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07.重役を名乗り出ました。


 あれから一時間ほどが経過した。

 宴は終盤に差し掛かり、歓談の時間へと入っていた。


「はぁ~食った食った!」


「はははっ! ご満足いただけて何よりだ」


 だらーっとし始める俺にフォルト国王はガハハと笑う。

 だがすぐに自分の行いの非礼さに気付き、


「……あっ、申し訳ありません! 国王陛下の御前ではしたない姿を……」


 すぐに姿勢をただした。


「いやいや、リラックスしてくれて構わない。宴を楽しんでいる時はみな平等。身分の差など関係ないのだよランス殿」


「で、ですが……」


「お父様の言う通りですよ、ランスさん。それに、わたしのことも”ソフィア殿下”とかじゃなくて、普通にソフィアとお呼びください。言葉も敬語ではなく、崩して話してほしいです」


「え、えぇ……」


 それはいいのか? いや、本来ならば確実にアウトなんだが。


 でもそうしてくれと言われてるのに頑なに断るのもどうなんだろう……


(うぅ……複雑な感じだ……)


「いやぁ、それにしても本当に良かった。もしソフィアが死んでしまっていたら、お父さんショックで死んじゃうところだったよ」


「は、恥ずかしいからそういうことを公の場で言わないでください……!」


 顔をぽっと赤く染めるソフィア。

 でもさっきの本当にびっくりしたな。

 

 だって扉を開けた途端に全速力で走って来るんだもん。

 そして流れるように親バカ発揮。


 とてつもないインパクトだった。


「あっ、そういえば一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな。えーっと……ソフィア」


「は、はい。何なりと」


 とりあえずソフィアの要望に添う形を取ることに。

 さっきまでの一連の流れを見ると、王女様扱いを嫌っているような感じだったからな。


 忠告されれば戻せばいいし。一応はこのスタンスで行くことにする。


 で、俺は今までずっと抱いていたある疑問をソフィアに投げかけた。


「ずっと思ってたんだけど、なんでソフィアは冒険者になりたいと?」


 これが俺の抱いていた疑問だった。

 普通、一国の姫君が冒険者をやるなんてことはよほどの理由がない限りはあり得ないこと。


 ましては冒険者なんて常に死と隣り合わせの職業。


 どう考えても謎だった。


「え、えっと……それは……民をよく知るためと言いますか……」


「民をよく知るため……?」


「は、はい。実は……」


 ソフィアは少々言葉を詰まらせながらも、理由を話し始めた。


 ……

 ……



「なるほど、要は一国の王女として民の暮らしや職業を自分の目で確かめたかったと?」


「大雑把に言えばそうなります。恥ずかしながらわたしはこの城で籠るように育ちました。なのでこの民のことをあまりよく存じていません」


「だから冒険者に?」


「はい。冒険者という職業は社会勉強をするのに色々なことを学べる職とお聞きしましたので……」


 ソフィアの理由は至って単純なことだった。

 彼女は後々この国を背負う身としてふさわしい王女の姿とは何かを考えていたらしい。


 で、王女としてこの国のことをよく知るために冒険者になったとのこと。

 もちろん、身元は隠しながら。


「私は強く反対したのだがな。どうも頑なに冒険者になるって聞かなかったのだ」


 うん、多分それは貴方のせいだと思います。

 

 さっきの一連の行動を思い出せば、納得がいかなくもない。

 国王の親バカっぷりを見る限り、ソフィアはよほど大切に育てられてきたんだろうなと思った。


 ソフィアの言葉を聞く限り、あまり外出とかもしてなかったんだと思う。


 そりゃ当然、世間知らずの箱入リ娘になる。


 まだ彼女(ソフィア)自身が自覚しているだけいいけど……。


「その上、アルバートを護衛につけるという条件も拒んでな。仕方なく了承したってわけだ。だが、今回のA級危険指定の出現もあって……」


 身の安全を確保するために王女を引き戻しに来たってことか。

 

 ってことは俺はあの時、とんでもない場面に遭遇してたってことか。


 もしソフィアを救えていなかったら、国自体が揺らぐことになっていた。

 

 今更だが、過去の俺にナイスと一言心の中で言う。


「だから本当にランス殿には感謝の言葉しかない。娘を救ってくれた上に魔物の討伐で都にいる民まで救ってくれたのだ。本来ならば勲章の一つや二つ差し上げたいところなのだが、色々あってできぬだ。すまないな……」


