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20.二人の初クエスト


 俺とソフィアは今、クエストでとある山岳地帯にいる。

 

 で、今はちょっとヤバイ状況に遭っていた。


「こ、これって……」


「レッドウルフだ。しかもこんなにもいるとは……」

 

 そう、今回の標的レッドウルフにいつの間にか取り囲まれていたのである。

 

(魔法発動による魔力に引き寄せられてきたってとこか……?)


 群れの討伐というくらいだからせいぜい数十匹程度だと思っていたが、これは恐らく数百はいる。

 ギルドでの情報も10~30匹となっていたのに、大幅な超過だ。


(たまにあてにならない時あるんだよなぁ……ギルドの事前情報)


 でもこればっかりは仕方ない。

 今はどう対処するかを考えるのが先決だ。

 

 それに、一番心配なのが……


「大丈夫か、ソフィア。少し大掛かりな仕事になりそうだけど……」


「だ、大丈夫です。少し緊張はしますけど……」


 ソフィアがこの状況をどう思っているか、ということだった。

 初心冒険者ならこの時点でもう腰を抜かしてしまうことが多い。


 経験が浅いため、想定外の出来事に弱いからだ。


 だがソフィアは違った。

 むしろやる気に満ちた目をしている。


(流石は王女様。この程度じゃ全く屈しないか)


 でもちょうどいい機会だ。

 教える前に実戦に入ってしまったが、逆にこういった場面でしか味わえない経験もある。


 正直、口頭で教えるより身体で覚えた方が早い。


 座学も大事ではあるけど、それ以上に経験は魔法使いにとっては必須なものだ。


 確かに初めてにしては少し荷が重い気はするけど……


「ソフィア、向こう半分の敵を任せてもいいか?」


「えっ!? わたしがですか!?」


「ああ。いけそうか?」


「で、でもわたしは攻撃魔法が……」


「分かってる。でも苦手意識を完全に持ってしまったらダメだ。そうなるともう人ってのは学ぼうとしなくなるからな」


 現に俺がそうだった。

 特に学生時代はやりたくないことから逃げまくっていた。


 今思えば真面目にやっておけば良かったなと思うこともある。

 

「何事も挑戦だ。たとえ無理だとしてもやってみることに意味があるんだ」


「何事も挑戦……ですか」


「そうだ。大丈夫、何かあったら俺がカバーするから」


 ソフィアは一瞬だけ考えるように顔を下に向ける。

 だがすぐに顔を上げると、


「分かりました。やってみます!」


 キリッとした眼を向け、そう言い放つ。

 その表情には不安という二文字はもう既に存在していなかった。


「よっしゃ! じゃあ頼んだぞ!」


 ちょっと無理矢理な頼みかなとは思っている。

 でもさっきのソフィアの魔法を見て何となくこう思ったのだ。


 彼女なら大丈夫だろうって。


(まぁ、俺の勝手な期待なんだけど)


「準備はいいか?」


「わ、わたしはいつでも!」


「よし、じゃあ始めるか!」

 

 ジリジリと寄って来るレッドウルフの大群。

 向こうもすぐに飛びついてこないのは恐らく警戒しているからなのだろう。


 犬歯を向け、だらだらとヨダレを垂らしている。

 

(お腹を空かしているようだな)


 だが奴らのエサになるわけにはいかない。


 俺たちは身構え、臨戦態勢を整える。


「行くぞ……!」


「は、はい!」


 俺とソフィアは魔法発動の準備に取り掛かる。

 するとそれを見越したかのようにレッドウルフたちが一斉に飛びかかってきた。


(……狙っていたのか?)


 でもある程度距離があったため、対処は可能。


「≪セイント・ウィンド≫!」


 風属性の魔法と光属性を組み合わせた複合魔法を放つ。

 一回の魔法で複数体の相手が出来る複合魔法だ。


 ――GYAAAAAAAAAAAAAA!


 発生が早く弾速も速い光の礫がレッドウルフたちを襲う。

 そして次々と無残に倒れていくレッドウルフたち。


 対してソフィアの方はというと……


「火の雨よ、降りそそげ! ≪ファイア・レイン≫!」


 ゆっくりだが何体かは倒していた。

 でもかなり苦戦を強いられている様子。


 俺はすぐにカバーに入る。


「大丈夫か?」


「は、はい……でもすごい魔法耐性です。複数回当てないと倒せません」


 レッドウルフは魔法耐性の強いモンスターだ。

 だから俺たちのような魔術師にとっては割と面倒な相手。

 

 一発で仕留めるにはそれなりに高威力な魔法を一挙に叩きこむ必要がある。


 なぜそんなことが分かるかって?


