31.パーティー加入!?
「すまないね、ランスくん。常連だからここが会員制だってことをすっかり忘れていたよ」
「いえ、俺たちも下調べもしないで訪問してしまったんで仕方ないですよ」
ということでリベルの口利きで会員証なしで中に入ることができました。
ウエイターの人もリベルのことを様付けで呼んでいたし、よほどこの店の常連なのだろう。
一言いうだけで中に入る許可が取れた。
「それで……お隣にいるのがあの時の?」
「あ、はい! 初めまして、ソフィアと申します。リベルさんには色々とお世話になってしまったみたいで……」
「たまたま分解薬を持っていただけだから、気にしないでくれ。よろしく、ソフィアさん」
「宜しくお願いします!」
簡単に自己紹介を済ませると、リベルは俺の方を向き、
「じゃあ、これから僕の仲間のいるところまで案内するよ」
「お願いします」
そんなわけで俺たちはリベルのパーティーメンバーがいる席まで案内されることとなった。
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「みんな、新しいメンバー候補を連れてきた」
「おお、君が例の……」
「イェーガーウルフを一人で倒したという冒険者だね」
「初めまして、ランス・ベルグランドです」
「ソフィアです。宜しくお願い致します」
案内された席は入り口奥のバーカウンターのさらに奥へ行ったとある一室。
完全個室で何か豪華なソファが置いてあってもう如何にもVIPが使いそうなところだった。
で、案内されたところにいたのは二人の人物。
一人は筋肉質でガタイの良い男でもう一人はすらっとしてスタイルの良い黒髪美女だった。
「紹介するよ。彼らは僕のパーティメンバーでボルとルナだ。職業はボルが盾師、ルナが付与兼治癒術師をしている」
「ボル・イージスレイヴンだ。きみの活躍は色々な方面から聞いている。よろしくな」
「ルナ・セインフォートよ。よろしくね」
二人は立ち上がると、それぞれ挨拶を。
二人ともリベルに劣らず美形でボルさんはまさに漢の中の漢と言った風貌。
対してルナさんは絶対モテるだろうなってくらいの美女だった。
「さて、お互い自己紹介も済んだことだし、本題に入ろう。適当に腰をかけてくれ」
リベルの誘いで俺たちはふっかふかのソファに腰をかける。
そして内容は前置きを挟みつつ本題へ。
「二人とも、今日は来てくれてありがとう。歓迎するよ。飲み物とか食べ物とか好きに頼んでくれ。御代は全部僕が持つよ」
「ど、どうも……」
すげぇ……ってことは食べ放題、飲み放題ってことか?
ならじゃんじゃん頼もう! っていうわけには流石にいかないので、飲み物だけにしておくことに。
「まずは僕がきみたちを誘ったのは他でもない。単純にきみたちに興味を持ったからだ」
「ん、ちょっと待ってくださいリベルさん」
「なんだい?」
「そのきみたちってソフィアも入っているってことですか?」
「もちろん。確かにあの時はランスくん一人を勧誘したけど、本当は二人に興味を持っていたんだ。なぜ、一介の冒険者が一国のお姫様と親し気なのか……冒険者をやっているのかってね」
「……ッ!?」
リベルの一言に俺が驚愕した。
何とソフィアの正体がバレていたのだ。
もちろん、あの時もローブを着ていたから素顔はよく見えなかったはずなのに……
「ご、ご存じだったんですか……?」
「もちろんです、殿下。これでも自分は子爵家の息子なので」
「し、子爵家? ってことはリベルさんって貴族だったんですか!?」
「まぁね。あまり周りには言ってないんだけど」
これまた驚きだ。
まさかソフィア以外の冒険者の中にも上流階級の人がいたなんて。
普通、貴族も冒険者なんかやらないからな。
だが話はこれだけではなかった。
「あ、ちなみにこっちの二人も貴族家の出身だぞ。ボルは僕と同じ子爵家の次男、ルナは男爵家の三女だ」
「え……? ま、マジですか……」
なんだ、この貴族パーティーは……
それに俺とソフィアがもし加入したら王族、貴族、平民が一挙に揃った混合パーティーが出来上がってしまうではないか。
そうなったら確実に俺の居場所が……
「ま、爵位なんてお飾りみたいなものだ。平民だからと言って畏まる必要はない。僕のことも”リベル”と気兼ねなく読んで欲しい」
「は、はい……」
なんかとんでもないパーティーに目をつけられてしまった。
てか最近の出来事を並べてみると、とんでもないことが連続しまくっている。
もしかして、死が近いのか?
(こ、怖くなってきた……)
「で、どうかな? ここに来たってことは何らかの興味を持ってくれたってことだよね?」
「あ、はい。実は――」
俺は今日ここに来た理由を大まかに説明した。
パーティーでしか学べないことを学びたいということ。
俺含め、ソフィアの成長をパーティーを通して促したいということ。
その他諸々だ。
それを聞いたリベルはうんうんと首を縦に振った。
「なるほど、そういうことだったのか」
「俺たちは自分含め、パーティーでの経験が浅い。パーティーを組んで初めて学べることもあるし、俺自身もずっと学んでみたいと思っていました。俺の場合、等級的問題もありましたから……」
「G級という壁か。確かにそれだけで評価してしまえば、誰も自分のパーティーに入れようとは思わないね」
「はい……」
辛く悲しい過去だ。
でも仕方なかった。
一種の等級社会である冒険者が個人個人を迅速に評価するにはその人物のランクを見るのが手っ取り早いからな。
それに低等級の冒険者を入れると自分のパーティーの格やイメージが下がることだってある。
だから低等級の冒険者は必然的に排除、または同等級の冒険者と徒党を組む。
実力が伴わないランクにいても目に見える数値が低ければ意味がない。
冒険者ってのは世知辛い世界なのだ。
「でも、僕はそんなもので人を評価するつもりはないよ」
「え……?」
「実力があれば評価する。パーティーのイメージが下がろうが、周りから何と言われようがそんなことは気にしないさ。だからあまり気にしないでほしい」
「リベル……さん」
こんなことを言ってくれた人は初めてだ。
今までは議論をすることもなく、排除され続けてきた。
でもこの人は違った。
相手がどうであれ耳を傾けようとしてくれている。
そうそう出会えるような人じゃない。
「どうだろう? もちろん、普段からずっと活動しているわけじゃない。一応僕らも身分上、他にやることもあるからね。あ、もちろんソフィア殿下のことは公にはしない。何かワケありみたいだからね」
「え、えっと……」
どうする? こうして面と向かって話した限り、悪い人たちではない。
それにソフィアのことも配慮してくれそうだ。
ソフィア自身も変な気を遣わなくてよくなるし……
(ここまで良い環境なパーティーに入れることは二度とないかもしれないし……)
でもやはり過去の経験上や現状を踏まえて考えると、悩んで一歩踏み出せずにいた。
するとここでリベルが口を開いた。
「あ、そうだ。ならお試しで加入するってのはどうかな?」
「お試し?」
「そう。一度みんなでクエストを受けて実際にパーティーでの活動を一日してみるんだ。そこで加入するか否か判断するってことさ」
なるほど。それならよく考えた上での判断ができそうだ。
失礼な話だが、自分たちが彼のパーティーに合致するとは限らないからな。
「分かりました。ではその方向でお願いします。ソフィアもそれでいいか?」
「ランスがそう決めたのならわたしはついていくだけですよ」
「よし、じゃあ決まりだね! 改めて宜しく、ランスくん、ソフィア殿下!」
お互いに握手を交わし、同意する。
と、いうことで俺たちはリベル率いる貴族パーティーに仮加入することになりました。