85.ギルド閉鎖
ギルドにつくと複数の馬車が駐在していた。
「ん、なんだあれは……?」
「国が所有する馬車……ですね」
側面にはデカデカと国章が描かれており、どうやら要人がギルドに来ているみたいだ。
その証拠に入り口の前には数人の国家騎士たちが見張っている。
「どうしよう、あれじゃあ中に入ろうにも……」
多分、止められる。
雰囲気的にただごとじゃない感じがするし。
「あの様子だと何か問題があったみたいだね。馬車の数も護衛の騎士の人数も普通じゃない」
リベルも察したようで、少々顔を険しくしながらそう言う。
よく見てみたらギルドの前には一時閉鎖の看板が置いてあった。
「ん~(もぐもぐ)、じゃあどうするの~?(もぐもぐ)」
「呑気でいいな、お前は……」
未だクレープを食べているイリアに溜息が出てしまう。
その時だ。
「な、なら……わたしが何とかしてみます!」
「そ、ソフィア……?」
「わたしが説得して中に入れるよう、頼んでみます。相当なことじゃない限りは話は通ると思うので」
「いいのか? 頼んでしまって……」
「もちろんです! それにこのくらいしか、今のわたしはランスのお役に立てませんから」
口元は笑っているが、目は真剣だった。
確かにあの状況だと俺たちがいくら説得しても無理そうだ。
それに今は状況が状況。
手段など選んではいられない。
「じゃ、じゃあソフィア。頼めるか?」
「は、はいっ!」
ここはソフィアの持つ王女の権力とやらで無理矢理こじ開けてもらうことにしよう。
俺たちはソフィアを先頭にギルドの入り口へと歩み寄る。
「止まれ! 現在ギルドは閉鎖中だ!」
案の定、入り口を見張っていた二人の国家騎士たちに行く手を阻まれてしまう。
が、ソフィアは自分の来ているローブのフード部分に手をかけると、その素顔を晒した。
その瞬間、二人の騎士の表情が大きく変わる。
「あ、あなたは……! ソフィア殿下!?」
「お勤め、ご苦労様です」
ソフィアが労いの言葉をかけると、二人の騎士はその場で膝をついて頭を深く下げた。
こうしてみると権力ってすごい。
こうも簡単に人に頭を下げさせることができるのだから。
「この騒ぎ、ただごとじゃないですね。一体、何があったんですか?」
「そ、それが……我々にもよく分からないのです。突然アルバート様とレイム様がギルド訪問をしたいとのことで……」
「あのお二人が? では、ギルドの閉鎖も……?」
「はい。アルバート様とレイム様のご指示で……」
どうやら今ここに来ているのはアルバートさんとレイムさんらしい。
あの二人がギルドを、しかもギルドを閉鎖してまでの用事……
これはもう、普通の用事ではないことは明らかだ。
「今、お二人は中に?」
「はい。ギルドマスターのドロイド殿と面会されております」
「事情は分かりました。実はわたしたちもドロイドギルドマスターに用がありまして。急用なので今すぐにも取り次いでもらいたいのですが……」
「さ、左様でございますか。ですが……」
騎士は言葉を少し詰まらせる。
だがすぐにソフィアの権力的一言が、二人に降りかかった。
「一応、これは王女としての命令なのですが、それでもダメでしょうか?」
今までないほどの圧をソフィアから感じる。
いつも優しくて笑顔が絶えない彼女からこんなオーラが出るなんて……
ぶっちゃけ、今のソフィアに物言いできる人なんていないだろう。
俺でも怖くて、何も言えないと思う。
「わ、分かりました……すぐにご案内いたします」
その圧に負けた騎士が渋々頷くと、数人の騎士たちに守られながらギルドの中へ。
(やりました! ランス!)
そう言った意図が込められたと思われるウインクを俺に向かってしてくるソフィア。
流石は王女様である。
ちょっと強引な手口を使ったのは驚いたけど。
そんなわけで。
俺たちは何とかギルド入りを果たすことに成功したのだった。