21.祝杯
ということで、例の酒場へとやってきました。
「「かんぱーいっ!」」
ジョッキをぶつけ、初クエストクリアを祝う。
時間もちょうど夕暮れ時になり、あの時は閑古鳥がないていた酒場も今では沢山の人たちで賑わっていた。
今は馴れ馴れしく接してしまっているが、相手は一国の姫君。
やはり格式の高いお店がいいかなと最初は思ったが、ソフィアが大衆酒場の方がいいというので初めて会話した時に使ったこの場所となった。
「ぷはーっ! やっぱここのグレープジュースは最高だな!」
身体に溜まった疲れが少しずつ消えていく。
初めてクエストをやりっきった感じがあった。
(今まではクエストと呼べるほどのことをしてこなかったからな)
それに今回のクエスト報酬だけでいつもやっていたクエストの10回分に相当するっていう……
今までどれだけ割に合わないことをやってきたかがよく分かった。
対してソフィアも見た目に似合わず良い飲みっぷり。
一回でジョッキに注がれた飲み物を飲み干してしまった。
「ぷはーっ! 久しぶりにお酒を飲みましたが、やはり美味しいです」
「あれ? さっきのってお酒だったの?」
「はい。カルア酒という地方酒だそうです」
(え? ってことはソフィアって……)
俺はまさかと思い、ある質問を飛ばしてみることに。
「あ、あの……ソフィア」
「はい?」
「今更なんだけど、ソフィアって歳はいくつなの?」
「今年で20になりました。あれ? 言ってませんでしたか?」
「は、初耳です。それ……」
ってことはソフィアは俺より年上ということか。
今更だが、俺は彼女の歳を聞いたことがなかった。
見た目だけで判断していたから、同い年か少し下かと思っていた。
(あ、でもそういえば王城に行く時にアルバートさんがソフィアに仕えてから20年が経つって言ってたよな……)
逆にソフィアは俺の歳を知っているみたいだった。
「ま、まさか年上だったなんて……すみません、なんか偉そうにしてしまって」
「ぜ、全然大丈夫ですよ! 気にしないでください! 確かに見た目だけだと幼く見えるので仕方ないです。よく城内で開かれるパーティーとかでも子供と間違われたりしますし……」
ソフィアは息をつく間もなく続けた。
「それに、ランスにはいつも通り気兼ねなく接していただきたいです。その方が、その……落ち着くというか……」
「落ち着く?」
最後の言葉が聞き取れなかったので再度聞いてみると、ソフィアは顔を赤くし、
「い、いえ! 何でもありません。と、とにかくランスには今まで通りに接していただきたいということです!」
「お、おう……分かった」
勢いよく身を乗り出しながらそう訴えてくる。
なんか結構険しい顔を向けながら。
俺、なんかしたかな?
「お待たせしました~~~!」
と、ここで予め注文していた料理が一斉にテーブルの上に。
少し大きめのテーブルに所狭しと並べられる。
どれもおいしそうで腹ペコだった俺たちの目線は一気に料理の方へ向いた。
「うおっ、めっちゃうまそう!」
「ですね! あ、すみません。カルア酒、もう3杯追加でお願いします」
「かしこまりました~~~!」
ソフィアは何の躊躇もなくお酒を3杯追加する。
もしかして結構お酒強かったりするのか……?
「け、結構飲むんだね……」
「はい! 実はお酒は成人の儀以来飲んでいなくて、沢山飲もうとしたら何故か途中でお父様に止められてしまったのであまり飲めなかったんです。なので今日はいっぱい飲もうと!」
「そ、そうか。未成年の俺が言うのもあれだけど、ほどほどにな」
「大丈夫です! 加減はできる方だと思うので!」
(だといいけど……)
お酒って人を変える力があるからなぁ……。
特にうちの両親とかそうだったし……。
(ま、でも今日は宴なんだ。そこまで気にする必要はないか)
と、そんなわけで俺たちの宴は盛大に始まったのであった。
……のだが。
「……ねぇランスぅ~どうして君はそんなにつよいのぉ~~?」
「そ、ソフィア?」
宴が始まって約1時間とちょっと経ったとき。
事件は起こった。
ソフィアの様子が酔によって一変したのである。
「お姉さん、お酒ぇ〜!」
「は、はい……かしこまりました」
ウエイトレスのお姉さんも少し引き気味に答える。
何とこれで驚異の20杯目なのだ。
「ソフィア、流石に飲みすぎじゃ……」
「まだいけるよぉ~(ひっく)。疲れを癒やすにはまだ足りないの~(ひっく)」
……どう見ても酔っているよな、これ。
しかもかなりの悪酔い。
「で、でもこれ以上飲むと明日に響くし……今日はもうこれくらいで――」
「やぁーだっ! もっと飲むの!」
ソフィアは言葉を遮り、即否定。
しゃっくりをしながらジョッキを机に叩きつける。
(ま、まるで別人だ……)
思考回路がざっと-10歳減と言ったところか。
普段のソフィアとは全くといって良いほど気品がない。
口調もなんだか一気に子供っぽくなったし……。
国王陛下が止めた理由がよく分かった。
そして同時に理解した。
この人はお酒を与えてはいけない人だということを。
「ランスぅ〜お酒ぇ〜」
マズイ。
俺の中にあるソフィアの人物像がどんどん崩れ去っていく。
(これは早いところ、連れ帰った方が良さそうだな……)
でもどうやって?
今のままじゃ、どんどん酷くなるばかりだし……
そう思っていたその時だ。
「お困りのようですね、お兄さん」
背後から聞こえてくる誰かの声。
振り向くとそこには、さらりとした金色の髪を持ったイケメンが立っていた。