68.ランスを元気にしよう計画2
「い、イリアさん……聞いていたんですか!?」
「内容はまったく聞いてないわ。面白そうなことが起こる気がするという直感がわたしをここまで導いたのよ」
「す、すごいですね……それ」
超人の域を超えているイリアの察知能力。
しかしそれは紛れもない事実であり、イリアが二人がしていた会話に関しては全く認知していなかった。
「……で、何の話をしていたの?」
イリアが二人に聞くと、
「実はですね……」
ソフィアよりも先に口を開いたのはアリシアだった。
アリシアは簡単に事情をイリアに説明すると、理解したように首を何回も縦に振った。
「ふむふむ、なるほどね。疲れ切ったランスを癒して元気にしてあげたいと」
「はい。でもどうすればいいのか分からなくてアリシアに相談していたところだったんです」
「了解、事情は分かったわ。でもそんなに悩むことなのそれ」
「えっ……」
「イリア様にはランス様を元気にさせるための術があるのですか?」
「もちろん。別にこれはランスに限ったことじゃないけど、大抵の男はこれで元気になるわ!」
自信満々に胸を張るイリア。
その自信に満ちた表情はどこかズレている気がするが、素直なソフィアはすぐに食いついた。
「ほ、本当ですか!? イリアさん! もしよろしければ、ぜひ教えていただきたのですが……」
「ふふっ、いいわよ。特別に教えてあげる」
イリアはソフィアが食いつくことを予見していたのか、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
アリシアもその術が気になるのか、イリアの方に視線を向けると、
「ところでイリア様。その内容とは如何なるもので?」
質問を飛ばす。
するとその質問を待ってましたと言わんばかりに腰に手を当てると、
「ふふふっ、それはですね……」
普段の饒舌っぷりを発揮するが如く。
その内容を事細かに語り始めた。
♦
それから少し時間が経ったその日の夜。
二人の少女はランスの部屋の前で静かに息を潜めていた。
「い、イリアさん。ほ、本当にこれで行くんですか?」
「もちろん。今の疲労やその他諸々が溜まっているランスを癒すにはこれが一番よ」
「で、でもぉ……」
廊下にいるのは大きめのバスタオルを巻いた二人の美少女。
その中はランジェリーだけを纏ったセクシースタイル。
いわゆる下着姿のみの恰好だった。
「どうしたのよソフィア。今更怖気づいたの?」
「そ、そういうわけじゃ……」
「ならどうしてそんな顔になるのよ。アリシアさんにも許可貰ったじゃない」
「そ、そういう問題じゃなくて……その、常識的にこの恰好は拙いというか」
「何がマズいのよ? この恰好こそ殿方の精気を上げる手っ取り早い方法なのよ?」
「そ、そうであっても流石に恥ずかしいですよぉ……」
モジモジと股を動かすソフィアにイリアは「はぁ」とまた一つ、溜息をつくと。
「ねぇ、ソフィア……いえ、ソフィア殿下」
「は、はい?」
「これは試練なのです」
「し、試練……?」
「ええ。本当にランスのことを大切に想っているのなら、これくらいはやり遂げなければいけません。今回の試練はより自分がもっと先へ進めるか否かの試練なのですよ」
「そ、そういう……ものなのですか?」
「そういうものなのです」
もちろんそんなはずがあるわけない。
単純にイリアの悪ふざけである。
でも逆にこれはイリアが少しでもランスに近づけるようにという遠回しの応援でもあった。
何せ、ソフィアがランスに好意を持っているのは周知の事実(本人たちを除いて)。
だがピュアなソフィアの心にはこのイリアの言葉が強く刺さってしまい、真に受けてしまうことは絶対不可避だった。
「……分かりました。ならば仕方ありません。この試練、必ず乗り越えてみせます!」
「その意気よソフィア! じゃ、早速始めるわよ」
「は、はい!」
まんまと乗せられてしまったソフィア。
二人は半裸の姿でランスの部屋の扉を開けると、音を立てぬよう静かに中へと入っていくのだった。