75.気になるの
「ん~~~~っ! これすっごく美味しい!」
「なんか癖になる食感ですよね! ツルツルでモチモチしていて」
場所は王都某所にある人気カフェ。
そこで俺たちは寛いでいた。
「満喫してるな、二人とも」
「はい! あ、このパウンドケーキもすごく美味しいですよ! イリアさんも食べてみてください!」
「どれどれ……あ、本当だこれすっごく美味しい! ならこのプリンも食べてみてよ。目ん玉飛び出るほど美味しいわよ!」
「パクッ……あ、本当です! 濃厚で甘さもちょうどいいですね!」
お茶会会場か、何かか? ここは。
この様子じゃ、もう二人とも本来の目的とか忘れているよな……
特にイリアは。
「ランスはまだ飲まないんですか? とても不思議な食感ですよ!」
「え、ああ。じゃあ……」
俺は自分の頼んだ飲み物にストローを指し、ズズズっと飲み始める。
「じゃあ僕も」
後に続いてリベルも一口。
(ん、なんだ?)
不思議な食感の物体が口内に入って来る。
それを噛むと何やらモチモチとした強い弾力があった。
「なんだこれは……」
「本当に不思議な食感がする食べ物だね、これは……」
リベルも俺と同様に驚いているみたいだ。
飲み物自体は普通のアイスコーヒーだが、気づけば一番下に何やら謎の物体が沈んでいる。
丸くて黒くて光に当てると反射する謎の物体だ。
「それはタピオーネっていう食べ物らしいですよ」
「た、タピオーネ?」
「今、王都ですごく流行っているみたいですよ。他大陸の方から伝わった食べ物らしいです」
「ほう……」
「ちなみに今の王都にあるカフェでは、流行に乗じて飲み物にタピオーネを入れて提供する店が多いみやいですよ」
「そこまでなのか……」
物珍しそうにカップの底を眺めていると、ソフィアが説明してくれる。
このちょっとヌメッとした食べ物が流行なのか……
味は何というかほぼ無味に近いんだが、ほんのりと甘さがあった。
「一体、これは何なんだ?」
「なんか、なんちゃらって植物の根茎から作られているものみたいよ」
「なんちゃらって……」
そこが知りたいのに……
でも植物から作られているものなのか、これ。
「世の中には不思議な食べ物があるんだな……」
「ですね~でも王都は本当すごいですね。毎日にように様々な珍しい食べ物が各地から入って来るんですから」
「まぁ、王国の中心都市ってだけじゃなく大陸から見ても結構大きい街だからな。産業とかも他のどこよりも進んでいるから、流行を含む情報がいち早くここに集まるようになっているんだろう」
「流石は王都よね。おかげでわざわざ本場まで行かなくても、珍しくて美味しいものが食べられるんだから」
「そうだな……」
その王都が今、危機に曝されようとしているんだが……自覚あるのだろうか?
忘れていないか一応、確認しておくか。
「なぁイリア、お前――」
「ランス、ちょっとこっちに来て!」
「は? お、おい……!」
イリアはいきなり立ち上がると、俺の手を引っ張り、店の端の方へ。
驚く皆の顔を横目に彼女は身を隠すかのようにちょうど人の視線を浴びることのないトイレの扉前まで俺を連れてくる。
「いきなりどうしたんだ、イリア。食べ過ぎで腹でも痛くなったのか?」
「そんなわけないでしょ! ちょっと気になることがあって……」
「気になること……?」
「うん。あそこを見て」
「ん……?」
イリアの指さした方向。
その先にあったのは、洒落た場所には似合わない大柄の男性店員がコーヒーを入れている光景だった。