71.試してみたかっただけなんです
「とまぁ……こういうことでお二人はランス様を元気にしようと奮闘してたわけです」
「「……」」
アリシアさんの解説で黙り続ける二人。
いやむしろ俺が黙りたいくらいなんだが……ここはあえて言わせてもらう。
「なぁ、二人とも」
「「はい……」」
この先自分たちがどういうことになるのか、大体察しがついているのだろう。
さっきまでとは変わって一気に大人しくなる。
だが俺は容赦なく先を話し始めた。
「俺を元気付けようとしてくれたのは嬉しい。動機に関しては凄く感謝したい。でもな……流石にそれはやりすぎだって」
「うぅ……ごめんなさい、ランス」
真っ先に謝ってきたのはソフィアだった。
ソフィアは少しだけ涙目になりながら、俺に何度も頭を下げてくる。
「い、いや……ソフィアはまぁ仕方ない。どちらかというと巻き込まれた側だからな。でもあまり悪い誘いにはホイホイ乗るもんじゃないぞ」
「ご、ごめん……」
本来、ソフィアはこういうことは絶対にしないタイプ。
でも心が素直でピュアな故に今回のように人道を踏み外してしまうこともある。
悪気はないのは分かっているが、無知なのも問題ってことがよく分かった。
それよりも、一番問題があるのは……
「イリア……」
「は、はい」
「まず始めに聞いておくが、なんで惚れ薬なんて持ってたんだ?」
ひとまず気になっていたことを質問してみると、イリアは言いにくそうに口を開いた。
「そ、それはその……実はわたし薬品収集が趣味で……」
「ふむふむ」
「それで、たまに自分でも作ったりしていて……」
「なるほど」
「それで、いつかは試してみたいなと思っていたら……」
「今回がその絶好の機会だったと……」
「……はい」
俺の真剣な声色に悟りを開いたのか、イリアは躊躇なく事の発端をベラベラと話してくれた。
「事情はよく分かった。正直に話してくれてありがとうな、イリア」
「じゃ、じゃあ……!」
「後でお前が今現在持っている惚れ薬全部を廃棄してもらう。もちろん、他にも危険な薬品があったら即刻廃棄だ!」
「え、えぇぇぇぇぇぇ!?」
イリアにとってはまさかの一言だったのだろう。
今までない悲痛の叫びが部屋中に響き渡った。
「えぇぇぇぇぇぇ!? じゃなくて当たり前だ! 危うく俺の貞操が危険に曝されることになっていたんだぞ。しかも惚れ薬で無意識に……!」
「で、でも……! 流石に捨てるのは……! だってまだ試作段階のものとか試していないものとかもあるのに……!」
「ほう……まだそういうものを隠しているってわけか」
「あ、いや……今のは……!」
「問答無用! 調査から帰ってきたらイリアの部屋に行って断捨離パーティーを行うからな! 覚悟しておけよ!」
「そ、そんなぁぁぁぁ! せめて惚れ薬は……残りの惚れ薬だけは残してぇぇぇ!」
「ダメ。全部捨ててやる」
「あ、あんまりだぁぁぁ!」
その場で膝をつき、崩れるイリア。
でもこうしないとまた今回のような出来事が起こりかねないからな。
悪く思うなよ。
「というか、そもそもアリシアさんも許可出さないでくださいよ! というか二人の行動をそこまで事細かく知っているということはドアの隙間から見てましたね?」
「おっと、鋭いですね。まったくその通りです」
「見てたなら、止めてください……」
「いや、中々に面白そうだったのでつい……」
「もし事後だったら、ついじゃ済まなくなってましたよ……」
この人もこの人で真面目なのか、不真面目なのか。
いや、こういうことを許す時点でマジメではないか。
「と、とにかく今回のことはイリアの断捨離パーティーで許すから、次はこういうことないようにしてくれよ?」
「は、はい! 本当にごめんなさいランス!」
「ごめんなさい……」
下を向いて反省する二人。
もう懲りたようだし、これくらいにしておこう。
「で、でも……元気付けようとしてくれたのはすごく嬉しかった。ありがとうな、二人とも」
「「ランス……!」」
顔を上げ、瞳をうるっとさせる二人に照れくさく礼を言うと、俺は一拍置いて話を続けた。
「だ、だから今度はまた違った形で元気づけてくれると嬉しいな……なんて」
「も、もちろんです! わたしにできることならなんでも言ってください!」
「わ、わたしも! ランスの為なら何だって……!」
「二人とも……」
最初のどんちゃん騒ぎから一転。
少しいい雰囲気へと変わる――のだが。
「それよりも皆さま。そろそろ支度をしないと間に合わないのでは?」
「えっ……?」
アリシアさんがそういうと柱時計に指を指し、俺たちの視線を誘導。
すると時間はもう6時半を越え、集合までもう30分もなかった。
「ま、マジ? もうこんな時間かよ!」
話に夢中になっていて気がつかなかった。
まだ朝ご飯すら食べていないのに!
「アリシアさん、至急朝ごはんをお願いします!」
「かしこまりました」
この後。
俺たちは早朝にも関わらず、バタバタして屋敷を出たのは、言うまでもない。