78.胸騒ぎ
「はぁ~~~美味しかった。大満足です!」
「王都にあんな美味しいスイーツを出すお店があるなんてね。僕も知らなかったよ。ランスくんの方は大丈夫そうかい?」
「い、いえ……残念ながら、重症ですね。これは」
あれから。
俺たちはカフェを出て近くの噴水広場にやってきた。
約一名、脱落者が出たことにより……
「おい、イリア。大丈夫か?」
「う、うぅぅぅ……ぅぅ、す、スイーツの魔人が……襲って……ぅぅぅ!」
「一体、どんな夢を見ているんだ……?」
そう、脱落者とはイリアのこと。
一言で言えば無理してスイーツを食べたことでお腹を壊し、今は俺の背中に身を預けているという状況になっている。
で、こんなのを店の中に置いておくわけにもいかないということで近くの噴水広場で休ませようという結論になり、現在に至るというわけだ。
「よっこらせ……」
噴水広場につくと、俺は長ベンチにイリアの身体をそっと下ろす。
未だイリアは悪夢から解放されていないらしく、唸っては静かになってを繰り返していた。
「イリアさん、大丈夫でしょうか?」
「しばらくはこんな感じだろうな。無理しまくっていたし」
「なんで彼女はいきなりあんなドカ食いを始めたんだ?」
「さ、さぁ……俺にもさっぱり」
理由があまりにバカバカしいので二人には言わないことにする。
まぁ、女性目線から考えればああいう想いを抱くこともあるんだろうけど。
調査を阻害したケジメは後できっちりとつけてもらわないとな。
「しばらくは休憩って感じになりそうですね」
「だな。すみません、リベルさん。ご迷惑をおかけしてしまって……」
「いやいや、僕は大丈夫さ。それよりも彼女が心配だよ」
イケメンの上に優男とか、リベルさんどんだけ良い人なんだ……
一人の男として是非とも見習いたい。
「う、うぅぅぅ……ら、ラン……ス」
「お、戻ってきたかイリア?」
手を天高く挙げ、俺の名を呼ぶイリア。
まだ意識は朦朧としているようだが、さっきよりも目に潤いはあった。
イリアは少し掠れた声で言った。
「ラン……ス……み、み……ず……」
「え、なんて?」
「み、ず……が、ほし……い……」
「水? 水が欲しいのか?」
俺が聞き返すと、イリアはゆっくりと首を縦に動かした。
「分かった。今から買ってきてやるから、ちょっと待ってろ。リベルさん、ソフィア。ちょっと俺、水を買ってきます」
「分かりました」
「じゃあ、僕たちはイリアさんを見ているね」
「お願いします。じゃ、行ってきます!」
俺は走って水を買いに。
確かあのカフェの近くにお店があったな。
「こうなるんだったら、水袋くらいは持ってくるべきだったな……」
まぁこんな状況を予想できたら苦労はないんだが。
「あ、あそこだな」
さっきのカフェの通りにひと際繁盛して目立つ店が。
色々なものを取り扱っているらしいから、何でも屋なんて呼ばれているらしい。
「さっさと買って戻ろう」
そう思った時だ。
「……ん、あれは」
たまたま目に入った大柄の男。
それは間違いなくさっきカフェで見た店員だった。
だがその影にもう一人、黒い服に身を包んだ謎の人物の姿があった。
二人は執拗に周りを気にしながらも、スッと素早い身のこなしで細い路地へと入って行った。
「なんだ、この胸騒ぎは……」
別に深い意味はない。
だが、何故かこう思うのだ。
嫌な予感がする……と。
「一応、確認しておくか」
もし見当違いだったら、単なるストーカーだが。
その時は見つからないようにスッと身を引けばいい。
今の王都は危険に曝されている。
どこでどんなことが起きてもおかしくはない。
ならば、少しでも怪しいと思ったら調べてみるに越したことはない。
「悪い、みんな。ちょっと戻るのに時間がかかるかもしれないけど」
(これも、王都を守るためだ)
予定変更。
俺はその二人を追いかけるべく、薄暗い路地に入っていくのだった。