57.ご同行願います
新年、あけましておめでとうございます。
今年も宜しくお願い致します。
「ドロイドギルドマスター!? なんでここに!?」
しかもなぜ冒険者の中に混じっていたのか……
見事に溶け込んでいたみたいだが。
「実は私もついさっきドラゴン出現の噂を耳にしましてね。ギルド内があたふたしていた時に彼女たちが来たんです」
そうか、ちょうどタイムリーだった時にソフィアたちが来たわけだな。
「それで彼女たちから話を聞くと、ランスくんが戦っているということでこうしちゃいられないとここまで参上した次第です」
「……え? 何故そこでそういう結論に?」
そもそもギルマスがこんなところにいること自体おかしい。
名は通っていても、本来ならあまりお目にかかれない人物だからな。
ドロイドは「ふふふ」と控えな笑みを見せ、答えた。
「一言でいえば、私は君に興味を持っているから……ですかね。あのイェーガーウルフを一撃で倒した君がドラゴン相手にどこまでやるのか、非常に気になっていたのですが……」
ドロイドは視線をドラゴンの亡骸に向け、少し残念そうに肩を落とす。
「どうやら、もう終わったしまったようで……一目でいいからランスくんの戦っているところを拝見したかったのですが……」
「な、なんかすみません……」
「いえ、謝らないでくださいランスくん。むしろギルドからすればこれほど嬉しいニュースはありませんよ。ドラゴン相手に一件も被害を出さず、討伐まで成し遂げていただいたのですから。見たかったというのはあくまで私の個人的な願望ですので」
こんなことをギルドマスターから直々に言われるなんて、相当名誉なことなのだろう。
でもわざわざ援軍を引っ張ってきてもらって、この結末は申し訳なく思う。
王都まで行ってくれたソフィアたちやここまで駆けつけてきてくれた冒険者の人も、流石にこの状況は予想できなかっただろう。
当の本人である俺ですら驚いているんだから。
「ところでランスくん。このドラゴンはどうやって倒したんですか? 見たところによると、ドラゴンの中でもかなり上位種のように見えますが……」
ドラゴンの外殻に手を触れ、マジマジと屍を見つめるドロイド。
どうやらこの個体はドラゴンの中でも強力な部類に入るようだが、俺は自分が体験したことをそのままドロイドたちに説明をした。
「ふ、普通に魔法で倒しましたよ。最初は牽制魔法で後衛をしていたんですが、最後は一撃だけで――」
「「「「「い、一撃……!?」」」」」
最後まで説明をする前に周りからは驚愕の声があがる。
そこまで驚くことなのだろうか?
でもドロイド含め周りの人たちは半ば信じられないような面持ちをして、俺を見てきた。
「い、一撃って……本当なんですか、ランスくん?」
「え、ええ……まぁ」
「――嘘だろ? ドラゴンを一撃で?」
「――あり得ない。ただでさえ高い魔法耐性を持つというのに……」
「――本当なら、バケモンなんてレベルじゃないぜ……」
再びざわつき始める冒険者たち。
その声の多さでいかに俺が異端な行為をしたか、ようやく感じ取ることができた。
至る所で話し声が飛び交う現場。
その時、ドロイドの前に一人の青年が姿を見せた。
「ランスくんの言っていることは本当ですよ、皆さん。一撃で倒したというのも本当の話です。現に僕はこの目で見ましたからね」
「ほ、本当なのか? 正直、信じられんが……」
「でも実際に僕らが救援を出したからほんの一時間と30分ほどしか経過していない。通常なら、こんな短時間でドラゴン討伐を成し遂げるのは不可能だ。貴方たち討伐経験者なら、ご存じのはず」
「うっ、確かに……」
いざドラゴン討伐をするとなると、普通なら準備期間だけでも相当な時間を有する。
その上で綿密な作戦を練って数人から個体によっては数十人規模のSランク冒険者が何時間もかけて討伐するまでが基本体だ。
にもかかわらず俺は対ドラゴン戦闘用の準備をすることもなく、たった一時間と少しでドラゴンを討伐した。
まぁ、正確に言うならばもっと早い段階からケリがついていたんだが。
しかもその上、俺は冒険者等級最底辺のG級。
傍から見れば夢物語と言われても何ら可笑しくはない。
その点、平然としている俺よりも驚く彼らの方が正常と言えるだろう。
「彼の実力は本物です。ドロイドギルドマスターもそれはご存じなんじゃないですか?」
「もちろんです。それに私は彼の魔法をこの目で見たことがある数少ない人物の一人でもあります。ランスくんの規格外っぷりを知る私の中に疑いはありません」
……ですが、と。ドロイドは付け加える。
「問題なのはここから先の話です。通常、ドラゴンはこんな平地に突如として現れるようなものではありません。それこそ前回のイェーガーウルフ以上に国家的な問題になりかねません」
国家的問題って……そんなに重大なことなのか。
まあドラゴンがこんなところにいるのがおかしいってのは分かるけど。
「なので、リベルさんとランスくんにはこれからギルドまで同行していただきます。ご協力のほど、お願いできますか?」
ドロイドの頼みは平たく言えば事情聴取をしたいとのことだった。
しかも話を聞くと、もう既に専門家と調査隊が動き始めているとのことだ。
「分かりました、同行させていただきます」
「自分も大丈夫です」
別に断る理由はないので、ドロイドについていくことに。
でも何故だろう。なんだかこの一連の事件に只ならぬ不自然さを感じる。
確信的な何かがあるわけではない。あくまで、直感だ。
でも、何となく引っかかるような感覚を得たのも事実。
だから、俺は思うんだ。
これは誰かが仕掛けた罠かなんかじゃないかって。