「いえ、お気持ちだけで結構ですよ。勲章だなんてそんなたいそうなもの……」


 貰ったら後々面倒なことになりそう。

 確かに名誉なことだが、その代償として色々な波紋を呼び込むことは目に見えている。


「でも、これからソフィアはどうするつもりなんだ? 冒険者を続けるのか?」


 という疑問を。

 するとソフィアはコクリと頷いた。


「一応、冒険者は続けたいと思っています。まだなってからほんの数日しか経っていませんが、物凄く楽しかったんです。今まで外の世界に出なかったことを深く後悔したほどに。ですが……」


「あの一件で少し不安になってきた……と?」


「……はい」


 ソフィアは力なく首を縦に振る。

 フォルト国王も俺たちの会話に続いて、


「ソフィアよ。お前の気持ちはよく分かるが、あまり父さんを心配させないでくれ。また同じような目に遭ったら今度は助かるか分からないのだぞ」


「はい……」


 しゅんと顔を下に向け、俯くソフィア。

 

 なんか彼女が気の毒になってきた。

 せっかく今までの自分を変えようと必死になっているのに……。


 せめて何か彼女にプラスになることをしてあげたい。

 そう思い、考えていた時だ。


 俺は一つ、良い案を思い出した。


「あ、あの……陛下」


「ん、どうかしたのだランス殿よ」


「え、えーっと……もしですよ? もし陛下がお許しをくださるのであれば、自分がソフィアに冒険者について教えてあげたいと思うのですが、いかがでしょうか?」


 結構このことを言うのには勇気があった。

 

 でもなぜだろう。

 

 自分のこうしたいという意志が不安を砕いたっていうか、臆することなく言うことができた。


 で、国王の反応はというと、


「ほ、本当によろしいのか? ランス殿!」


「はい。もしソフィアさえよければ……」


 そう言いながら、視線をソフィアへと合わせる

 しかしソフィアは首を横に振ると、


「さ、流石にそれはできません! これ以上、ランスさんにご迷惑をおかけするわけには……」


 と、拒まれてしまった。

 だが俺はすぐにそれを否定した。


「別に迷惑だなんて思ってないよ。俺がこういうのは俺がそうしたいと思ったからだ。ソフィアはしっかり先のことを見据えて自分を変えようとしている。俺もつい最近まで同じような経験をしていたから、余計気持ちが分かるんだ。これでも俺は3年くらい冒険者をやっているから教えられることも多いだろうし」


「ら、ランスさん……」


 俺も一年前の査定日に自分に誓ったことがあった。

 それは絶対にGランク冒険者から抜け出してやるという誓いだ。


 だから一年間、努力に努力を重ねた。


 まぁ、結果は伴わなかったけど……。


 なので俺はこうして同じように頑張ろうとしている人には凄く共感できる。

 

 今後のために何か行動(アクション)を起こしたい。

 自分を変えたい。


 目的は違えど努力するという姿勢は同じなんだ。


 だから……

 

「迷惑だなんて思ってない。それに、俺もちょうど冒険者仲間が欲しかったところなんだ。ずっとボッチ道を極めてたから」


 あたかも冗談のように笑いながら言うが、実際は事実そのもの。

 後者は冒険者としての俺の本音でもあった。


「ほ、本当に……よろしいですか? お荷物になったりしませんか?」


「大丈夫だ。だからあまり深く考えないでほしい」


「……あ、ありがとうございます! ランスさん!」


 目に大粒の涙を浮かべながら、笑みを浮かべるソフィア。

 だがその隣では……


「う、うぅぅぅぅ……! なんとお優しい方なのだろうか。このフォルト=ミラ・グリーズ、43歳。そなたの懇篤に感激いたした!」


「あ、あの……」


 豪快な男泣き。

 そこまでかってくらい感謝される。


「う、うぅ……良かったな、ソフィア!」


「はい! お父様!」


「お主たちも彼の提案に異論はないな?」


 と、ここで他の要人たちにも許可を。

 皆、一斉にうんうんと頷くと、


「もちろんです、陛下。それがソフィア王女殿下のお望みとあらば、私は賛成ですぞ」


「私も異論はありません。何せあのイェーガーウルフを倒した御人です。姫様の御傍に置くのに否定する余地はございません」


 他の人も次々と俺の提案を認めてくれた。


「満場一致だな。ではランス殿、我が娘を頼めるだろうか?」


「はい。お任せください、陛下」


「本当に感謝する、ランス殿! それと、何かあれば遠慮なくこの私に言ってほしい。私にできることであれば何でも聞こう。国をあげて支援させてもらう」


「あ、はい……ありがとうございます」


(国を挙げてって……)


 かくして、今日この日。

 俺はグリーズ王国第一王女、ソフィア=フォン・グリーズに冒険者のことについて教えるべく、これから共に行動することになったのであった。


 国王陛下という最強の相談役も添えて。

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