 実は今までクエスト外で魔法を実践するために色んなモンスターと戦ってきたから知識はそれなりにある。


 ただ等級のせいでクエストが受けられないからお金は貰えないだけって話。


 レッドウルフとはもう何度か対峙している。

 

「まだいけそうか?」


「大丈夫です。魔力はまだ全然持ちます!」


 もう既に何発か連発しているようだが、疲れは見えなかった。

 少しこの状況に慣れてきたのか、表情をさっきよりも軟らかくなったような気がする。


 そしてようやく半分くらい減ったところで俺は戦闘をしながらソフィアにある助言をしてみることに。


「ソフィア、一ついいか?」


「は、はい?」


「魔法を放つ時に心がけていることってあるか?」


「こ、心がけていることですか? えーっと……一言で言えばイメージですかね」


「そう、それだっ!」


 まさに俺が教えようとしていた回答が飛び出し、思わず声が張りあがってしまった。

 

 でも正しくその通りで魔法にはイメージが不可欠。


 基本的に脳内のイメージを具現化させたのが魔法だって言われているくらいだから、イメージが湧かないものを形にすることなど不可能なのだ。


「やはりイメージが重要なのですか?」


「もちろん。でもあともう一つ大切なものがある。……”感情”だ」


「感情?」


 もう一つ、魔法を放つ時に必要な要素がある。

 それは感情による意識の操作だ。


 人は喜怒哀楽の四つの感情を持ち、日々を送っている。

 学者的に言えば感情の生き物というべき存在だ。


 そして魔法もまた、感情によって変わる。


 例えば俺の場合、攻撃魔法を放つ時には相手を倒す、倒したいという意識を意図的に働かせている。

 逆に防御魔法を展開させる時は防ぎたいという意識を表面化させているのだ。


 これとイメージを組み合わせることによって同じ魔法でも全く違うものになったりする。


 これは俺が一年にも及ぶ魔法研究によって独自に発見したことだ。

 それまでは座学で学んだことが全てだと思い込んでいた。


 でもそれは違う。


 要はただ呪文(スペル)を詠唱することだけじゃないってわけだ。


「今度はイメージと同時に感情を加えてみるんだ。多分、ソフィアのセンスなら何かしらの変化が現れると思うぞ」


「なるほど……分かりました。やってみます!」


 ソフィアは再び、呪文(スペル)の詠唱に入る。

 その間、俺は猛進してくるレッドウルフたちを次々に張り倒していく。


 もう数も見える範囲では7割方削ったかというところ。


 そしてソフィアが詠唱を済ませると、俺は一旦後ろに下がる。


「行きます、ランス!」


「おう、やったれ!」


 ソフィアはコクリと頷くと、最後のスペルを綴った。


「燃え盛る業火の雨よ、今ここへ降りそそげ! ≪フレア・レイン≫!」


 瞬間。

 先ほどよりも高威力化した火の雨がレッドウルフたちに降り注ぐ。

 

 それはもうさっきまでとは段違いの威力。

 苦戦したはずのレッドウルフに対し、ソフィアの一撃は圧倒していた。


「す、すげぇ……」


 思わず声に出てしまう。

 そして次々とレッドウルフたちは地に伏し、気がつけば残った3割は彼女に手によって片付けられていた。


(た、たった一言のヒントでここまでになるとは……)


 どうりで一か月であそこまで成長できるわけだ。

 呑み込みが早い。


「ど、どうでしたか? わたしの魔法は」


 全てが終わると、ソフィアは俺の元へと寄って来る。


「いや、驚いたよ。まさかあの一言でここまで腕をあげるなんて」


「ほ、本当ですか? 上手くやれてましたか?」


「おう、バッチグーだ!」


 そういうとソフィアはニッコリと微笑んだ。

 そしてソフィアは周りに伏すレッドウルフたちの死骸を見ると、


「これで全部……でしょうか?」


「多分な。周りにモンスターの気配もないし」


「じゃあ……」


「クエスト完了だ。後はギルドに報告だな」


 初めて二人でのクエスト完了。

 それに歓喜を覚えたのかソフィアは何だか嬉しそうだった。


 かくいう俺もこれがパーティーを組んでの初クエストクリア。

 割と嬉しい。


 なんかソロよりも達成感が湧いてくる。


「とりあえず帰るか。お腹もすいたし」


「ですね! わたしもお腹すきました!」


「んじゃ、初クエストクリアの祝杯でもしようか」


「いいですね! 賛成です!」

 

 と、いうことで。

 俺たちは一通り辺りを見て問題がないかを確認すると、王都へ向けて足を動かすのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さすが適正S 成長はんぱない! [気になる点] ギルドの事前情報 笊過ぎじゃね?
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