24.呼び出しをくらいました。
次の日の早朝。
俺はある場所へと出かけるべく、準備をしていた。
「あぁ~眠いなぁ~」
気の抜けた声を出しながら洗面室へ。
洗顔して濡れた顔をタオルで吹き取り、寝間着を脱ぐ。
そして防具などを一式着て冒険者スタイルに。
「でもまさか呼び出しをくらうなんて……俺なんかしたっけかな」
昨日の夜。
俺はアリシアさんから俺宛ての手紙を受け取った。
差出人はドロイドギルドマスター。
内容は今日の早朝にギルドまで来てほしいとの通達だった。
特に長ったらしい文章はなく、ただその一言だけ。
余計な文章はなく、端的な内容だった。
(いきなり来いと言われてもなぁ……)
せめて簡単な理由くらいは書いてほしかった。
おかげさまで昨日の夜から不安で眠れなかった。
何かしたんじゃないかって思って。
「はぁ……不安だなぁ……」
そう思いながら玄関先へ。
すると、
「あっ、ランス。お出かけですか?」
「あ、おはようソフィア」
「おはようございます。あの……昨日はご迷惑をおかけしたみたいで本当にごめんなさい」
頭を下げ、真っ先に謝ってきたのは昨日での出来事だった。
「気にするな。それよりも頭とか身体に痛みはないか?」
「い、いえ……それは大丈夫です」
どうやら例のイケメンから貰った薬が効いたみたいだ。
一応帰りに少量だけ飲ませてみたが、何とか二日酔いは回避できた様子。
だが本人曰く、昨日の記憶が全くないとのことで……
「あ、あの……ランス。わたし、昨日何か変なことをしませんでしたか?」
「変なこと?」
「は、はい……」
「いや、別に何もなかったが、なんでそう思うんだ?」
「な、何となくそんな気がして……」
まぁ変なことではなく、荒ぶってはいたけどね。
流石に本人に言わないが。
当の本人は自覚なしみたいだからな。
でも……
「ソフィア。一つだけいいか?」
「は、はい。何でしょうか?」
「その……お酒は程々にな。飲み過ぎは厳禁だぞ」
ソフィアに伝えるべきこと。
それはお酒を飲むなということではなく、抑制してもらうことだ。
実際、昨日の出来事の原因は飲み過ぎによるもの。
抑制さえしてくれれば、別に構わない。
アリシアさんも適度に飲むくらいなら大丈夫だって言ってたし。
だがソフィアは今の言葉で何かを察したようで、
「や、やっぱりわたし何か……」
したのかと言わんばかりに表情を曇らせる。
「大丈夫だ。ソフィアは何もしていない。気にし過ぎだよ」
「そ、そうでしょうか……?」
多分、記憶の片隅に昨日の出来事がうっすらとあるのだろう。
俗に言うあれだ。
我に返った時にあまりの恥ずかしさに悶絶するやつ。
だから俺としては思い出してほしくない。
時には思い出さなくていいこともあるのだ。
「わ、悪いソフィア。俺そろそろ行かないと」
「あ、はい。すみません、呼び止めてしまって。ところでどちらに行かれるのですか?」
「ちょっと王都にな。昼までには帰って来る予定だ」
「分かりました。お気をつけて」
「ありがとう。んじゃ、行ってくるわ」
そういうと俺は玄関を飛び出し、王都へと向かった。
だがその後の事。
ランスを見送った後、ソフィアは深く溜息を漏らしながら、
「はぁ……でもなんか引っかかることがあるんですよね。なんかこう……物凄く恥ずかしいことをしてしまったような……」
頭の隅にある確かな記憶。
かなり不透明だが、彼女にとってはこびりついて離れなかった。
「気のせい……ですかね」
いくら思い出そうとも中々出てこない。
ソフィアは振り返ると、
「考えても仕方ないですね。それよりも復習の続きをしなくては!」
よりランスに貢献できるように、彼に近づけるように。
まだまだ発展途上の少女はそんな想いを抱きながらも、自室へ戻って勉学に励むのであった。
♦
そんな中、ランスはというと……
「えーっと、確か受付のお姉さんに名前を言えば通してくれるんだったな」
早朝のギルド本部に足を運んでいた。
手紙によれば受付で自分の名前を言うとある場所まで案内されるとのこと。
俺はすぐに受付へと向かった。
「すみません。ギルドマスターのドロイドさんにここへ来るように呼ばれたものですが……」
「お名前をお教え願えますか?」
「ランス・ベルグランドです」
そういうと受付のお姉さんは何やらデッカイ名簿を取り出すと、何かを調べ始めた。
そして一度席を立ち、もう一人の受付嬢の方へ行くと、
「ランス様ですね? マスタールームにてギルドマスターがお待ちです。ご案内させていただきます」
もう一人の受付のお姉さんが案内してくれることに。
(てかギルマスの部屋ってマスタールームっていうんだ……)
そんなことを思いながらも、受付のお姉さんの案内の元、本部の上の階層へ。
普段、本部の上の階層は認可を受けたものしか入れないことになっている。
冒険者たちが使えるフロアは主に下階層でそれより上は許可が必要なのだ。
で、俺が今から行こうとしているのは本部の最上階に位置するマスタールーム。
受付のお姉さん曰く、関係者でも滅多に入れない場所らしい。
「……こちらになります」
「こ、ここが……」
エレベーターを降りると、目の前に現れたのは豪勢な装飾が施された大扉。
もう扉だけで、VIP感が漂ってくる。
「中でギルドマスターがお待ちになっております。ご準備はよろしいですか?」
「は、はい……大丈夫です」
そういうと受付のお姉さんは扉を三回ノックし、
「マスタードロイド、ランス・ベルグランド様がお見えになりました」
『……入れて構わないですよ』
部屋の中から声が。
どうやら入室の許可は取れたようで……
「失礼いたします」
受付のお姉さんはそっと扉を開扉。
半分くらい開けたところで一旦止めると、俺に中へ入るよう頭を下げて、指示をしてくる。
「し、失礼します!」
少し緊張しながら豪勢な扉を潜って部屋の中へ。
すると、内部は全面ガラス張りで360°王都の絶景が見える仕様になっていた。
(な、なんだこりゃ……)
まさに圧倒的。
まるで別世界にいるかのような空間に思わず息を飲む。
そして、この空間の一番最奥にあるチェアには背中を向け、座る人物が。
その人物はゆっくりと立ち上がると、俺の方へと視線を向けてきた。
「一昨日ぶりですね、ランスくん」