23.不思議な一片を見ました。
「ランス様、ソフィア様、お帰りなさいませ」
「た、ただいま。アリシアさん……」
ということで屋敷に戻ってきました。
屋敷に戻ると、玄関まで出迎えくれたのはメイド長のアリシアさんだった。
「その様子を見ると、ソフィア様がご迷惑をおかけしたようで……」
「だ、大丈夫です。これくらい……」
あの後、俺はソフィアはどう連れて帰るかを考えていた。
で、結局のところおんぶして帰るしかないという結論に至り、屋敷までおぶってきたというわけ。
(ソフィアが寝てくれていて助かった……)
もう色々とおかしくなりそうだったからな。
女の子をおんぶした経験なんてあるわけないから、色々と気を遣ったし……。
「お酒を飲まれていたんですか?」
「はい……酒場で。自分はまだ未成年なんで飲んでいないですが」
そう聞くとアリシアさんは「やっぱり……」と言わんばかりに顔を歪めた。
「そうでしたか。暴れたりしませんでしたか?」
「い、いえ……ただ、いつものソフィアとはかけ離れすぎていて驚きはしましたけど」
最初は別人と話しているかのような感覚だった。
でも俺の身近でも酒で変貌する人がいたからまだ受け入れることができたから良かったけど……
「でもまさかあそこまで人が変わるなんて思ってもいませんでしたよ」
「他の方もそうおっしゃいます。前の成人の儀でも酒癖の悪さからフォルト陛下に止められていましたから」
「ソフィアもそう言ってました。国王陛下が止めた理由がよく分かりましたよ」
ホント、これからは気をつけないと。
ソフィアにも後で酒は程々にって強く言っておかないと。
「それで、ランス様。どうでしたか、お酒を飲まれたソフィア様は?」
「ど、どうでしたか……とは?」
「いつも見ないソフィア様の一面を見てのことです。可愛くなかったですか?」
「ま、まぁ確かにいつもは礼儀正しい感じなんで新鮮だったというか――」
「で、ですよね! 滅茶苦茶可愛いですよね! この前もお酒に酔った殿下をずっと観察していたいと思っていたのに余計な仲介役が入ったせいで……はぁ、ランス様が羨ましいです」
「……えっ?」
突然声を張り上げるアリシアさん。
それはもういつものような冷静沈着な姿はなく、いつもは引き締まった表情もゆるゆるになっていた。
(だ、誰? この人誰!?)
思わず言ってしまうそうになった。
それほどの変貌っぷりをアリシアさんは見せたのである。
「あ、アリシアさん……?」
勢いに完全敗北を喫した俺が少し引き気味に名を呼ぶと、アリシアさんは我に返ったのか、
「はっ……! も、申し訳ありませんランス様。お見苦しいところを……」
いつものアリシアさんに戻った。
(なに、アリシアさんってもしや二重人格者なの?)
いつものアリシアさんを表とすれば、完全に裏が出ていたシーンだった。
(なんかソフィアもそうだけど、王族関係者って個性強い人多くね?)
国王陛下もかなりの親バカだし……
「ランス様、とりあえずソフィア様は私が部屋までお連れします。後、お風呂の準備ができておりますので、お好きなタイミングでお入りください」
「あ、ありがとうございます……」
俺はソフィアをアリシアさんに預け、ようやく解放。
アリシアさんはペコっと一礼する。
「では、私は一度これにて……あっ」
アリシアさんは一度振り返ると、何かを思い出したのか立ち止まる。
そして再び俺の方へと目線を向けてくると、
「そういえば、ランス様にお手紙が届いていましたよ」
「俺にですか?」
アリシアさんはソフィアを片手で抱えながら懐から一枚の便箋を取り出した。
「これを」
差し出してきた便箋を受け取ると、アリシアさんは再びお辞儀をし、
「では、失礼致します」
スタスタと去って行った。
「……なんか、すげぇのを見てしまった気がするな」
いつもは無表情かつしっかりとした感じのアリシアさんをあそこまで変えてしまうとは……
それに笑っているアリシアさんを見たのは初めてかも。
やはり人はみかけによらないなってことを最近になって重々思うようになった。
ま、今はそのことは置いておくことにしよう。
それよりもこの手紙だ。
「宛先は俺の名前になっているけど、差出人が書いてないな……」
なんか怖いな。
薬物とか入ってないだろうな?
よくあるからな。悪戯とかでそういうの。
「さ、さすがにないよな……」
心配だったので手紙を少し振ってみることに。
(物は入っていないな……)
一応、光で手紙を翳してみると、一枚の紙が入っていることが分かった。
どうやら普通の手紙みたい。
「一体誰からの手紙だ……?」
そっと破らないように開封。
そして中に入っていた手紙を開くと、一番上に差出人の名前がデカデカと書かれていた。
「ど、ドロイドギルドマスター……?」