26.提案されました、そして返答もしました。
「そ、測定不能……?」
「ええ。貴方の魔力は魔道具の許容範囲を超えたのです。よって正確な適正をはかることができず、G判定となった。あの魔道具は許容範囲の魔力数値を越えると、自動的にG判定になるようにプログラムされていたのです」
「ってことは、俺がG判定になるのは……」
「貴方の持つ魔力があまりにも膨大すぎて測定ができない、ということです」
「そ、そんなことが……」
にわかにも信じがたいことだ。
測れないほど膨大な魔力を俺が持っているなんて。
「信じられません。まさか自分が……」
「私たちも驚きましたよ。ですが、それしか考えられません。現に貴方の実力は人の枠組みから大きく逸脱している。もはやもう周りの冒険者とは次元が違うのです」
「お、大袈裟ですよ。流石にそれは……」
「いえ、私は本気で言っています。これでも私も昔はそれなりに大きな功績を上げた冒険者の一人。貴方が別格だということくらいは分かります。こうして面をあわせているだけでもヒシヒシと感じてくるのです。貴方の持つ異次元の魔力を……」
「い、異次元……」
でもドロイドさんはふざけて言っているようではなかった。
むしろ真剣さが極まっており、言葉を綴るにつれて表情が険しくなっていっている。
(本当に、俺が……)
「最も、その様子では自覚はないと言った感じでしょうか?」
「す、すみません……」
「いえいえ、謝るようなことではありませんよ。むしろ我々ギルドとしては嬉しいことです。我々が求める冒険者像は強く、逞しいことが究極のテーマなのですから」
「は、はぁ……」
しかしながらここまで言われてしまうと、どう返答すればいいのやら。
今までの扱いとの高低差が激しすぎてどうも返答に困ってしまう。
「それで、ここから本題なのですが……」
前置きはこれくらいで。
ドロイドさんはいよいよ本題へと入る。
「ランスくん、もしきみさえ良ければSランクの席を与えても私は構わないと思っています。もちろん、私の認可なので検査は全てはパスでね」
「え、Sランク!? 俺がですか!?」
何が出てくるかと思いきやまさかのSランク冒険者への昇格の話。
なんてことだ。こりゃえらいことに……
「お、俺が……Sランク?」
「はははっ、信じられないですか?」
「し、信じられないというか……」
自分にとっては雲の上の存在だったSランクへの道。
だが今、俺はその門を潜れるかもしれないというチャンスが訪れた。
(夢か……これは夢なのか?)
「どうですか? ランスくんさえ良ければ私の方からギルド会議にかけますが……」
「ギルド会議?」
「大陸中のギルド関係者が集まって議論をするんです。一応Sランク冒険者への昇格となると国家的な問題まで絡んできますからね」
「こ、国家的問題……ですか」
というのも大陸で任命されているSランク冒険者なんてほんの数百人ほどしかいない。
ちなみに大陸では数億人もの冒険者がいると言われている。
その数億人分の数百というとんでもない比率の中の一人に加わるのだから当然といえば当然の話だ。
「そのギルド会議で認可が下りれば俺はSランク冒険者になれるんですか?」
「ええ、もちろん」
マジですか……
嘘のような話だけどこれは本当。
もし俺がここで「はい」と返事すれば、俺の名は大陸中のギルド関係者に知れ渡り、議論にかけられることになる。
そして認可が下りれば晴れて最強の冒険者の仲間入りだ。
「それで、どうしますか?」
どうしますかと言われても……
(すぐには返答できない)
ほんの二日前の俺だったら迷わず即答していただろう。
でも今はソフィアのことがある。
もしSランク冒険者になって変に日の目を浴びたら、彼女の迷惑になってしまうかもしれない。
Sランクになると冒険者の間ではとてつもない権力を持つことになるが、それ故に色々な人間が近寄って後を断たないと聞いたことがある。
だからSランク冒険者と呼ばれる者は滅多に人前に姿を見せず、ひっそりと冒険者業をやっているという噂もある。
もしそうなったら俺はソフィアを息苦しい世界へと誘うことになる。
それだけは避けたい。
それに……どうせなら自分の実力でSランクに上り詰めたいしな。
そうでないと、俺の今までの努力があっけないものになってしまう。
正直、権力で成り上がるのは好みじゃないし。
「あ、あの……ドロイドさん。お話は嬉しいのですが、お断りさせていただきます」
「そ、そうですか……」
「はい。すみません、わざわざ忙しい中時間を取っていただいたのに……」
「いえ。呼び出したのは私の方ですから。気が変わったらまた一報ください。万が一のためにSランクの枠は空けておきますので」
「ありがとうございます、ドロイドさん」
「それと、クエストの制限は受付の方で名前を伝えればこれまで通り通しておくように手配しますので」
「すみません、特例を作ってしまったようで……」
「お気になさらず。元々は我々の不手際が招いたことです。そのせいで3年もの長い期間、ランスくんにご迷惑をおかけしてしまったのですから」
「め、迷惑だなんてそんな……」
前までは何故自分だけこんな惨めな想いをしないといけないのかと思う時もあった。
でも今ではそんな想いは枯れ果て、逆に次こそはという想いが生まれた。
次の査定では必ず結果を出すと。
……こうして、俺はSランクへの道を蹴る決断をした。
多分、このことを他の冒険者に知られたらとんでもないほどのヤジが飛んでくることだろう。
でも正直、今の俺は自分の身に幸福が降りかかり過ぎて疑心暗鬼になっている。
いいことが起こり過ぎて、その内バチが当たるのではないかと。
根拠のない不安を抱えながら。
「それでは、ドロイドさん。俺はこの辺で失礼します。また何かあればよろしくお願いします」
「こちらこそ、これからもお付き合いのほどよろしくお願いしますね」
俺は本部前でドロイドさんに一礼すると、そのまま真っ直ぐ屋敷へと戻るのであった。