56.やっちゃったみたいです
今年最後の投稿になります。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
来年度も宜しくお願い申し上げます。
「ランスくん、大丈夫かい!?」
俺のすぐ真後ろから走って来る金髪が眩しい青年。
しかし青年は俺のすぐ横でピタリと止まると、何か強い衝撃でも受けたかのように表情を一変させた。
「こ、これ……ランスくんがやったのかい?」
「え、ええ。どうやらそうみたいです……」
広範囲に渡って更地と化した森。
その中央には黒光りした剛体がぐったりと寝ていた。
どうやらさっきの一撃で決着がついてしまったらしい。
これには流石のリベルもあんぐりと口を開けて、目の前に起こっている現状をじっと見つめるばかりだった。
「こ、これで良かったん……ですよね? なんか倒しちゃったみたいなんですけど」
「う、うん……逆にすごい成果だよ。噂には聞いていたけど、まさかここまでだなんて……」
噂とはイェーガーウルフの件のことだろうか。
「でもこれなら初めからランスくんに戦闘を頼むべきだったね」
「い、いえ! 俺もまさか討伐できるなんて思ってなかったので、正直今めっちゃ驚いてます」
Sランク冒険者のみが討伐を許されているその猛者を俺は倒した。
イェーガーウルフの時はまだ疑心暗鬼だったが、俺の魔法って相当ヤバイ領域にまで至っているのかもしれない。
ドラゴンとは初めて戦ったけど、リベルから情報を聞く限り、そう簡単に倒せるようなモンスターじゃないみたいだし。
「と、とりあえず。みんなが来るまで待とうか」
「そ、そうですね……」
俺は今、凄くいいことをした。
……はずなのだが、微妙な空気が場を支配する。
それから俺たちはドラゴンの亡骸を目の前にしながら、みんなに到着を待った。
そして、ソフィアたち一行が討伐隊を引き連れてやってきたのは、戦闘終了後から一時間が経った時だった。
「え、えーっと……これは?」
討伐隊の先頭に立っていたボルがドラゴンの死体を見上げながら、俺たちに状況説明を求める。
他の者たちも目を丸くして何があった? と言わんばかりの表情を向けてきた。
「全て彼がやってくれたよ」
「彼って……まさか君が?」
「はい……驚きながら」
なんかわざわざ走ってここまで駆けつけてくれた皆さんに対して申し訳なく身を小さくしながら、答えた。
「――ま、マジかよ」
「――ドラゴンをたった一人で?」
「――あ、あり得ん……」
「――あの少年、確かイェーガーウルフを一撃で倒したっていう子だよな?」
討伐隊として連れてこられた冒険者が口々に俺の噂をする。
その会話の内容で、俺が何をしでかしてしまったのか、身に染みて感じることが出来た。
この状況は普通ならあり得ない、とんでもない事態らしい。
……もちろん、実感はまるでないけど。
「ど、どうするか。調査団の人たちは連れてきていないし、ギルドの責任者も――」
「なら、後はこの私に任せてもらえるかな」
手を上げ、討伐隊の集団から出てきたのは灰色のローブ纏った者。
でも何だろう。この声どこかで聞き覚えが……
「あ、あなたは……?」
ボルがローブの人物に問うと、ふふふと小声で笑い声を上げながら、
「よくぞ聞いてくれました。……はっ!」
ローブの人物は掛け声と共に勢いよくその纏ったベールを脱ぎ捨てると、露わになったのは冒険者であれば誰もがよく知る人物だった。
「「「「「ど、ドロイドギルドマスターー!?」」」」」
森に響き渡る驚愕の声。
現れたのは何故か討伐隊の冒険者たちに扮していたギルドマスターことドロイド・レインボルグだった。