一瞬の間にそれを感じ取るのはほぼ不可能です。相当高度な能力を必要とされます」
魔道具を使うには魔力を必要とするが、魔法ほどではない。
それに魔法銃程度なら使用する弾丸にもよるが、微量な魔力しか必要としないため、魔力を検知するのが難しい。
たとえレイムであっても。
それは不可能な所業だ。
「とにかく今回の一件はかなり熟考された計画だと推測できる。使用人として潜伏していた期間も一週間や二週間前のことではないだろう。でなければ、城の防衛網を潜ってここまで完璧に計画を遂行させることはできん」
「おっしゃる通りです。なので今は使用人の個人情報等の確認、あとは入国者の書類情報、検問所での入国履歴などから犯人を追っています」
「うむ。引き続き、調査を続けてくれ」
「分かりました。それと、例の件については……」
「已むを得まい。今は国民の安全が第一だ。お主らには苦痛を強いてしまうことになるが……」
「構いません。それが王の望みとあれば、私たちは従うまでです」
「私も同じ意見です」
「すまないレイム、アルバート。私が表に出ることが出来るまで、この国を頼む……」
「「仰せのままに」」
アルバートとレイムは椅子から立ち上がると、一礼し、
「では失礼させていただきます」
そう一言言って王室から出て行った。
「とうとう、この日がやってきてしまったというのか……ダウトよ」
フォルトは天井を見上げながら、そう呟くと。
再び静かに目を閉じるのだった。