33.見られている?
「まさかあの人が貴族だったとは……」
「知らなかったんですか?」
「うん。初耳だった」
屋敷への帰り道。
俺はソフィアと共に王都の繁華街へと寄り道をしていた。
どうせ夜の王都に来たんだからということでの街散策だ。
「でもパーティーか。真に他人と組むのは初めてだな」
「ずっと一人でやってきたって言ってましたもんね」
他人と組むという枠組みだけで考えれば学生以来になる。
前にも言った通り、俺は冒険者になってからずっと一人で何もかもこなしてきた。
組みたくなかったとかじゃなく、組んでくれなかったのだ。
でも初めてのパーティー仲間が全員貴族って……
(幸運なのか、不運なのか……)
平民の俺からすれば息苦しいと言えば息苦しい環境だ。
隣には王族のお姫様、周りには子爵家、男爵家の貴族衆。
通常なら俺みたいな平民が入り込める領域ではない。
(大丈夫だろうか……)
でもさっき会った感じ、三人とも人柄が良さそうな人たちだった。
平民だからといって誇張するような態度を見せたりもしなかったし。
むしろ対等に会話をしてくれていた。
その前に王族とタメで話しておいて今更……と思うかもしれないが、本来ならとんでもないこと。
まだ王国には階級制度が根強く残っているから地方によっては貴族に逆らえば処刑される……なんてこともあるのだ。
「確か明日の朝、ギルド前に集合だったよな?」
「はい。そう言っていましたよ」
一応、今日のところは仮加入ということで話は収まった。
明日、リベルたちのパーティーと俺たちとでクエストを受ける。
そこで加入するかしないかを決めることになった。
ソフィアは賛成してくれていたから、さっきの時点でOKを出しても良かったのだが……
(あまりパーティーに関して良い思い出がないからな……)
少し慎重になってしまった。
それに、俺にはソフィアを守るという責任がある。
だから勧誘されたからといって容易に決めるのは良くないと思ったのだ。
「あ、ランス。あのお店気になります!」
「ん……?」
繁華街を歩いている中、ソフィアが指を指したのは一件の雑貨屋だった。
お洒落な店構えがソフィアの目を引いたのだろう。
ソフィアは興味津々だった。
「入るか?」
「はい!」
俺たちは店内に入る。
すると棚の上に並んでいたのは様々な装飾で彩られた雑貨の数々。
置くだけで映えそうなお洒落な雑貨が所狭しと並べられていた。
「すごい……わたしこういうお店に一度来てみたかったんです!」
「こういうの好きなのか?」
「はい。前にお父様の公務のお手伝いに同行した時に馬車の窓からこういうお店が見えて、一度行ってみたいなって思ってたんです。でもあの時は自由に外にすらも行けなかったので……」
「じゃあ、夢が一つ叶ったってことか」
「はいっ!」
ソフィアはニコニコと嬉しそうに店内をめぐる。
まるで小さな子供のようにはしゃぐ彼女の姿を見ていると、ほっこりする。
でも同時に今まで本当に外の世界を見ることができなかったんだなとも思った。
(あの時の俺の判断は良かったのかな……)
少し悩んでいたこと。
それはあの時、勢いでソフィアに冒険者というものを教えると言ってしまったことだ。
あれから俺含め、ソフィアの生活もガラリと変わった。
今まで王城の中での世界しか知らなかった人を外の世界に誘ったのだ。
果たして、あの行為はソフィアにとって良かったのかと考えていた。
外の世界は不条理でいっぱいだ。
時には知りたくないことも知ることになる。
それがソフィアにとって吉とでるか、凶と出るかすごく悩んでいたけど……
「良かったのかもな……」
あの笑顔を見ているとそう思えてくる。
そして同時にこの笑顔を守っていきたい、もっと外の世界のいいところを知ってもらいたいと思った。
「ランス、ランス! これすっごく綺麗ですよ!」
「ん、このネックレスか?」
「はい。この結晶部分に希少鉱石が用いられているみたいです」
ソフィアが見ていたのは純白のネックレスだった。
確かにキラキラと光沢を帯びており、周りのアクセサリーとは少し違った。
「でも王族衣装とかでこういうの身に着けるんじゃないのか? ドレスを着る時とか」
「あれは国が管理しているもので、わたしのものじゃないんです。知らないとそう思われがちなのですが……」
「そうなのか……」
ならドレスとかも自分のじゃなくて借り物なのだろうか?
まだまだ俺の知らない王族事情がありそうだ。
「そろそろ帰りましょうか。これ以上、遅くなるとアリシアが心配しますので」
「そうだな。帰ろう」
そうして俺たちは店を出て、真っ直ぐ屋敷へと戻ることに。
だが店を出て数分経った時だ。
(ん、なんだ。誰かに見られている……?)
感じる何者かからの視線。
でも周りを見ても俺たちを執拗に見てくるような輩の姿はない。
「おかしいな……確かに感じるんだが」
「ランス? どうしました?」
「……」
「ランス?」
「ん、ああ悪い。少し気になることがあってな」
「気になること?」
「うん。どうやら、誰かに見られているみたいなんだ」
「見られている……?」
一応ソフィアと二人きりの時は万が一のための警戒網を敷いている。
で、今その警戒網に引っかかった者がいる。
視線も感じるし、誰かに見られているのは間違いないはずだが……
(少し試してみるか……)
「悪い、ソフィア。少し寄り道させてもらうぞ」
「えっ、ちょっとランス!?」
いきなりの俺の行動に驚くソフィア。
俺はそんなソフィアの手を引っ張ると、とある場所まで足を動かすのだった。