81.アジト2
「だいぶ、人気のないところにいくなぁ……」
俺は依然として例の二人の尾行を続けている。
気がつけば、二人の追跡を始めてから30分以上が経過していた。
今までは違うカフェに入っては出てを繰り返し、意味不明な行動ばかりだったが、ようやくその行動にも大きな変化が現れた。
「確かこの辺は……」
奴らを追っていくと、いつの間にか王都の繁華街エリアからは大きく離れた場所まで来ていた。
賑やかさを見せる繁華街とは違い、閑散とした雰囲気。
恐らく、貧民街とかスラム街なんて呼ばれているところだろう。
来たことはなかったから、噂程度にしか耳にしていなかったけど……
「まさか本当にこんな場所があったなんて……」
かなり広い王都なら、こう言った闇の部分があってもおかしくはない。
でも多くの人で賑わう繁華街エリアばかりが目に行ってしまうためか、こういった場所を目にした時のギャップは半端ない。
光あるところに影あり。
まさにこの言葉の”闇”の部分を体現しているような場所だった。
「あの小屋か……」
尾行していると、辿り着いた先は一軒の小屋だった。
かなり目立たないような場所にあり、入っていくのを確認していなかったら、存在すらも分からないようなところだ。
「なるほど。アジトって言うだけはあるな」
俺は二人が小屋に入ったのを確認すると、扉の方へ歩み寄る。
流石に敵地に単独で乗り込むのは危険なので、側面から回り込み、外から話を聞く方針へ。
幸運なことに一つだけ丁度いい高さに窓があり、中も覗ける環境があった。
チラッと覗くと中には例の二人と、同じく黒ローブに身を包んだ者が数人がいた。
(よし、ここから盗聴するとしよう)
しかしながら、調査といえ盗聴するのはあまり良い気分ではないな。
実際、知らない人から見れば単なる犯罪者にしか見えないだろうし。
「では、これより計画の会議を執り行います。今日は我が軍の筆頭も急遽来ることになった。皆、無礼のないようにお願いしますよ」
と、中で誰かが話し始める。
どうやら何かが始まったようだ。
俺は聞き耳を立て、そっと静かに目を閉じた。
「バージュ、一ついいか?」
「何ですか?」
「場所が場所だからこういうことはないかもしれんが、人避けの結界くらい張った方がいいのではないか? もし誰かに聞かれていたら、洒落にならんぞ」
「ふふふっ、そのことならご心配は要りませんよ。何せもう既にこの貧民街全体に人避けの結界を張ってありますので誰もこのエリアには入ってこれません。結界を壊さない限りは……ね」
人避けの結界……?
ああ、そういえばさっき貧民街入る時に結界みたいなのが張ってあったから壊しておいたっけな。
人が出入りするであろう場所に何で人払いの結界が張られているんだろうなって思っていたが、まさかあの黒ローブの野郎の仕業だったとは。
でも人払いの結界を張るってことは他の誰にも聞かれたくないことを今から話すということだ。
(やっぱり、これは……)
俺の疑念は少しずつ確信へと迫って行く。
「ふっ、何だか余裕だな」
「私の結界を壊せるほどの人間はそういません。我々はその手のスペシャリストなんですから。もしいるのなら是非とも会ってほしいものです」
残念ながらここにいるんだなぁ……
というか、スペシャリストってことはあのローブ男は結界師か何かなのか?
「では、気を取り直して……始めますよ」
ローブ男は話を振りだしに戻す。
俺も窓際でひっそりと息を潜めていると――次の瞬間。
とんでもない言葉がローブ男の口から放たれた。
「今日の議題は他でもありません。例の計画……王都占領計画についてです」