83.復活の
噴水広場に戻ってくると、例のベンチにみんなの姿があった。
俺がみんなのもとへ駆け寄ると、ソフィアがいち早く気づいてくれた。
「あ、ランス! お帰りなさい!」
「ただいま。ごめん、待たせちゃって……」
「随分と遅かったね。何かあったのかい……」
「それが色々あって……あ、それはそうとイリアはどこに?」
「イリアならあそこですよ」
ソフィアはそう言って広場にあった一軒の露店を指さす。
露店の看板にはクレープという文字が書いてあった。
そして何事もなかったように特大のクレープを持ってイリアが戻ってくる。
「あ、ランス。帰ってきたのね」
「あ、ああ……じゃなくて! お前、もう大丈夫なのか?」
ほんの数十分前まで死んだ魚のような目をしていてご臨終だった人がこの変わり様。
目も潤いを取り戻しており、しっかりと自分の足で立っている。
一体何があったんだ……? と言わんばかりの状況が目の前で起こっているのだ。
イリアは俺の質問に答えた。
「うん、もう大丈夫! この通り、復活よ!」
「そ、そうか……」
イリアは何事もなかったかのようにベンチに座ると、もぐもぐとその巨大クレープを頬張る。
「なぁソフィア、一体何があったんだ?」
「そ、それが……わたしたちにも分からなくて。突然起き上がったと思ったら、クレープが食べたいって……」
なにそれこわっ!
一体彼女に何があったというんだ……
しかもスイーツで地獄を見たのにクレープとは……全く懲りてないな。
「ふふふっ、なんかわたしの復活劇を知りたそうな顔をしているわね」
「うわっ! びっくりした!」
さっきまでベンチに座っていたはずのイリアが突然背後から話しかけてくる。
依然としてもぐもぐしながら。
「うふふ、聞きたいランス?」
「え、ま、まぁ知り――」
「なら、教えましょう! わたしの超絶怒涛の復活劇を!」
まだ最後まで言ってないんだが……
というか自分が言いたいだけなんじゃないのか?
まぁ、聞きたいかと言えば聞きたいからいいんだけど。
「お、おう……頼む」
よく分からない勢いに圧倒される。
するとイリアはニヤリと笑うと、経緯を話し始めた。
「そう、あれはわたしが三途の川で彷徨っていた時のこと……」
なんか始まりからちょっとおかしい気もするが、まぁいいや。
俺は黙ってイリアの話を聞くことに。
「突然目の前に一筋の光が見えて、中から人が現れたの。しかもわたし好みの超イケメン!」
「はぁ……」
「そのイケメンは言ったわ。『わたしは貴女を救うことができる』と。そしてその救う方法が貴女とキスをすることなのだと!」
「ほうほう」
「だからわたしは迷わず答えたわ。『……してください』って。そしてわたしはそのイケメンと夢の中で口づけを交わしたわ」
「へぇ……」
「そしたら、どういうわけか急に身体にどんどん力が湧いてくるのを感じたわ。まるで生命を吹きかけられているような……そんな感じだった」
「それで、気がつけば復活していたと?」
「そう。そしてわたしは最後に彼の名前を聞いた。そしたらそのイケメンは別れ際にこういったわ……わたしは『クレープの王子』だと! するとどういうわけか、無性にクレープが食べたくなって……」
「今に至ると?」
「イエス!」
…………なんか、色々と心配して損した気がする。
内容はともあれ、そんな単純なことで復活できてしまうとは。
ま、俺も俺で別のことをしていたから文句は言えないんだが。
「とまぁ要するに、王子様のキスでわたしは復活したのです」
「そりゃ、良かったな」
クレープの王子とやらがどんな人物なのか気になる所だが。
「んじゃ、もうこの水は要らないな」
「あ、それ欲しい! ちょうど喉が渇いていたところなの。さっすがランス、気が利く~~!」
「ど、どうも……」
いや、あなたが買ってこいって言ったんだけどね。
どうやら危篤状態だった時の記憶はあまりないみたいだ。
「あ、そうだ。こんなことしちゃいられないんだった。みんな聞いてくれ」
「ん、どうしたんですかランス?」
イリアのペースに乗せられて、例のことが頭から離れそうになっていた。
とりあえず今はここにいる全員に話しておかないといけない。
「実はさっきとんでもない情報を掴んだんだが……」
俺はみんなの注意を自分に向けると、例の計画の件について話した。